魔女の家
この森が【還らずの森】と聞かされてから一刻程経った。
ライアン達は彼女の案内の元、魔女の家に向かっている。
“魔女の家”
それが今回、還らずの森に来た理由。
そして何を隠そう彼女こそが、魔女だったのだ。
「それにしてもキミがここに来るなんて、何年ぶりだろうね?」
「…――十六、は経ったかと」
「いんや、八年じゃないかい?あの子が奇病にかかって、すっ飛んで来たじゃないか」
「…………確かに…ありましたね」
「おや?年を取ったね?もの忘れなんてキミらしくもない。そ、れ、と、も…あの子に聞かれちゃ不味かったのかな?」
「………」
「まぁ…どちらでもいいさ。あの子に逢えたんだ深くは聞かないでおこう。…と、少年よ!あの声の正体についてまだだったね!!もうすぐ私の家だ、そこで詳しく話してあげるよ」
器用に箒に座り宙に浮く彼女。
ヴィルとシャイも小走りで付いて行くが、箒の速さといったら…森の中で浮遊し、進むというだけでも難しい技術、それを更に縦横無尽に箒を操り、馬が付いて行くので精一杯という速さ……どれ程高度で難しい事をやっている事か…
卓越した技術にライアンは感銘した。
父親と違った凄さを彼女の技術からヒシヒシ伝わってくるのだ。
木々の密集度が少しずつ和らいできた辺りで「もうすぐ我が家だよ」と彼女が言った。
見えてきた家は、煉瓦造りで細長い屋根が特徴的な家だった。
どういう仕組みなのか、敷地に入ると柵から内側がほんのり明るくなった。それは石畳も同じ造りなのか明るい。
「キミ達はこっちだよ」
ヴィルとシャイは家の裏に誘導され、四阿の様な建物で休むように言われた。
四阿の様であるが、床にはきとんと藁が敷かれてあった。
「ひとまずこんなものかな。飲水はここに作ったから飲むんだぞ」
あれも魔法なのだろうか。
一瞬で物が増えていた。
馬が過ごしやすそうに藁の位置も考えてくれている。
「さて、少年よ中へ入るがいい」
魔女はとても偉そうに言うと、ライアンを家へ招き入れた。
父親は既に寛いでおり、いつ出されたのか湯気がたった飲物を飲んでいる所だった。
荷物を隅に置くとライアンは父親の隣へ座る。
「じゃあ、此処へ来た理由をまず聞こうかエディ」
――――エディ?
父上の名はライディ…の筈じゃ………
「…はぁ、今はライディと名乗ってます」
「何じゃまだ話とらんのか?まぁちとめんどーだが、まぁ良いだろう。私は俗世に疎くなってる!今の情勢を交えつつ理由を教えてくれ」
慣れたもので父上は魔女に事の経緯と現在、国がどうなっているか魔女に事細かく説明した。
魔女も予想外だったのか、神託が降ったと説明した辺りから顔がどんどん険しくなっていく。
「………おい、あのウスラトンカチ野郎共はまだ女神だ神だの言っているのか?」
「そうですね。信仰心の衰えはなく寧ろ信者、使徒諸々増えてますね」
はぁぁ~〜あ。と盛大に溜息を吐く魔女。腰に手をあてた状態で下を向く。
「それで―――助けて欲しいと?」
「そうなります」
暫くの沈黙。
何かを考え込む魔女。
口を挟める雰囲気ではなく、ライアンは二人のやり取りを見ているしか出来ないでいた。
「………あの事…話す事になるぞ?」
「そろそろ教えても…良い頃合いだと思っていましたので」
「そうか――もうそんな時期なのだな…いいだろう、助けてやる…が、キミに施した封印も解くことになるがいい?」
(―――封印…なんの事だ?)
「えぇ、元よりそのつもりです」
「じゃあまずは…ご飯にしよう!おねぇさんお腹ペコペコなんだよね〜」
魔女はそう言うと、台所へ向かい食事の準備を始めた。
シリアスだった空気が、魔女の一言で話は一旦中断となった。
魔法を使って料理も簡単に行ってしまうのかと…思っていたが、魔法は一切使わず手際よく調理をしている。
父親は慣れているのか、食卓の椅子に座りお茶を啜りライアンはそんな二人を離れた位置から茫然と見、立ち尽くすのだった。
ものの十数分で数品作った魔女は、お気に入りのグラスに赤ワインを注ぎ父親に渡した。
「久々だ〜キミとこうやって呑むのも」
「…昔、は、一緒に呑んでたのですか…?」
「そうだよぉ〜キミのお父上には色々と面倒をみていたからね〜」
色々を強調させて言う魔女。
その会話に父親は頬をピクつかせる。
珍しく顔色を変えた父親に、ライアンは意趣返しとばかりに魔女に聞く。
「昔の父上は…どんな人だったのですか?」
「そーだね〜」
チラリッ…とまじは横目で父親を伺う。
父親は顔色変えずに、食事を続けている。
それが面白くなかったのか、魔女はそうだ!という悪い顔をした。
「エディはね一途なのだよ」
「…――一途?」
「そう!ある一人の少女が居たんだが、心に想いを秘めたままずーーーっと」
「クラリス!何を言うんだ!ライアンの前で言うなッ!!」
「いいじゃないか、今さら恥ずかしがる事でもあるまい」
またもや二人の言い争いを仲裁しつつ、夕飯をライアンは一人で食べるのだった。




