プロローグ
俺はさっき、交通事故で死んだ。
原因は、俺が歩きスマホで信号を無視してしまったからだ。でも、今の俺は、赤ん坊だ。
生後数か月くらいだろうか。思うように体を動かせない。耳も聞こえにくいし、目も少ししか見えない。
それでも、なぜか自分は赤ん坊だという、自覚のようなものがある。おそらくこれは、転生なのだろう。
なぜ記憶があるのかは分からないが、死んでしまったものは仕方がない。それより、新しい人生を楽しむことが第一だ。
というわけで、五年が経った。
どうやら、ここは地球ではないらしい。なんでも、『フィルオーレ』という世界のようだ。
「お~い!ウィル!どこに行ったんじゃあ~?」
一人のお爺ちゃんが俺の名前を呼んで歩いてきた。
この人は『ルーカス・マーティン』。転生した直後、俺は一人、森にいた。赤ん坊だったため、何もできなかったが、この人が俺を拾ってくれたのだ。そして実の孫のように溺愛してくれている。俺も、おじいちゃんと呼び、とても慕っているのだ。
おじいちゃんは昔、世界の危機を救ったとかで救世の英雄、『勇者』と呼ばれている…らしい。俺はまだ、この山と森から出たことが無い。そのため、町でなんて呼ばれているのかは、本人からしか聞けないのだ。
「あなた、探索魔法を使いなさいな。そこにいるでしょう?」
このお婆ちゃんは『カミラ・マーティン』といい、おじいちゃんの妻だ。いつも冷静だが、俺には少し甘い。
そして、さっき、おばあちゃんが言ったように、この世界には魔法がある。
魔法はイメージが全てだと言っても、過言ではない。俺は、前世の知識のおかげか、簡単に発動できてしまった。おじいちゃんとおばあちゃんは例外らしいが、普通はイメージしやすいように声を出して発動するらしい。
「おお!ウィル、何をしておったのじゃ?…って、これは!ビッグボアの魔石ではないか!?まさか、ウィル、お主がやったのか?」
「うん。なんか、いたから倒したの!」
俺はおじいちゃんの問いに答える。
そう。定番だが、この世界には魔物もいる。魔物は絶命すると、体を構成していた魔力が一点に凝縮され、『魔石』という、エネルギー源になる。
魔石は魔道具によく使われる。前世で言う、電池の様なものだ。
「おばあちゃん!これ使って、新しい魔道具、作ってみようよ!」
おばあちゃんは『神の手』と呼ばれるほど、魔道具を作るのが上手いらしい。実際、見事な手際だった。
俺はこの二人からいろんなものを学んでいく。
言語、魔法、魔道具、魔物、狩り、家事、炊事、裁縫、話術、そして、心構え。他にもまだまだあるが、生まれてからの十五年、俺は立派な成人になったはずだ。
成人したので、前から聞いていた『冒険者』という職業に就きたいと思い、町に行くことを二人に伝えた。すると、
「なんじゃと?もうすでに、魔法学園の入学試験の手続きは終わっているのじゃが…」
と、おじいちゃん。
「冒険者になりたいのなら、魔法学園で学んでからになさい。あと、友人は選ぶのですよ?」
おばあちゃんもそう言った。
「え?聞いてないよ?俺、学園に行くの?」
「「もちろん(じゃ)(でしょう?)」」
「あ、そうなんだ。」
知らなかったなぁ。まあ、いいや。学園というのも、面白そうだしね。