家族と家臣
父上は何もかも覚悟の上だった。
平民だと言うのに、その生活は歪で言葉遣いから文字の読み書き作法まで、平民に必要無い事を幼少期から叩き込まれていた。
身体がある程度大きくなると、体力作りに剣術体術、馬術まで覚えさせられる。
村人は誰一人そんな事をする奴なんて居なかった。
だからある日聞いた事がある『どうしてボクだけやるの』と…父上は『それがお前のするべき事』だからと言った。
当時は子供で、父上の言っている事が理解出来なくてそれが堪らず嫌だった。
全部を理解出来たとは思っていない…けど、今なら少しは父上が俺を思っての事だったと思う事は出来る。
「終わったかなぁ?」
この場の空気をぶち壊す様な呑気な声。
「いや〜とっても良かった、良かったよ〜で?」
「……で?」
「もうー察し悪いなぁ、これからキミ達は親子としてなのか家臣としてなのか、どう接していくつもりなんだい?」
そう魔女は言った。
父上なら家臣として…と言うに違いない。でもそもそも何故そこまで魔女は家族と家臣に拘るのか……
「…それは、家」
「家族に決まってる。父上を家臣としてなんて見れない。……いや、見たくない。俺は餓鬼でいつも叱られてばかり…――それでも父上は俺を育ててくれた。俺が本当の子供で無いのに…血が何だ、血が繋っていようがいまいが、俺には関係ない!母親の事や本当の父親の事を聞いた所で……俺の家族は父上だけなんだ…ッ!誰が何と言おうがこれだけは譲れない」
「だってさ?先に言われちゃったね〜。あれ〜?もしかしてエディ…キミ照れてるの?息子に熱烈な愛情ぶつけられて照れてる??………ふふっ、かっわいい〜」
「………」
顔を背ける父上の顔は、魔女が言うように照れているのか仄かに朱かった。
「クラリス…お前のそういう所は変わらないな」
「おや?私が変わるとでも思ったのかな?」
「………いや、何でもない」
「時に少年、さっきの説明でなんとな~く理解出来たと思うが…質問はある?」
何故か主導権は魔女が握っている。疑問ばかりが膨らむ状況だったが、やっと聞き出せる。そうライアンは思い、手始めに自分と魔女との関係について再度聞いてみた。
「貴女が私の叔母だという事は…本当ですか?」
「そうだよ、信じてなかった?」
「…信じるも何も……さっき父上の話では母は一国の王女だったと言うではありませんか…なのに、叔母は魔女ってどう考えてもおかしい」
「そうだよね〜普通はそう考えるよね〜」
話す気があるのか無いのか、捉えどころがない感じだ。
「魔女について少年は何処まで知ってる?」
「―――何処まで、とは?」
「んーーその感じだと知らないっぽいね!じゃあおねぇさんが詳しく教えてあげよう!」
魔女は杖を天井に向け、円を描くように動かす。
ゆっくりと大きく何回も何回も。
すると徐々に杖の先から光が、キラキラと輝き出す。
どういう魔法なのか、その光達は小さな人を型取り魔女の手によって操られる人形劇が始まった。
「まだ壁が出来ない戦争が絶えなかった時代。魔女達はそれはもう戦争に疲れていた。来る日も来る日も他の神を信仰する国々との争いで、安らぎ、癒やし、寛ぎ、そんな感情を抱く事はもう無くなっていた。だからか、いつしか魔女に子供が生まれなくなった。子供が生まれなければ次代の魔女を育てられない。不運は重なり魔女達は散り散りになった。もう魔女の生き残りが僅か、そんな時だ…不思議な泉を一人の魔女が見つけたのは―――その泉は七色に輝きを放ち星屑を散りばめたかの様に美しかった。それを見た魔女は、女神の祝福と思い、泉に膝をつき祈りを捧げた。『一族が絶えず子供を授けられますように』と―――。その魔女は天啓を受けたという。『月が満ちる日に再び訪れよ』と。一月後、再び訪れた泉に不思議な事が起きた。泉を中心に水面が割れ、地面が現れる。」
魔女が話す内容に沿って動く小さな光の人形。
まさにその時の状況を見せられてる様だ。
「魔法を扱える魔女でさえ、神が為す所業に感銘を受けた。水面が割れた中央に抱える大きさ程の輝く“玉”が浮かんでいたのだ。“玉”を見つけた魔女は大事に抱き抱えると、泉から慎重に出ると何と“玉”はゆっくり消えて無くなっていくではないか。はじめはどうしたものかと慌てていた魔女も“玉”から現れた者を見て、涙を流した。徐々に消え去る“玉”。その中に居たのは、小さな小さな双子の赤子だった………」
そこまで話した魔女。
杖で操っていた人形は魔女が杖を振ると、光の粒になり光をゆっくり無くしながら消えていった。
「今の話で大体検討は付いていると思うんだけど、魔女に子供は出来ない。―――と言うか授かる事が出来ない。その代わり、話に出てきた泉で子供が欲しいと願うと、神か女神か…私達に子供を授けてくださる。これが魔女の誕生の秘話。子供が訪れるのは神々の気紛れ――――だから魔女が増える事はないんだよ。で、なんで叔母かって話に戻るんだけどね、私達の両親が願って一緒に育てられた。ただ――…あの子が二歳の時…悲劇が襲った。あの子はとてもとても重い病気に掛かったの……それもこの森では治せない不治の病。その病は森から離れた場所にあるとある国が特効薬とも言える魔術を…完成させていた。それがあの子が王女として生きる事になった国。そうなった経緯は…また今度として、あの子は魔女にして魔女ではなくなった。そこからはエディの話の通りさ」
今の話だと………母は―――魔女にして魔女じゃなくなったから…俺が生まれたって事、なのか……?
「きっとキミが冒険を続けていれば、続きは嫌と言う程耳に入る。……だけど、気を付けるんだ。決してその言葉全てが真実だと鵜呑みにはしないという事を、それを胸に何が真実で嘘かが分かれば、キミは立派な勇者になれるさ!さて、他には無いかな?」
「………俺は…あの国の……王子って事に、なるのか?」
「そーなるね」
「父上…父上は母の、母上が育った国の貴族…」
「ライアン、俺の事はまたの機会にでもちゃんと話そう。今はお前の生立ちそして、俺とお前の関係性―――それと愛し子についてお前に教えて置かなければならない」
その後、魔女と父上の三人で、事の経緯と世界についてを家族として家臣として、夜が明けるまで語り合った。
家族として育ての親として、ちゃんと父上は接してくれた。
本来の姿へ戻ったとしても父上は父上のままで、変わることはない。
ただ、家臣としての父上が今後出てくると思うと…少し寂しさを感じるけれど、育ててもらった恩がある。
それに報いる為にも俺は俺の信念を貫き通すと――密かに誓ったのだ。




