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「星新一賞」ボツネタ

人手不足

作者: 梅津高重

「よーし、いったれー」

「ぎゃははは、ほんまに入りよった!!」

 月面鉱山の荒くれ者たちは、酒が禁止されているはずの基地内で粉末アルコールをどこかから調達して、今日も今日とて酒盛りをしていた。

「ほれ、来いよ、アホども」

 謎の装置に入ったのは中でも特にお調子者で巨漢のタカシ。筋肉をひけらかすため、月面でもトレーニングだけは欠かしていない。

 場所は、ついさっき見つけた空洞の中。与圧鉱山が掘り進んでいたすぐ横に空洞があったようで、宴会の喧噪のためか、真空だった向こう側へと壁が崩れて繋がったのだ。その中に妙なものを見つけて、皆で大盛り上がりしているところだった。

 少し考えれば、月の、初めて掘り進めるところに人工物が埋まっているはずがないことは分かるはずだ。それがどれだけとんでもない発見なのか、まともな神経であれば、鳥肌が立ってしかるべきところだ。

 が、酔っぱらいたちにとっては珍しい話の種でしかなかった。

「はい、どーん」

 ちょうど人が入れるぐらいの装置のくぼみにはまり込んだタカシの誘いに乗った男が、装置のボタンを叩いた。いかにもそこを押せと言わんばかりの大きなボタンが付いていたのだからしょうがない。

 装置が輝きだし、どこから出てきたのか、ばたん、とくぼみに蓋がされた。

 まさかのことにさすがの男たちも青ざめ……

「閉まりやがった!」

「食われたよ!食われた!!」

 ……ることはなかった。皆が指を指して爆笑し、思い思いにはやし立てる。

「きゃーあー、たすけてけれー」

 閉じ込められたタカシもそんな調子だった。

 そして装置は静かに振動し、やがて強烈な光を発した。

「うわ、なんだこら、やるきか、こら!」

「目がー!目がー!!」

 思い思いのリアクションで盛り上がっていると、装置の蓋が開いた。

「ただいま戻りましたっ!!」

 転がり出たタカシがおどけて敬礼する。

「なんだよ、出てくんなよ」

「一体なんだってんだ、これ。エステか?」

 言ってきた相手に、毛むくじゃらの手を見せて、これ見てつるっつる、と返し笑い合うタカシ。

 そんな風に馬鹿をやっていると装置の下の部分が開いて、でかいブツが、ごろんと吐き出された。

 それは、直立の姿勢で透明な真空パックをされた全裸のタカシ、としか言いようがないものだった。

「ちょっ!!きめぇ!」

「でかい粗大ゴミ!」

「きったねぇオブジェ!!」

 最後の言葉はタカシ自身のものだった。

 お前が言うなと、皆、ひとしきり爆笑。

「おい、ナイフよこせ」

「開けんのかよ」

「飲むにゃあ、つまみが要るだろ」

「酒がまずくなる、やめろ」

 そう言ってまた爆笑。

「そらよ」

 ナイフでざっくりとビニール部分が切り開かれた。

 袋の中に空気が入っていき、全裸のタカシの体が弛緩する。……そして

「ごぼっ」

 ……と咳き込んで、ビニールの中のタカシは目を開いた。

「動いた!!」

(なま)かよっ!」

 と皆で大笑い。ここに至っても、冷静にことの重大さについて考える者はいなかった。

「なんだよこれ」

 薄目を開けた全裸のタカシがビニールから這い出てきた。

「おまえこそなんなんだよ」

 服を着た方のタカシが指を指してげらげら笑った。

「増えやがったっ!」

「並べ並べ!!」

 周りの酔っ払いに引っ立てられて2人のタカシが並んで立つ。2人はノリノリでポーズのどちらがより馬鹿かを競いだした。全裸の方が、特に全裸の時には絶対に避けるべきポーズで下半身を見せつける。

「お前も脱げ脱げ!」

 服を着た方のタカシも意味も無く全てを脱がされた。

 ほくろや怪我の跡、細部に至るまで全く見分けが付かない2人の姿。しらふだったならぞっとした話かも知れなかったが、酔っぱらいたちには酒宴を盛り上げる楽しいネタでしかなかった。

