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霊峰山の妖精王

 

 ――――おかしい、おかしい、おかしい…


 私の目がおかしいのかしら。

 想像していた街外れの民家からとてもじゃないが離れすぎてる。

 物理的な事もそうだけど、てっきり街外れというくらいだから離れた場所には、少なくとも幾つか家があると思っていた。

 それがどうだ。見渡す限りの木、木、樹!

 林というより、森の中と表現した方が正しいこの景色。


 まぁ、ただの森であれば確かに、街外れに大小異なる森があるにはある。

 だけどここの森は、その何処の森とは格が違う。


 なんせ、ここは――――霊峰山の麓に位置する森の中なのだから。


 遠目からでも分かる。

 誰も近寄らせない禍々しいオーラ。

 それとは逆に、霊峰山の恩恵か澄んだ空気は何処までも美しい。

 そのお蔭か、そこに棲む住人達(動物)はとても生き生きとし輝いているのが分かる。


 これをどう見たら()()()()()()だと言えるだろうか。


 外れも外れの位置、中立国家の国境沿いにあり、唯一国境となる壁がない特殊な場所でもあった。

 霊峰山は三ヶ国を跨ぐ位置に存在し、その場所特有故に、通年を通して壁を通らず霊峰山を経由しての密入者が後を絶たない場所として有名だ。

 しかし、密入者が各国へ行けたことは一度としてなく、殆どの者はその地に棲む魔獣などによって、呆気なく生涯を終えている。一部の者は霊峰山のオーラにあてられ、来た道を戻るなど余儀なくされた者ばかりだ。


 そんな恐ろしくも美しい場所を前に

「れれれ、霊峰山なんて聞いてませんよ!? エレノワ様っ!」


 いつも冷静なロザリーが慌てふためく。

 ロザリーのお蔭か、エレノワの方は冷静さを取り戻すことが出来た。


「ロザリーちょっとは落ち着きましょ」

「お、お落ち着いていられる筈ないじゃないですかッ!! だ、だ、だって()()霊峰山が目の前にあるんですよ!」


 まぁ、ロザリーの慌てぶりも分からなくもないけど、いつものあの冷静沈着なロザリーからは大分欠け離れすぎていて、逆に冷静にならなきゃと思ってしまうのだから仕方ないと思う。


 とは言え、あの霊峰山なのよね――――…


 何故こんな場所に女神が私達を連れてきたかは不明だけど。

 そんな事を物思いに耽っていると


【ここにくればこわいやつこないよ~】

【こないこないね~】

【あんぜんなの~】

【なの~】


 聞き覚えのある声が聴こえた。


「貴方達は…」


【かわいい、かわいいようせいだよ~】

【ローズさまのようせいね~】

【ローズさまあそぼうよー】


 地下道で会った妖精達が私達の周りを浮遊していた。


 ―――なんか、増えてない…?


 地下道の時は確か、二人の妖精だった。

 それが今では十数人の妖精達が私達を囲み楽しそうにしている。


 連日妖精を見過ぎているせいか、本当に十数年と妖精が居なくなっていたのかと疑いたくなってくる。


「皆は此処に棲んでいるの?」


 私の問い掛けに、妖精達は互いの顔を見て可笑しそうに笑いながら答えた。


【そうともいえるし】

【そうじゃないともいえる~】


 その回答に謎かけをしているようだと苦笑してしまう。


 未だにロザリーは青ざめたり赤くなったりと(せわ)しなく顔を変えているけれど、まずは状況確認が最優先である。


「さっき"怖い奴"は来ないって言ってたけど、怖い奴が居るのかしら?」


 又もや妖精達は互いを見、今度は首を傾げ出した。


【ローズさまをおってくるこわいやつ~】

【ローズさまこわいのしらないの?】

【こわいのローズさまさがしてる~】

【だからめがみさまローズさまここにつれてきたー】


 この子達の言う"怖い奴"というのが、まだ分からないけれど話の内容からしてあまり良いことではなさそうだ。

 であれば、女神はソイツ等から見付からず捕まらない場所へ逃がしてくれたという事になる。


 教会の者かも知れないが、今は考えるのは後にしよう。


「暫く此処に居たいのだけれど、問題ないかしら?」


 霊峰山の麓ではあるが、妖精達が安全だと言っているのだ。

 少し休むくらいは出来るだろう。

 しかし、棲みかにしている場所を突然現れた私達が使うのはと思った私は、念の為妖精達に確認する事にした。


【ローズさまならだいかんげーい!】

【あそんでくれるならいいの~】

【あ、でもでも】

【どうちたの?】

【ようせいおうさまはおこらないかな?】


 ――――………ようせい、おう?


