第4話.初披露
ここは鬼族の住む家、一方俺たちはレベル1のゴブリンよりも弱そうな冒険者パーティ。通常であればこんなことありえないのかもしれない・・・
「ハユさんってレベルどのくらいあるんですか」
「さあ?前回見た時は80とかだった気がするけど・・・」
もはや次元が違うだろこんなの、ハエとライオンかよ。
今彼女を怒らせたりして、ビンタなど食らおうものなら胴体と頭部が泣き別れになるだろう・・・それだけは何としても避けなければならない、転生して一日で死亡なんて前代未聞、かは知らないが多分そうそうないだろう。
「君らレベル1なんでしょ?こういうところに来るのって普通はもう少しレベル上げてからじゃない?少なくとも今まで来た人は50くらいはあったけど」
「ハハ…そうですよね、それが普通ですよね」チラッ
タカドの方に目をやると、何やら彼女の部屋の本を勝手に物色していた、そのまま床に寝っ転がりペラペラとページをめくり始める、このマイペースさは多少羨ましいが同時にこうはなりたくないとも感じる、こんなところで矛盾を実感するとは・・・
そこでハユさんがおもむろに立ち、俺たちの方を見て言ってきた。
「レベルを上げたいならいい洞窟を紹介しようか?戦闘経験があまりなくても戦いやすいくらいのところを知ってるよ」
「いいんですか!?是非お願いします!」
早速装備を着てハユさんの後をピッタリと着けて目的の洞窟に向かっていった。
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・・・思った以上に暗い、洞窟の中だから当たり前なんだがなんかこう、明るくする方法とか。魔法とかで何とかならないかな・・・そうだ。
『火炎付与!』と持っていた剣に向かって唱えると、剣は刃先に炎を纏う。その炎の光が辺りを明るく照らしてくれた。
「割と何も無いんですね」
「ここら辺は入口だからね、この洞窟に住んでる魔物たちは暗い所にずっといるから、日中は陽の光が眩しくて中々出てこないのよ」
どうしよう、魔物というものはあまり怖い存在ではないように感じて来ちゃったよ、むしろなんか可愛いイメージすらも湧いてきてしまった。相対する前からこんな調子では見つけても倒すことなんて・・・
ブォン
という音と共にアキラたちに向かって棍棒が振り下ろされる、目の前には大柄なゴリマッチョ、緑の肌・・・ゴブリン?可愛くない、明らかに強そうだ。それにハユさんが何故かやらかしたみたいな顔をしている、どうしたのだろう。段々と怖くなってくる。タカドも何かを察したように俺の後ろへ回り込む。
「あの〜、どうしましたハユさん」
「まさか変異型ゴブリンが出てくるなんて、しかもこいつ王質、君らに戦わせようと思ってたんだけど。コイツはかなりやばいかも」
ハユさんの実力はまだよく分かっていないが、そこら辺のゴブリン相手にこんな姿勢は取らないだろう。
よく分かんないけど明らかに今出てきて欲しくは無いであろうクラスの的なのは確かだな、いや、やってみるまでは分からない!
「オラァ!!」
思い切って振りかざした刃は、ジュッという焼ける音と共にゴブリンの肩を削ぎとる、訳もなく頑丈な肉体によって止められてしまった、多分相手からしたらちょっと熱い程度なのだろう。片手で簡単に振り払われる、そして勢いのまま俺は壁に叩きつけられた。
「グハッ!」
ヤバイ、これは今かなう相手じゃなさそうだ。て言うか聞く前に斬り掛かるんじゃなかった、もしかしたら俺めっちゃ強いかもしれないとか思ってたけど全然そんなことなかった、超痛てぇ。
「大丈夫か!?とりあえず軽治癒かけるぞ!」
タカドに少し回復してもらったけど、まだ結構痛いな、辛うじて骨は逝って無さそうだ。逃げるにもすぐに追いつかれて殺られるのがオチだろうな。
「私がやるしか無さそうね…硬化拳!」
ハユさんはスキルを発動してゴリマッチョなゴブリンと相対する、弱い魔物しか出ないと踏んでいたため丸腰なようだが大丈夫だろうか。
「喰らいなさい!」
彼女も放った拳がゴブリンを確実に捉えた。まともに食らったゴブリンは少し後退りしたものの、あまりダメージが入ってるようには見えない。ゴブリンそのまま棍棒を彼女に振り下ろす、当たりはしないものの、このままヒットアンドアウェイを続けていたら先に体力の限界が来るのは彼女だろう。
どうする、この状況を現状のステータスの俺が打開できるか…そんな訳無い、ハユさんでも苦戦してるんだ。今の俺じゃ・・・
いや、もうここはあれを使うしかない。出し惜しみしてる場合なんかじゃない!