 そうして、どんちゃん騒ぎはいつものように深夜まで続いた。

 

 翌朝、始業準備のアラームに叩き起こされた面々は、酒類が無いはずなのだから、同じく月面には持ち込まれていないことになっているが何故か存在する二日酔い防止薬で正気を取り戻した。

 タカシが増えていることが悪酔いの見せた夢ではなかったことに、さすがに心底驚いた。ここに至って、ようやく、とんでもないことになったと理解したが、特に慌てることはなかった。

 まず、空洞も装置も見なかったことにして埋めた。

 無理な操業で管理が大ざっぱになってしまっている月面鉱山で起こる事故の多くは、杓子定規には処理されていない。会社が現場作業員らの、そのいつものやり方に気付いていないはずもないだろうが、今まで問題にされたこともない。

 タカシ本人に至っては、手が2倍になってラッキーとまで言い切った。交互にサボれば働く時間は今までの半分で済む、と。

 ……が、生活コストも当然2倍になる事にまで考えが及んでいなかった。

 ()()()()重生活はすぐに破綻した。

 のびのびと酒盛りするために鉱山の与圧区画に無断侵入するほど狭い生活区画だ。自分と一緒に2人で寝られるほどベッドも広くはない。食べ物の確保はより大変だった。数少ない楽しみである食事を、1人分も余分に確保しようとすれば周りから袋だたきにされる。

 タカシは、小さい子供が親に内緒で拾ってきたペットを隠れて飼うような生活をする羽目に陥ったが、狭い月面鉱山で、そのペットが慎重180cmの筋骨隆々のおっさんでは、とうてい隠しきれるものではない。

 程なく、周りの連中がSNSでネタにして、下手な合成写真と無視される所からじわじわと話が広がり、会社にばれて大目玉を食らった。

 例の空洞や装置は人類社会の知るところになった。

 世界中のトップ科学者たちからなる調査団が月面を訪れ、装置と共にタカシも徹底的な検査を受けた。

 皆が最も頭を抱えたことは、どちらのタカシが本物なのか分からないことだった。

 困ったことに、酒盛りを隠匿するため、鉱夫らに伝わるやり口で監視カメラは止められていた。問題となる行動が写ってしまうとそれに対処する必要が出てきてしまって面倒なため、監視する側もカメラの()調()は黙認するという悪習が常習化していた。

 当人たちも泥酔していて記憶が全く残っていない。2人とも、装置に入ったのは自分の方だ、絶対にそうだ、と主張しているのだが、彼らの記憶ではそうれはそうなるだろう。

 問題は、どちらが装置から転げ出て、どちらが真空パックから這い出てきたのか、そこが分からないことなのだが、2人ともどうにも要領を得なかった。

 結局、特例措置として、2人共に戸籍が与えられることになった。どちらをより本物扱いするわけにもいかなかったので、市民ID番号は2人共に新たなものが振り直された。財産は折半することになった。

 タカシらにとって幸いだったのは、ことの次第が、酷く間抜けな経緯と共にだらだらとメディアに露出する形で衆目の知るところになったことだった。

 なにしろ、人類史上初となる、人類文明のものとは思えない遺跡の発見の上に、それが、稼働可能な人間コピー装置と来ている。人類の宇宙観を揺るがす発見に、途方もない実用性を持った装置。その独占を目論むような誰かが初動で動いていたなら、酒宴参加者と共に発見は闇に葬られていてもおかしくはなかった。

 

 月の発掘ブームが起こって数年が経った。

 どうやら、遙か昔に、大量の例の装置を載せた宇宙船が月に墜落していたらしい。政府に許可された正式な調査を待つようにと何度も繰り返されたが、力を失いつつあった政府の通達を守る者はいなかった。我も我もと集まった非合法な発掘者により、次々にその痕跡が掘り出された。

 万が一に備えて自らのコピーを作っておく権利が、状況に対する後付けで万人に等しく認められた。政府が確保できたコピー装置では全く足りず、合法なコピー装置使用権が自分が死ぬ前に回ってくる可能性はほとんどない。そのため、非合法な闇コピー業が横行した。そして、なし崩し的に、非合法コピーの営業自体は違法でも、できてしまったコピーについては、合法コピーと同様な法的扱いとするという弱腰な黙認がなされた。

