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第7話 新しい住民


 それからもしばらく周辺の探索をつづけ、俺はこの辺りの大体の生態系をおさえることができた。

 まず、当初見込んでいた通り、この辺りに生息している生物の大半は、ホーンボアとグラスウルフであった。

 ただ、拠点から少し離れたところでラージアントのワーカーと遭遇したため、少し警戒を強める必要がありそうだった。

 コロニーがあるかどうかは不明だが――まぁ、そのあたりの捜索はおいおいだな。

 見たところ、あのラージアントのワーカーもかなりくたびれていたし。どちらかといえば、はぐれてさまよっていたという方があっているかもしれない。が、近辺にコロニーがある可能性がなくなったわけでもないしな。

 そんなこんなで拠点に戻ろうかと思い始めたころ。

 にわかに助けを求めるような声が聞こえて、俺はもしかしてアリサが何かしらの危機に陥り、逃げてきているのかと思って耳をそばだててみた。

 ――…………て……い……。……れか、……けて!

 その声質は、声の高さからして女性らしいが、アリサのものとは少し違う。

 どうやらアリサではないと判明し、少しほっとしてしまう――が、だからといって放っておくことはできない。

 なぜなら、声色からして、どうにも切羽詰まったような声だったからだ。

 声のした方を見てみれば、案の定というべきか、そこにはこちらに向かって走ってくる女性が。

 その後方には、ラージアントのワーカーもいる。

「案外、近くにラージアントのコロニーがあるのかもしれないな……」

 これは、しばらくは付近の捜索をしておくべきか……?

 などと思いながら、女性を追うラージアントを討伐しに向かう。

 ラージアント程度なら集団で襲い掛かられても余裕で対処可能だ。むしろ、ラージアントの集団よりも、単体のグラスウルフやホーンボアの方が強いくらいである。

 まして、先ほど倒したラージアントと同じく、今回も女性を追いかけていたラージアントも単体だ。

 危なげなく、討伐することに成功した。

「見たところどこかの村落の者のようだが、大事ないか?」

「あ、は、はい……ありがとうございました…………」

 助けた女性に近寄って、手を差し出して助け起こす。

 女性の身なりを見てみれば、体つきはほっそりとしているというか――かなりやつれている。

 おそらくは、それなりの期間さまよっていたのか、疲労がたまっている、といった方がいいのかもしれないが。

 それは、身にまとっている衣類を見てもわかることだ。

 着用している衣服は、まるでサバイバルでもしてきたかのように土汚れに塗れてボロボロだ。

 話を聞くまでもなく、いわゆる極限状態に陥っていることがうかがえた。

 戦う術も持っていないようだし、どうしてモンスターや野盗に襲われる危険性の高い村や街の外にいるのかが分からない。

 よもや、私に差し向けられた暗殺者、ということもないだろう。

 そうであれば、もうちょっとまともな演技をして近づいてきたはずだ。

 あるいはこれまでに動向を見張っていたのなら、いつでも闇討ちをする機会もあっただろうしな。

 そういったことから、この女性が私の暗殺を請け負った暗殺者、という線は薄い。

 ともなれば――女性は、何らかの理由で村の外に出ていた際に、モンスターや野盗に襲われるか何かして逃げた。

 その後、道に迷った挙句、先ほどのラージアントに襲われて、再度逃走し――逃げた先に、俺がいた。といったところだろうか。

 俺はそんなことを考えていたのだが、女性の話を聞いたところ、事態は思った以上に悪いことが分かった。

 それも、俺達にもその危険性が差し迫る可能性すらありそうだ。

「そうか……君たちの村が、盗賊団に襲われたのか……」

「はい……。私は、隙をついて逃げることだけはできたのですが……」

 女性の村は、盗賊団によって占領されてしまったという。

 逆らう者達は皆切り殺され、あるいは魔法によって焼き殺され、残った者達は捕らえられて無理やり盗賊たちの奴隷にされてしまったという。

 女性は首元に手をやろうとして――そして、やめた。

 その動きを見て初めて気づいたが、女性の首には革で作られたらしい、武骨な首輪が取り付けられていた。

 俺もそのあたりの教育は受けさせられたから知識としては知っているが――それは奴隷に堕とされた者たちが着けさせられるものによく似ていた。

 魔力の流れを見てみても、それとわかる魔力の流れが感じられたので、おそらくは間違いないだろう。

 野党に襲われた者が、違法な奴隷として売りに掛けられる。

 痛ましいことだが、よくあること(・・・・・・)だと聞いている。

 実際にこうして向かい合うのは初めてだが――何とも、胸糞悪いものだな。

 そうして、盗賊たちに占拠されてしまった村で、戦々恐々とした日々を送っていたらしいが――彼女をはじめ、幾人かの村人たちは、それでも諦めはしなかった。

 盗賊たちの隙を見計らって、どうにか支配下から抜けられないかとずっと機会をうかがっていたという。

 そうして、念願かなって盗賊たちの隙をついて逃げ出した――まではよかったのだが、運悪くワーカーアントのコロニーを見つけてしまった。

 獲物として見られた彼女は、慌てて逃げる方向を変えて――そして、その先にいたのが、俺だったというわけか。

「災難だったな……だが、俺としては手を差し伸べた手前、モンスターから倒して終わり、では終わらせる気はないつもりだ。君が俺についてきたいというのなら、それはそれで問題はない。身請けをしよう。危害は加えないから、安心してほしい」

「そう、ですか……ありがとう、ございます」

 女性は、警戒を少しばかり解いたようだ。

 創造魔法で、その首輪を素材に何かを作ることができれば問題はすぐに解決するのだろうが――それも、できなかった。

 首輪に宿る魔力によって、創造魔法に使った魔力が弾かれてしまったから、おそらくは何かしらのプロテクトがかかっているとみえる。

 女性には不自由な思いをさせるだろうが、俺にはどうしようもない。

 言った手前、断る気はないが……その時は、そのままの状態で、ついて来てもらうしかないだろう。

 女性は、考えることもなく、俺に着いてくることを選択した。

「そうか。では、俺達の拠点に行こうか。――まぁ、拠点、といっても俺も訳ありなんでな。あまり期待はしないでもらえると助かる」

「はぁ…………?」

 俺の言葉に、女性は少し不安そうにしながらも、頷いて俺に続いて歩きだした。


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