【めがみさまがいいっていったから】

【いいんじゃないの?】

【おうさまめがみさまきらい】

【【【……あ】】】


 思い出しちゃいけない事を思い出してしまったのか、(たちま)ち妖精達は慌てふためき始めた。


【で、でもローズさまならすき、かも?】

【ようせいおうさまローズさまちゅきー!!】

【そうよ、そうよ!】

【…だ、だいじょうぶね】


 本当に大丈夫なのかしら…


 妖精達の言葉に若干不安を感じつつも、何だかんだと妖精達は自己完結すると私とロザリーを家の中へ誘導し、此処で休むようにとベッドまで連れて来られてしまった。


 何だか上手く妖精達に誤魔化された気がしてならない。


「…エレノワ様、大丈夫なので、しょうか?」

「ロザリー……それ、私も知りたいわ」

「そう、ですよね…」

「まぁ…今言えることは、折角だからゆっくり寝ない?」

「ですね。久々にクタクタです」

「私もよ。今は横になって眠りたいわ」

「ベッドも丁度二つあることですし、妖精様の御厚意に感謝して寝ましょう」

「……――――おやすみ、ロザリー」

「おやすみなさいませ、エレノワ様」


 歩き疲れた私達は、まだお昼前だと言うのに横になると直ぐ眠りについた。

 私達が起きたのは翌朝になってたからだった。



 ―翌朝―


 緊張と歩いた疲れが溜まっていたのだろう。

 ゆっくり起床したにも関わらず、私の体は鉛のように重たい気がした。ただの寝過ぎかもしれないけど。


「お目覚めですか? エレノワ様」

「おはよう…ロザリー」

「随分ぐっすり寝られておりましたね?」


 何時もなら咎められるような時間帯だが、ここは教会じゃない。ロザリーもそれを分かっているから、私を起きるまで寝かせてくれたんだろう。


「…ごめん、寝過ぎたみたい。体があちこち重たい感じがする」

「でしたら、近くに小川がありましたので顔を洗うついでに、お散歩されたらいかがです? その間に朝食の準備してますので」

「うん、そうするわ」


 ロザリーからタオルを受け取り、聞いた場所の小川へと向かう。

 すると、何処からともなく昨日の妖精達が現れ、どうやら小川へ案内してくれるようだ。


【ローズさまおはよー】

【おはよー】

【よくねれたー?】

【おがわこっちなのー】


 昨日来た時は、霊峰山の麓という事だけが頭にあって、怖い場所としか考えられなかったけど、よくよく考えればそんな恐ろしい場所に妖精がいる筈ないのだ。


 妖精が居るという事は、ただ自然が豊かでとても綺麗な場所であると考えることも出来るのだ。

 住人達(動物)は、生き生きしていたではないか。

 それが何よりも証拠というもの。

 この小川だって、とても澄んでいる。

 私は霊峰山の()()恐れて()()知っていたと言うのだろうか。

 そう…思った時に、霊峰山がとても身近な存在に感じてきたのだ。



「ほぉ…霊峰山の何たるかを導き出そうとするか」

「だ、誰ッ―――?!」


 突然、ロザリー以外のしかも男性の様な低い声がした。


 まさか追ってが、と一瞬過りはしたが妖精達は安全だと言ったのだ。

 なら誰の声…―――と思考を巡らせていると


【おうさま!!】

【なんで、なんで?!】

【おうさまローズさまとらないでー】


 慌てふためく妖精達。

 その視線は上空を見ている。

 それに釣られるようにして上を見上げると、そこには綺麗な羽とプラチナピンクのロングヘアが印象の妖精が飛んでいた。


「―――よう、せい?」


 にしては、皆とは大きさも羽の形も桁違い。

 成人男性と変わらない身長じゃない!?

 私が見てきた妖精とは似ても似つかない。

 本当に妖精なのっ…?


 そんな私の疑問はすぐに解ける事に。


「我は妖精王。お主は―――ローズ…いや、ローズの魂が入った別人だな」


 ――――また、ローズって…


 自分は妖精王だという妖精は、エレノワを他の妖精と同様ローズと呼ぶ。

 しかし…


「名は何と言うのだ?」


 他の妖精はエレノワと名前を教えてもローズと名を呼んでいた。

 でもこの妖精王は、きちんと別人として扱ってくれる。

 それだけで、他の妖精とは違うというのが分かる。


「私はエレノワ」

「エレノワ…ふむ。此処にいるのは」


【お、お、おうさま!?】

【ローズさまは】

【かみさまにいわれて】

【ここ、いるだけなの】


 小さな妖精達が妖精王の言葉を遮り、懸命に私を守ろうと前に出てきて立ち塞がる様に腕を伸ばす。


 それを見た妖精王は、はぁ…と溜め息を吐くと小さな子供に言い聞かせるよう優しく話し出す。


「エレノワが女神に言われて来たことは知っている。誰も食ったりせぬから安心せい」


【おこってない?】

【つれてかない?】


「怒っておらぬし、何処へも連れていかぬ」


【わかったー!】

【よかったー!!】


 と何ともあっさり妖精達は納得するとエレノワを前へと押しやった。

 まぁ妖精王と言ってるし、邪悪さも感じられないから信用していいと思うけど…威圧感が半端ないのよね……


「ふん。随分余裕だな。生まれ変わりの子よ」

「……生まれ…かわり?」

「何じゃ?気付いとらんか…いや? エレノワお主、現実から目を背けているな?」

「―――っ!?」


 妖精王の言葉に、目を見開いた。

 だって、妖精王の言った事が当たっていたから。


 妖精達に会ってからずっとエレノワではなく、ローズと呼ばれていた。

 そして私の左胸付近には()()()の印が生まれつきあった。


 ―――――そう…忌まわしき女神の"愛し子の印"が。



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