入学
「じゃあ、行ってきます!おじいちゃん、おばあちゃん。」
「うむ、頑張ってくるのじゃぞ?」
「ええ、気を付けてね。」
俺はおじいちゃん達が手配した屋敷を出て、学園に向かう。
…楽しみだ。友達できるかな。ソフィアと同じクラスになれたらいいな。
着いた。それに、ソフィアとリリアンもいる。
「やあ、おはよう。久しぶりだね。」
「あ!ウィル君だ!久しぶり~。」
リリアンが返事をしてくれる。
「ッ!///…あ、その…お、おはよぅございます。」
ソフィアがリリアンの背中に隠れるようにして、呟くように言った。
…え?怯えられてる?
あ、確かにあの時、ソフィアにも殺気の余波を当ててしまったけど…
そんな!ソフィアと仲良くなりたかったのに、もう、嫌われてる。
「…ぅん。学校、行こっか。」
俺はもう、これしか言えなかった。
やった!ソフィアと同じクラスだ!これは嬉しい!
…よーし。嫌われてしまったのは痛いけど、これから取り返そう。そうしよう。
「これから一年間、よろしくね。ソフィア。」
「あ、ひゃ、ひゃいぃ。///」
まだ少し距離を感じるが、今はこれでもいい。同じクラスだし、これからだ。
「あの~、私も同じクラスなんだけどな~。」
リリアンが愚痴るように言った。
「あ、ごめん。すっかり忘れてた。…よろしくね。」
「ご、ごめんなさい。でも、リリアンと同じクラスになれて嬉しいよ。」
「え!?ウィルはともかく、ソフィアまで忘れてたの!?」
リリアンは口をあんぐりと開けて叫ぶ。
「ごめんなさい。」
「がくっ」
ソフィアは頭を下げ、リリアンは白目で膝をつく。
「え?…リリアン?リリアン!しっかりして!」
「ショック、私、ソフィアにまで、忘れられちゃった。…確かに昔から、そこまで目立たなかったけどさ。それはあんまりじゃない?…」
リリアンが白目のまま何かをぶつぶつと言っている。
…合掌。
ん?
「なあ、これって…」
俺はクラス発表用紙のある箇所を示す。
「え…」
「うわ~、最悪。何でこいつもいるのかなぁ。…あ、でも、知ってる?こいつの噂。」
リリアンが聞いてくる。
俺はソフィアの方を見る。だが、ソフィアも知らないようだ。首を傾げている。
「いや、知らないな。」
「確か…試験の時、凄くみっともない姿でウィルから逃げていたでしょ?あれが今、王都中で広まってるの。」
「へえ~」
良いことしたのかな?
「それで、オリバーの父親の、侯爵様が切れたらしくてね。オリバーは自室謹慎の上、家から追放されたってわけ。…まあ、噂だけどね。」
「ってことは、オリバーは今、平民と変わらないってこと?」
俺は聞いてみる。
「正確には平民そのものよ。それも、元貴族っていう、不人気なレッテルを張られた平民。」
「ほえ~。じゃあ、もうソフィアにちょっかいかけて来ないのかな?」
「それは噂がどこまで正確かという事次第ね。噂の一つに、自分から平民落ちを望んだとか、ありえないようなものがある位だから、今言ったことも全部間違っているかもしれないわ。」
そうか…なら、まだ警戒はしておこう。
「酷い言われ様だねぇ。…まあ、仕方ないか。僕がこの体を選んだんだ。こうなることも承知だったけどね。」
…ッ!?
俺は自分の目を、耳を疑った。
声の方にはオリバーがいた。俺の背後に、立っていた。
今も、探索魔法に反応しない。そんな事、今まで一度も無かった。
「オリバー・キャンベル。何をしに来た!?」
俺はソフィアを背後に、オリバーを睨む。
「ん?自分のクラスを見に来ただけだよ。…あと、僕はオリバーだ。平民のね。」
なんだと!?噂は本当だったのか。だが、何でこんなに落ち着いているんだ!?
「へえ~、噂は本当だったのか。おい!平民落ちのオリバー!お前、以前はよくも舐めた真似してくれたなぁ!」
「そうだ!平民のお前は、子爵家の兄貴に媚びへつらうがいい!」
男二人組が周囲に聞こえるような声でオリバーを貶める。
「ん?君たちは誰だい?残念だが、覚えてないね。」
オリバーはおどけるように肩をすくめる。
「ああん!?おい平民、俺様に対する礼儀がなってないぞ?もうお前が侯爵家の権力を振るうことなど、できはしないのだぞ?…ほら、謝るなら今のうちだぞ?」
「ケケケ、ちゃんと額を地べたに擦り付けてなあ。」
男二人は、続けてオリバーに言う。
「Aクラスか。えっと…あれがその教室かな。」
オリバーは手元の紙を見て男二人組の右側に視線を送り、そのままそっちに歩き出した。
「おいてめえ!俺様を無視するとは、良いどきょ…」
オリバーの肩を掴もうとした子爵家の方の男が倒れる。…何があったんだ!?
「あ、兄貴?あれ?目が…」
取り巻きの方も続けて倒れた。魔力は感じなかった。まさか、毒か!?
俺はこちら側が風上になるように魔法を発動する。
「あれぇ?どうかしたの?…まあ、いいや。おやすみ~。」
オリバーは白々しく言い残し、教室の方へと歩いて行った。
「…な、何をしたの?」
「魔力も何も、感じませんでした。」
リリアンとソフィアもオリバーの違和感に気付いたようだ。
「嫌な予感がする。二人とも、あまり気を抜きすぎるなよ。」
俺は二人に警告をする。
「はい、気を付けます。」
「あ!そうだ、それならウィルがソフィアの送り迎えをしたら?これなら安心でしょ?」
リリアンがそう提案してきた。
「あ~、なるほど。確かにそれはいいかも!」
毎朝ソフィアに会えるなんて、最高だ!
「えっ、ふぇええ!?///…そ、そんな、迷惑ですよぅ。」
「そんな訳ないだろう!俺は、君の役に立てるならできる限りのことはするよ!」
ソフィアの為なら、惜しくないって思えるんだ。
「ひゅう~、かっこいいね~。…ね、ソフィア。」
「あ、うう、///えと、はい。よろしく、お願いします。」
ソフィアが顔を赤く染めてお辞儀をする。
…破壊力がすげえ。可愛すぎる。
この子は、俺が絶対に守らなきゃ、だな。