表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

01 足折るの巻

いやだ、いやだ、いやだ、行きたくない、行きたくない、行きたくない。

学校なんて無くなればいい、消えてなくなれ。

はあ、ぼくは幼稚園児か。行くしかないだろ、そんな事分かってるだろ。

毎朝思うことは一緒だ。

「さて行くか。」

ボロボロの自転車にまたがり、ゆっくりと出発した。

帰りたい、帰りたい、帰りたい。頭の中は中学に着くまでこの言葉でいっぱいだ。

ただ、今日だけはとても帰りたかった。気温のせい?天気のせい?なぜだろう。

入学以来、いやな事だらけの学校生活だが、ずる休みはした事は無い。

今日だけならいいよな、今日だけなら。明日からまた休まず行こう。

そう自分に言い聞かせながらスピードを上げ、大通りに向かった。


ガシャーン!!


大きな音がしたと思ったら、曇った空が見え、次に地面が近づいて来るのが見えた。


「イテー!」


痛い、痛い、痛い、右足が燃えるように痛く、道路のアスファルトが熱い。

起き上がろうともがいていると


「チッ」


ん、何。


「チッ」


何とか体を捻り、仰向けになる。すると腕を組み、しかめっ面した黒いスーツの女性と、背の低い老人が見えた。


「君、大丈夫かね」

老人は全然慌てるそぶりも無く聞いてきた。

「足が痛いです。」

単純にそう言うのが精一杯だった。

「足が痛いか。骨が折れとるかも知れんのう。ヨナ、この子を乗せておやり。病院じゃ」

老人がそう言うと黒いスーツの女性が、ぼくを無理やり起こそうとする。


「チッ」


え、さっきから聞こえてたのはこの人の舌打ち?

呆気にとられていると、助手席のドアがへこんだ車と、前輪がひしゃげた自転車が目に映った。

あーなるほどね、車とぶつかったんだね。高そうなベンツだな、いくらするんだろ。

ショックのせいか、他人事の様にそう考えていると、ヨナと呼ばれた女性は、ぼくを乱暴に後部座席に放りこんだ。

「これこれ、もう少し優しくせんか。」

老人はそう言いながらぼくの隣に乗り込んだ。

ヨナと呼ばれた女性は運転席に。

バックミラーに映る彼女の眉間には深い皺が。

怒ってるのかな。ぼくが悪いのかな。などと足の痛みでクラクラする頭で考えていると

「少年、親御さんは今どちらに居られるかな。」

老人が笑顔で聞いてきた。

「今の時間ならまだ家にいると思いますが。」

そう答えると

「なら住所を教えてくれんか。」

後から考えるとおかしな話なのだが、ぼくは言われるがままに住所を教えた。

「ヨナ、そこにやっておくれ。」

老人が言い終わるかどうかのタイミングで車は走り出したていた。

先に病院じゃなくてぼくん家?なんで?

そう思いながらも痛みに耐えるので精いっぱいで、質問する余裕は無い。

この道制限速度は何キロだ?早くない?と思っていると、ぼくの住んでるアパートが見えてきた。

お世辞にも綺麗とは言えない外観が大きくなるにつれ、何だか恥ずかしくなる。

「どの部屋かな。」

「2階の一番端の203号室です。」

「今、家にご両親ともいらっしゃるのかな。」

「母がいると思います。父は早くに死んじゃったんで。」

「そうか。少しお母さんに話があるんで少し待っといておくれ。」

「すぐ済むじゃろ。その後急いで病院じゃ。」

そんなやり取りをした後、老人は車のドアを開け、203号室へと向かって行った。

車の中から見ていると、アパートのドアが開き、かーちゃんが出てきた。

老人としばらく話している様だったが、急に顔が険しくなり、怒り出した。

詰め寄るかーちゃんを、老人は笑顔ではゆっくりと玄関の中に押し込んで行った。

えー何々、じいさん何してんの。かーちゃん大丈夫か?

ぼくはすぐさま車を出ようとしたが、ヨナと呼ばれた女性に制止されてしまった。

何とか出ようともがいていると、2人が出てきたのが見えた。

なぜか2人とも笑顔である。かーちゃんの方は今まで見たこともないほどの笑顔。

どーゆー事?何があった?

頭の中に、はてなマークがに浮かんでいると、老人は何事も無かった様に戻ってきた。

かーちゃんは少し遅れて降りて来て、車の窓からぼくの様子をまじまじと見て

「足、折れてるかも知れないらしいねー。これから病院に連れてい行って下さるそうよ。

 まあ複雑骨折では無いらしいから安心したわ。入院する事になれば仕事帰りに着替え持ってくから。

 それとそうそう、あんた、しばらく歩くの大変だろうから学校への送り迎えもして下さるそうよ。

 助かるよねー。」

笑顔でそう言うとさっさとアパートに戻って行った。

息子がケガしたのにどうゆう事?

呆気にとられていると車はゆっくりと走り出した。そして老人が真面目な顔で話かけてきた。

「君は車とぶつかったんじゃない。自転車で転んだんじゃよ、いいね。」

え、またまたどーゆー事?

さらに混乱するぼくを、おもしろそうに眺めながら笑顔で続けた。

「お母さんも了解済みなんでよろしくじゃよ。」

えー、かーちゃん了解済み?やばい人たちなのかな。まずい事言ったらひどい目にあうのかな。

ぼくが怯えた表情をしていたのか、すぐさま老人が

「そんなに心配せんでええ。わしらは怪しいやからじゃないんじゃ。」

「面倒事が嫌いなだけじゃ。お母さんには説明しとる。病院で診てもらったら電話して聞いてみるとええ。」

そうだそうしよう。かーちゃんがどんな話を聞いたのか聞いてみよう。

その時ぼくの乗った車は、雨が降り出した道を病院へと、かなりのスピードで走っていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