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悪魔

僕はもう、五十歳になる。これから、人生を楽しむ予定だ。僕は今まで、このために努力し続けていた。


それは、貯金だ。


僕の所得はそれなりに良い方だ。そして、日々、節約に節約を重ねた。節電、節水はもちろん、服も普段使いしか持っていないし、住んでいる所は月五万のボロアパート。食費も切り詰めていた。娯楽だって、友人の家に行き、パーティーとかに混ぜて貰ったりして、自分では一切金を出さなかった。


…長かった。だが、それももう終わりだ。ようやく望みが叶えられる。


なぜ僕はこんなにも金を貯めていたのか、だって?


ふふふ、それはね…


これからの人生、遊びまくって終わりたかったのだ。


ああ、楽しみだ。


そうだな。まずは、回らない寿司屋に行ってみよう。子供の頃、親に連れて行ってもらった時以来だ。


楽しみだ。僕の人生はこれから始まるのだ!


僕は、ぼろっちい中古の車に乗って寿司屋に向かう。


しばらくして、信号に引っかかってしまった。このまま直進してしまいたい位だが、それではこれからの人生設計がおじゃんだ。僕は待つ。


…よし、青になったな。


僕はアクセルを踏む。もちろん速度は標識通りだ。つまり、安全運転。


…僕は、だったが。


僕の車の目の前に、おそらく高校生であろう男が、信号を無視して歩いてきた。


歩きスマホだ。


まずい!そう思った時にはもう遅かった。僕は力の限りブレーキを踏んだが、その時には男を轢いていた。


やっちまった…のか?僕が、悪いのか?


いきなり出てきた奴が悪いだろう!?スマホを見て、信号を無視した奴が!




結果から言うと、僕は殺人の罪で無期懲役になった。


多額の金をつぎ込んで弁護士を雇った。


だが、そいつは僕が轢いた男の知り合いだったらしい。見事に嵌められた。


しかも去り際に、『アイツの仇だ、クソ野郎。』と、言いやがった。


…なんで?


初めはよく分からなかった。所謂、現実逃避だ。


だが、一週間も経てば実感が湧いてくる。僕の今までの人生が無意味なものになったことの。


ふざけるな!なんで、僕がこんな目に遭わなければいけないんだ!僕が何をしたと!?


なぜ、よりにもよって、今なんだ!?今から、やっと楽しめると、思った矢先に!


僕じゃない!僕はちゃんと規則に従った。この事故はアイツの自己責任だろう!?


それを、知り合いだからと僕に罪を擦り付けた。


…何がしたいんだ!?アイツはもう、死んでいるのに!なぜ生きている僕から幸せを奪うなどという無駄なことをするのだ!?


僕はもう、十分に苦しんだ!そして、やっとそれから解放されるだけの金を貯めた。


でも、もうそれも無意味だ。一生、刑務所暮らしだ。




もう、いいや。疲れた。


…僕は運が無かった。それだけだ。


…そう。


それだけ…







なんて、納得できればこんな人生、歩んでねえんだよ!ふざけるな!


いや、今、冷静になるんだ。僕は今から、アイツを追う。


僕の幸せを奪った、全ての元凶だ。


死んでも、追いかけ続けてやる。



僕の楽しみを奪ったんだ。お前は僕を、楽しませてくれるよなぁ!?


待っていろ、簡単には殺さない。まずは、僕と同じように、幸せになってもらわないとだ。


それから、絶望のどん底に突き落としてやる。


くはは、その顔を想像するだけで、笑いがこみあげてくる。



…待っていろ、絶対、絶対だ。


僕はそう決意して、自分の目を抉り出し、指を脳に突き刺して自殺した。














「面白い男ですね。これ程までの醜い『感情』、初めて見るかもしれません。」


…なんだ?死ねなかったのか?十分に脳を壊せたと思ったんだが。


「いいえ?あなたは死にました。…ここはあなたが望んでいた、死後の世界です。」


なんだと!?


「いよっしゃあああ!…で!?アイツは、一体どこにいるんだ!?」


幸先が良いな。これまでの不幸のツケが返ってきたのかもなぁ。


「あなたが探している男はもう転生しています。今は一人の子供ですね。」


「へえ、そいつは幸せなのか?もう、壊してもいいのか!?」


いいだろう?幸せなら、壊しても。もう、待ちきれないんだよ。


「そうですね。中々に幸せそうですが、やはりまだ子供なので。思春期まで待った方が、そいつの心を砕きやすいと思いますよ?」


うわぉ、ん?そういえば、この女は誰だ?容姿と言い、性格と言い、惚れそうなほど魅力的だ。


「なあ、あんたは何だ?まさか、閻魔様とか言わないよな?」


僕はおどけて見せる。


「そのようなわけがないでしょう。私とあのお方を比べるなど、失礼にも程がありますよ?」


…マジか。いるんだ、閻魔様。


「私はベルトリア。ただの一介の最高位悪魔に過ぎません。」


「悪魔!?…それも最高位の、ねぇ。なるほど、納得だ。僕が一目見ただけで魅了されてしまったのも、頷ける。」


「へあっ!?///」


ん?…もしかして、意外と初心なのか?顔を真っ赤にして、取り乱している。可愛いなぁ。この復讐が終わったら、この子を人生の目標にでもしようかな。…なんてね。


「ん、///こほん。揶揄わないでくださいよ。」


「揶揄ってはいないよ?本当だし、本気だとも。もっと君の事が知りたいとさえ思っている。…まあ、やることが終わってからだけどね。」


「え!?あ、えぅ、///もう、勘弁してください。」


打たれ弱いな。この最高位悪魔。


「まあ、それより、そこに僕も転生してくれない?僕の事も知ってるっぽいし、説明はいらないよね?」


「え?あぁ、そうですねぇ、ふむ。やはり、タダではできません。」


ほう、なんだと?

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