『法則無視!』
俺が特殊能力を発動させると、意思と関係なくウィンドウが出てきた。中には色々な能力が書かれている。
「デハ、コノナカカラノウリョクヲオエラビクダサイ」
謎の声が聞こえてくる、表示されているのは少なくとも10個以上の能力、だが今そんな悠長に考えている暇は無い。どれでもいいから現状を打開できる能力を!という一心でウィンドウに手を突き出す。
「原子改変」
アルケミー?なんだ?どういう能力なんだ?とにかくやるしかねぇ!
ハユさんの横を通り抜け、ゴブリンに向かって殴り掛かる・・・死ぬほど硬い、殴ったのはこっちのはずなのにダメージを受けているのもこっち。硬すぎて衝撃が全部こちらに帰ってくる。はっきり言って次元が違う。
「ヴァァァ!!」
怒らせてしまったのか、アキラをなぎ払うようにして棍棒を振り抜こうとするゴブリン、咄嗟にハユさんが間に入った、ガードするも吹き飛ばされた彼女はそのまま壁に頭を打ちつけかなりの深手だ。
終わった、金とか渡して解決するならそれが一番だな…元いた世界がどれだけ安全だったか、今更になって気づくとは。
ふと手元を見ると、床が炎に照らされてキラキラと光っている、アキラが手を着いていたところが、黄金に輝く金属に変わっている。
もしかしてこれが能力か?金に変える能力?だとしたらあのゴブリン野郎も金になってるはずだ。
そんなことを考えている間にもゴブリンはこちらに獲物を振りかざしてくる、必死に距離をとるも、右脚は確実に持っていかれた。
「クソ、どうしたら、硫酸でもかけてやれば…熱ッ!!」
手を着いたところを見ると、くぼみの中に液体が溜まる感じになっている、あきらはこの液体に手を突っ込んでしまったようだ。
これもしかしなくても酸か?だとしたら、原子改変……もしかして!
アキラは突然近くの石を掴んだかと思うと、ゴブリンの足元に投げた。それは飛んで行く最中液体絵と変貌を遂げた。
「グァッ!?」
奴の脚に液体がかかると同時に皮膚がただれていく。アキラが手を突っ込んだのと同じ酸だ。だがこの程度で倒れるような相手では無い。決死の覚悟をしたアキラは剣を握りゴブリンの空いた口に突っ込もうとする。驚いて動きが止まっていたゴブリンの口に刃をねじ込むことは出来たが、そのまま切り裂くなどという芸当ができるほどの力もない。剣は今にも噛み砕かれそうな状態だ。
「それでいい、噛み砕くと同時だ、狙いは体内、内部から破裂しやがれ!」
次の刹那、噛み砕かれると同時に剣が姿を消す。
アキラが残された左足で必死に距離をとると、火炎付与を適当な石にかけゴブリンの口元に投げつける。その瞬間・・・
ドゴォォンン!!
という爆音と共にゴブリンが爆発した。爆風でアキラも吹っ飛ぶ、運良くタカドやハユさんがいる方に飛ばされてきた。全身を激しく打ち付け、満身創痍ではあるが、かろうじて生きている。一方ゴブリンはと言うと。原型は保っているものの、丸焦げになっている、そこからは一切の生気を感じない。
「すごいなお前!あのゴブリンに勝ったのか!!」
「タカド君、今アキラ君はすごく危険な状態だ、早く手当しないと死んでしまう」
そうタカドに言う彼女もかなり酷い怪我をしている。立ってはいるがフラフラとしている。
「急いで家へ向かって!きっとお父さんがいるはずよ」
そうしてタカド達は、強大な魔物に打ち勝ち急いで家へと向かった。