 一部の期待を裏切り、臓器移植元としての利用は難しかった。どんな形であれ、わずかでもパックに穴を開けると中身が瞬時に目を覚ますのだ。可能な限り素早く昏倒させようと薬品入りの注射を突き刺しても、自分が何をされているかに気付いて絶望の表情を見せることぐらいはできてしまう。自分のコピーを殺してでも生き残りたいと考え、完全に非合法な手術の代金を支払えるような人々は、どこかで勝手にやっているに違いないと噂されていたが。

 それより剣呑さの緩いやり口として、難病を患ったときに、コピーを何度も作って一か八かの治療方針をいくつも試してみる、という方法はしばしば使用が公言されていた。

 コピー第1号であるところのタカシは、しばらくはSNSにメディアにと引っ張りだこだった。インタビューに答える内に調子に乗って、1人で2人のコメディアンとして売り出そうとしたが、これは大した成功には繋がらなかった。なにせ、歳を取ってから双子になったという経緯が珍しいだけの、ただのおっさんだ。

 やがて、予想以上に多くの装置が発掘され、闇コピー機は世界中に十分に行き渡った。

 最初期には機械の部品を作ったり、家畜のコピーを作ることで食糧事情を解決することも期待されたが、空振りに終わった。コピー装置はある程度以上の知能を備えた有機生命体しか複製できず、材料としてタンク内に必要な元素が揃っていなければ働かないようだった。

 軍の無人化を推し進めていたテクノロジー先進国と、その流れに乗り遅れていた有人軍のパワーバランスが崩れ、大きな戦争が起こると危惧する声があったが、これも杞憂に終わった。地表を覆い尽くすような軍団を無料(ただ)で作り出せたなら状況は違ったかも知れなかったが、材料が追いつかない。材料が足りる程度の裸の兵隊だけを大量生産できても大勢には影響が無かった。

 信頼出来ない闇コピー屋が何をどこまでやりうるかについては、様々な噂が流れた。こっそり2回コピーしておいて1つしかパックを寄こさない、というやり口で、もう1つのパックがどう使われるかはあらゆる酷い想像がなされ、実態はより一層酷かった。

 それを大っぴらにやっているとして非難にさらされたのは火星植民事業だ。

 どういう仕組みなのか、装置で作られるパックされた体は、どんなに放置しても腐ったりはしないようだった。パックのままコンテナに雑に積み込んで、火星まで送り込んでやれば、起きた人間を運ぶよりも遙かに安くで済む。

 さらに、惑星植民事業は、普通にやると極めて危険の大きい作業となる。地球上で最も難しい工事と同じように計画したぐらいでは、全滅して当たり前、運良く生き残れる可能性はなくもない、といった有様に陥る。

 そんな事業を実施するには、志願者に対して命の対価に見合う法外な報酬を約束するか、コストを掛けて志願が妥当と思える程度まで安全設備を充実させるかで、とにかく金がかかる。それは、最終的に植民事業の成功から期待できる利益では到底賄えそうにない。

 コピー装置を使えば、植民事業への参加は、自分の真空パックを差し出すのと引き替えにそれなりの報酬が貰える、という美味しい儲け話になったのだ。

 帰りの便がまず望めない火星だ。真空パックとして送り込まれた自分のコピーは死ぬ気で頑張って働くしかなくなる。誰かが死ぬ度に次のコピーを送り続けていれば、じりじりと現地の施設が充実していく。もし万が一、運良く最後まで生き残れれば、完成した火星居住地の永住権がそのまま得られることになっていて、送り込まれた者達にとって途方もなく薄いそれが唯一の希望だ。

 当然、このやり口は大きな非難にもさらされたが、倫理観の薄すぎる者、生活に困窮した者は募集に殺到して自分のコピーを差し出して、火星居住地は急ピッチで建設が進んだ。

 

 火星がようやく、そこでの永住が地球上の最も危険な地域での暮らしより少し酷いぐらいにまで開発されてきたころ、コピー装置使用権利の平等を司る国際組織の会議に、困った報告が2つ挙がってきた。

