還らずの森2
何度か魔女の居場所を確認しながら進んで行く。
少し開けた場所を見付けると、二人は今日の寝床を準備し始める。
父親曰く、今はまだ明るいが日が落ちるとあっという間に暗くなると言う。
野営は慣れたものだ。
簡易テントを設置し、周りに落ちている小枝をかき集める。
父親ならば魔法であっという間に集めるだろう小枝も、自分は一つ一つ集めなければならない。
そういう時に限って、自分は本当にこの人の息子なのだろうか。と疑ってしまう。
何故なら何一つ父親と似た所が見つからないのだ。父親は母親似だと何度も言ったが、ある年齢になるとそれも嘘だと気付く。
この世界では、両親に備わる能力を子も受継ぐのが大半だ。それなのに、一つも父親と同じ能力を受継いでない。それは何故なのか。
――――親子ではない。
そう結論付けるのが自然だった。
ある程度の小枝が集まり、引き返そうを踵を返した時だ。
『……あれ、ここは』
自分は魔女の森に居た筈。
なのに…ここは―――
幼少期に住んでいた家だ。
あぁ懐かしい。
まだ本当の父上だと疑わず、大好きだった父上の後ろを付いて回っていた頃の家…
『ねぇねぇ父上!こんどはボクもシャナとつれてって!』
『お前はもう少し力をつけて強くなったらな』
『まいにちしゅぎょうやってるよ!となりのアルミンにもかったんだ!!つよくなったからつれてって!』
――――そうだ、あの頃はしょっちゅう出掛ける父上とずっと一緒に居たくて、我が儘ばかりだった。
フワッと風が流れた―――…
『やーい!オマエまだのうりょくにめざめてないのかよ!オレなんてこのあいだ、とーさんと同じみずまほうつかえたぜ!!』
『…う、うるさいな!のーりょくがなんだっていうんだ!』
今度は子供が二人?
あれは…俺か?
俺? 何を言って……
『さんさいになってもつかえないなんて…だっせーー!ほんとうにオジサンのこか!?オジサンさんはもっとカッケーんだ!』
『そんなことアルミンにいわれなくたって…!』
泣くのを我慢しているのか、両手を握りしめている。
悔しいよな。
父上と同じ能力どころか何も開花しないんだから。
俺は小さな俺を見て…小さな俺?
ボクはここにいるのに、どうしてボクがいるの?
『…あぁ、可哀想に……アナタは素晴らしいのに誰にも認めてもらえない』
『だ、だれ?!』
『大好きな父親にも似ず、母は居ない…親友と言える友達すら作れず、アナタはずっと…一人きり』
暗い暗い何もない場所に、ポツンと小さなボクは立っていた。
そこには何もなく、自分の声を除けば見知らぬ女性の声が、ずっと語りかけてくる。
すると自分しか居なかった空間に、ポワァンと淡く光る人の形を模ったものが現れた。
『認めてしまえば楽になるわ』
―――…何を?
『何って…分かるでしょ?自分の事なんだもの』
―――しらない、みとめるって…なに?
『アナタが一番認めたくない、嫌なことよ』
―――いやな、こと…みとめ、たく、ないこと……
『…そう。例えば―――父親と…似てない、こと…だとか』
“――※※※※……こい…っ!”
―――?…だれ?
また知らない声が聴こえる。
その声は聞き覚えのある声だけど、よく思い出せない。
『さぁ…楽になりましょう』
人の形を模った光が近付く。
『ここに居れば傷付く事も――悲しむ事もない…』
“※※※※…!※※※※――おき…※※※※っ!!”
…まただ。
誰か思い出そうとすると、頭が痛みだす。
しゃがんで痛みに耐えるが、治まってはくれない。きっと頭の中に響くこの声が原因だ。
―――ダレなの…ボクは、ボクは…一人ぼっちだ――父上……ドコに、いるの…?
『嫌なことはぜーんぶ…忘れればいいの。…ほら、目をとじて』
“―――るなッ…!眠るな……ライアン!!”
―――らい、あん?
『…そう、ボクは………俺はライアン…』
自分の名を呼ぶ声が聴こえる。
それはとても心地良く、安心出来る人の声。
起きなければいけないと分かっていても、身体が重く眠ってしまいたい気分だ。
“ライアン!……起きろッ…寝たら死ぬぞ!!”
どんどんハッキリする声。
『………死ぬ?』
死ぬという言葉に戸惑う。
そもそも起きろと言われても起き方が分からない。
何もない場所には、浮かぶ白い人の影と自分だけ。
出口の様なものは見当たらない、起きなければと思えば思う程、焦るばかりでいい脱出方法が浮かばない。
“仕方ない…――文句は後で聞いてやる”
と聞いた後、突如身体に痛みが走った。
頬から始まり肩、腹部と数度殴られ俺は痛さのあまり…………
「いっ……てぇーーー!」
クソいてぇ…―――マジ後で覚えてろ。
と思いながら俺は悪夢から生還したのだった。
「……バカ息子…やっと目覚めたか」
「おぉ〜!この子があの子の子供かい?何処となく面影があるじゃないか」
父親以外の声が聞こえ、ゆっくり振り向いた。
「やぁやぁやー!無事帰ってこれて良かったね!おねぇさん安心したよ!!」
誰だ此奴……
見覚えのない女性。
もしやさっきまで聴こえてた女性の声は…
そう思っていたのが顔に出ていたのか「キミが聴いていた声は私じゃないよ」と先手を打たれる。
「あの正体…知りたい?知りたいよね?気になってしょうがないよね?」
まだ何も言っていないのに、その女性は話したくて仕方ないようだ。
ライアンは父親に顔を向けるが、呆れた顔で頷くのみだった。
これは聞いてやれって事か……
「――教えて、もらえますか?」
「よくぞ聞いてくれた!では少年よ、此処が何と呼ばれているか知っているかい?」
「…えーと、魔女の…森では?」
「ブップー!それは一般的ではないのだよ」
唇を尖らせ楽しげに話す女性。
自分は今何をさせられているのやら……恐らく倒れて父親が呼び掛けていた…までは予想出来る。が、この女性は父親とどういった関係なのだろう。
ブラインは女性との会話の最中、頭の片隅で考えた。
「コラッ!今私が質問しているのに、変な事は考えない!」
返答が疎かだったのか、女性には考え事を見破られてしまう。
「―――すみません」
「宜しい。では気を取り直して…一般的にこの森は【還らずの森】と呼ばれ、入ったら最後二度と出ては来れない森だよ」




