ベルトリア
「なんだ?金でも欲しいのか?残念だが、親戚に分配されたと思うぞ?」
僕は悪魔に目的を尋ねる。
「いいえ、私は魂が欲しいのです。悪魔が自分の存在を高める為には大量の魂が必要ですので。」
「魂…まさか僕の、とか言わないよな?」
嫌な事を思いついてしまった。
「ん~、確かにあなたの魂は上質ですし、今すぐ食べてしまいたいと思っていますが、それより、あなたには魂の収集をしてもらいたいのです。」
マジか、僕、美味しそうなの?
「そして、それをアンタに捧げろ、と?」
推論を言う。
「ええ。察しが良くて助かります。…やっぱり、少しだけ頂いても、いいですか?」
そう声が届いた時、目の前にいたはずのベルトリアが背後から抱き着いていた。
…なるほど。胸も僕好みの、控えめだが、確かにある位の大きさだ。
いや、そうじゃなくて!
嫌な予感がする。金縛りのように体が動かない。
一体、何をする気…
カプッ
…
チュー、チュー
…
…あー、そういうこと?
血を、吸われている。しかも、首筋から。
うわ~、これ、そういうやつだ。吸われている側が抵抗しないよう、快楽を与えてくるアレだ。…まあ、魂を喰われるようなことにはならなかっただけ、マシだけどさ。
あんな美人さんが首筋に嚙みついているってだけでも興奮するのに、これはまずい。もはや苦痛にすら感じてきた。
「ぐうっ!」
僕はたまらず、体を振り回してベルトリアから距離を取る。
「っきゃあ!」
ベルトリアはその動きに予想外だったのか、尻餅を付く。
「あ~、酷い目に遭った。急に何をするんだ。」
「あ、ご、ごめんなさい。久しぶりに人間に会ったから、つい、たまらなくて…」
ベルトリアは申し訳なさそうにして、目を伏せる。
「いや、もういい。その代わり、早く転生させろ。」
「あ、えと、次の転生者はあと十年経たないといけなくて…」
なんだと?
「十年も、待てと言うのか?」
「はい。規則でそうなっており、私では破ることができません。それに、その世界には魔法や魔物と言うものが存在しています。今、あなたが転生しても、最高の教育を受けた彼には敵わないでしょう。」
「最高の教育だと?」
良い家にでも生まれたか?
「はい。あの世界では『生きる救世の英雄』である勇者に拾われ、孫同然に育てられています。さらに、あなたの世界の頃の記憶も保持しています。」
「マジかよ。…っく、くく、くはははは!じゃあ、覚えてるのか!アイツが僕を陥れたことを!」
最高じゃないか。だが、
「なるほど、それなら勝てないかもしれないな…」
搦手が通じるかどうか、いや、魔法がどんなものか分からないし、どうしようもないな。
「ええ、ですから、その…私がその世界や魔法について教えますよ?」
「だから血を吸わせろと?」
「え、う、はいぃ。」
ベルトリアはバツが悪そうに頷く。…こんな事だろうと思ったよ。
「まあ、いいや。これから頼むよ、ベルトリア。」
「っ!、はい!」
十年後、
やっとだ。やっと行ける。長かった。
今日、僕は転生する。
転生先はオリバー・キャンベルと言う男だ。僕と同じようにアイツに恨みを抱いているから。
「よし、じゃあ、行ってきます。ありがとうね、ベル。この十年、実に有意義だったよ。…またね。」
「はい。ぐすっ、寂しいですが、またいつか、会えますよね?」
「ああ、僕は君の事が気に入った。この復讐を終わらせれば、また会える。…いや、僕が会いに行こう。」
もはや僕が彼女に、最初に抱いていた疑念や警戒は無い。
前世の家族よりも気の置けない仲になった。
「気に入ったのでしたら、手を出してもよろしかったのですよ?」
ベルが顔を赤く染めてそう言う。
…ベルはそういうことにほとんど免疫が無いので、言うだけで精一杯らしい。
「あ~、それはねぇ、別れづらくなるし、それに…」
僕はベルに近づき、キスをする。
そういえば、自分からそういうことをしようと思ったのは初めてだな。
「帰ってきたらのお楽しみ、だね。」
「ッ!?///あ…え、は、はい。楽しみに、待ってます。///」
おっと、今ここで手を出せば格好がつかないぞ?僕。
…まったく、見事なまでに、悪魔だね。
それを最後に、僕の思考は途切れた。