 1つは装置のリバースエンジニアリングを続けていた研究所からで、動作原理はさっぱりこれっぽっちも解明できそうにないという、いつもの報告だった。が、その報告には新しい続きがあった。

「これまでの報告の通り、装置は有機生命体だけを完璧にコピーします。分子レベルを超えて、原子レベルでの完全な一致。放射能マーカーを用いた追跡実験でも、それは明らかでした」

 報告者の中年の男性科学者は、言葉を切って議場を見回した。彼が行っていたのは本物とコピーを見わける方法の開発。それは本来、コピー装置の普及が始まる前にやっておくべきだったのだが、まだ実現出来ていなかった。最初のタカシはどちらが本物なのか、今現在に至っても分かっていない。彼のように当人達も分からなくなっているような間抜けな事例は非常に珍しかったが、本人だかコピーだかが後になって、自分が本物だと権利を主張し出して揉める事例は後を絶たない。

 事前に目印を付けておくようにできれば良いのだが、その目印もコピーされてしまう。放射能マーカーを仕込んだ人間をコピーしても、同じように放射能を発する人間がコピーされて出てくるだけでどうにもならなかった。

 科学者は少しためらった様子を見せたが、意を決して続けた。

「今回、量子もつれを用いた新たな方法で原子の追跡実験を行ってみましたところ、本物とコピーの区別に、ついに成功しました」

 その発表は会場から拍手で歓迎された。これでようやく、トラブルを防止できるようになる。それが静まるのを待って、科学者は言った。

「実験の結果、パックされて排出されるのはコピーではないことが判明しました」

 会議参加者は内容を咀嚼しきれず、頭を捻った。そして察しの良い者から意味を理解し始め、議場がどよめきだした。

「装置のベッドに入れた原子、その原子で構成された物体がパックの中に移動します。つまり、パックされるのはオリジナルの方です。その一方で、装置の材料タンク内の原子がベッド部分に移動して、コピーが作り出されます。ベッド部分にそのまま残っていると思われていた方はコピーです。原子がタンクからパックへ移動したり、ベッドに残ったままになることはありませんでした。証拠は共有資料の通りです」

 それだけを言って着席した。誰かと目線を合わせると理不尽な非難に晒されるとの恐怖から、目線は手元の端末へと落としたまま動かさない。

「馬鹿な」

「それが本当なら俺は……!!」

 会議場が皆の怒声で満たされる。

 青ざめているのは、すでにパックを取り返しの付かない運命に追いやってしまった会議参加者だろうか。パックはあくまで予備なので不要になったら破棄しようと思っていた者は、運命の逆転を防ぐために密かにすぐさまパックを破棄する算段に当たりを付けた。

「なんだってそんな作りになってるんだ。馬鹿げている!!」

「そうだ、装置の設計として、それはあり得ない!解析が間違っているに違いない」

 そして、断固として結果を認めようとしない者達。

「よろしいでしょうか、議長」

 そう言って発言の機会を求めたのは、元から次に報告予定だった、若い女性科学者だった。

「先日、非人類発祥宇宙船のコンピュータの解析に大きな進展がありました。デジタルコンピュータらしきものが用いられている部分があるということは既報の通りですが、我々が考える合理的な設計とそう遠くない設計である、という仮定での解析で努力が実を結んだことは幸いでした」

 生物の世界には収斂進化という現象が見られる。特定の機能を目指して進化した全く異なる生物種が似通った外見に落ち着く現象だ。人類が自ら以外の文明と接触するのは初めてのことであったが、工学的にもそれと同様の現象が起こるものらしい。もし接触したのがそうでない文明であったなら、当面の間は手も足も出なかっただろう。

 そうしてデータから再現されたのは3D映像だった。

 小惑星帯に飛び込んでいく、いくつもの物体が写された。それは、非人類発祥宇宙船の想像再現図と似た雰囲気を持っていて、宇宙人の宇宙船と思われた。

 猛スピードで小惑星の隙間を縫っていく宇宙船。3D映像の端に宇宙人と思われる姿が映った。人類と割と似た姿のそれに、会場が騒然とする。

 宇宙人は、船を必死に操作しているのように見えた。見た印象からすれば、レースだろうか。

 やがて船が小惑星帯を抜け、映像の中の宇宙人は6本指の手を広げて歓声を上げた。続いて次々に小惑星帯を抜けてくる宇宙船。4機、5機とゴールを決めていく宇宙船。と、後ろで爆発が起こった。それに続く船が小惑星に接触してしまったようだ。

 そこで映像が切り替わり、別の宇宙人が表示された。緑の服を着たその宇宙人は、どうやら、次のレースの準備を宇宙船のコクピットでしていた様子だ。しかし、緑の宇宙人は、事故の爆発を見て怖くなったのだろう、宇宙船から下りてしまった。

 そこへ、赤い服を着た別の宇宙人がやってきた。そして、その、彼だか彼女だかが示したところに、例のコピー装置が神々しく置いてある。赤い宇宙人が宇宙人流のガッツポーズらしきものを取ると、緑の宇宙人は自分のコピーを作った。

 そして、額に小さな宝石のようなものを張り付けると、赤い宇宙人に宇宙ガッツポーズを返してコクピットに乗り込んだ。

 レースが始まり、小惑星帯へと突っ込んでいく。白熱した競り合いから、操作が間に合わず、小惑星に接触。爆散。

 爆発に包まれる緑の宇宙人の姿で、映像はぴたりと一時停止した。

 その額に貼られた宝石が一筋の光を放つ。光は宇宙を走っていき、先ほどコピー装置から出てきたパックに突き刺さって吸収された。

 パックから出てきて緑の宇宙服を着て悔しがる宇宙人。場面が変わり、無事にゴールした他のレース参加宇宙人達との談笑。ゴールした宇宙人らの額には、それぞれ小さな宝石が張り付けられていた。緑宇宙人が何やら手を動かすジェスチャーは、事故の瞬間の宇宙船の挙動そのままだった。コピー装置を進めてきた赤い宇宙人もやってきて、いいね!らしきジェスチャーを交わした。

 呆然と見ていた会場の皆が同じことを考えた。

 「通販だ」と。

「おそらく、額に付けていたものは、『記憶転送装置』とでも呼ぶべきものだと思われます」

 再現された3D映像はまだ続いていた。巨大な節足動物に追いかけられ反撃する宇宙人たち、どこかの恒星のプロミネンスをかすめて飛ぶたくさんの宇宙船。

「危険が伴うアクティビティーを、自分自身は安全なところで待ったままでコピーにやらせ、万が一の際でも、その体験の記憶は自分に転送できるという、そういう目的の装置のようです」

 会場がにわかに殺気立った。今見た3D映像の元となった宇宙人のデジタルデータ自体は、装置と共に多数発見されており、既に世界中に広まってしまっている。早晩、一般人の中からも解読に成功する者が現れるだろう。

「なお、どうも、月に墜落したのはコピー装置だけの運搬船で、『記憶転送装置』は別に運ばれていたようです。運搬船が有人船だった場合には、乗組員達が安全の為『記憶転送装置』を使っていたコピーの可能性はありますが、これまで発見されていないことから望み薄でしょう」

 会議場の何人かは、ほっと胸をなで下ろしたようだった。……もし、『記憶転送装置』が手に入ってしまえば、()()()()()をどう処理しようという話になるか。

 それ以外の真面目な参加者にはそれどころではなかった。不可能としか思えないが、データの解読の阻止を試みるか。今後の混乱をどう乗り切ればベストかを探る。

 いくら人手があっても足りないぐらいに、やるべきことは無数にあった。

どちらがコピーか分からなってしまうという高度に知的な展開を、どのようにすれば情緒たっぷりに演出できるか、緻密な計算の上、絶妙なバランスで成り立たせることに苦心しました。


拾いものをした人々が、これは神のアイテムだ!!と崇める一方、「神」側からすると、それそんなすごいもんでもないんだけど、となるような非対称ギャップネタが好きです。


あとついでに、自分のコピーを作れるようになった時の生死観ってどうすりゃいいんだろうという考察を以下でやってみました。

https://note.com/takashigeume/n/n0673d8510dad?from=notice

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