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第2話 農具と家具を作る


 そもそも、俺が追放されるきっかけとなったのは、今目の前で俺の作業を見守っているアリサ嬢に理由があった。

 とはいえ、彼女を選んだこと自体には後悔はないのだが。

 彼女は、感性豊かな人柄で、それは素敵な少女だ。

 十二歳の頃に決められた俺の婚約者であったルルティナ。常に微笑の仮面を張り付けていたルルティナを見続けていた俺にとっては、アリサ嬢はとても心惹かれる存在だった。

 ルルティナが悪いわけではない、とはわかっていたのだが……それでも、己の感情を隠し、表情の変化も若干微笑みの色合い(・・・)が変わる程度しかない、というのは、夢があったはずの婚約を色褪せさせるには十分すぎるほどのものであった。

 やはり、将来の伴侶であるからこそ、感情は露わにしてもらいたいし、俺も彼女にはそうしたかった。

 だが、彼女は俺がいくら感情を表に出したところで、似たような作り笑いしか返さないのだ。

 いや――なかには、本物の笑いもあった。それは事実だ。

 しかし――俺に対して怒りたい気持ちがあるだろうにそれを露わにせず、ただ微笑しながらそれを誤魔化すというのは、『愛』とは何かが違うような気がしていた。

 もちろん、俺の個人的な感情であることに違いはない。ないのだが――それでも、その気持ちは俺の中でずっと燻り続けた。

 それが、ずっと――そう。ずっと、続いてきたのだ。

 だから――アリサ嬢と出会い、感性豊かな彼女に魅力を感じた俺は、ルルティナを次第に遠ざけるようになっていった。

 いつからだっただろうか。ルルティナのことを、婚約者から、アリサ嬢には遠く及ばない令嬢だと思うようになってしまったのは。

 ルルティナは――ルルティナで、魅力のある令嬢であることに違いはなかったのだがな。

 ただ――表情にあまり変化のないルルティナに、もう魅力を感じなくなっていたことも事実だったのだ。

 一度冷めてしまえば――俺は、ルルティナに、もう一度気を向けようとは思うことすらなくなった。

 だからこそ、なのだろう。より一層強く、アリサ嬢にその『恋慕』という感情を向けたくなったのは。彼女に、『愛情』というものを求めたくなったのは。

 彼女を求めるあまり、勝手にルルティナに婚約破棄を突き付けてしまうほどに、その欲求は強まっていって――気づけば、俺は父である国王に呼び出され、


「お前がこれほどまでに愚かな奴だったとはな! ルルティナ嬢がどれほど王国に利をもたらしてくれるか、お前にはわからぬのか!?」


 と叱責される場にいた。

 その場では、その言葉を皮切りに、目に余っていたらしい俺のあんな行いやこんな行いなどを持ち出しては、大声で怒鳴り散らされ。

 おおよそ数時間にも及ぶ大叱責は、最終的に俺の王族からの追放、ということで幕を閉じた。

 アリサ嬢の話を聞いた話では、ほぼ同じ流れで彼女も追い出されたらしい。

 まぁ、国の信頼を裏切ったも同然なんだから、そりゃそうなるだろう、という話だけど。

 けど、アリサ嬢は王族ではなくなった俺を、それでも求めてくれた。

 平民として育て上げられ、その後已むに已まれぬ事情で顔も知らなかった父親(はくしゃく)に引き取られた彼女をして、貴族社会のぜいたくな生活は決して逃したくはなかったのだろう。

 だからこそ、家から追放された当初の彼女は、とても絶望に塗れた顔をしていたが――どうやら、時間が経つにつれて、心の方も落ち着いてきたらしい。

『なんで私がこんなところで』

 などと、先ほどは文句を言いかけたものの、心の中のどこかでは、もう覚悟を決めていたのかもしれない。

 まぁ、なんにせよ。

 彼女がいれば、俺だけでは心もとないと思っていた食料の自給自足にも、ある程度のめどがつく。

 彼女の得意魔法は火と風の魔法だが、魔法全般が得意なのだ。水魔法があれば、作物を育てるのにも苦労は減るだろう。

 過度な期待は彼女の重圧にもなるから厳禁だが……期待せずにはいられなかった。

「さて……とりあえず、必要そうなのはこんなものか」

「鍬と鎌ですね。あと、忘れてましたけどテーブルと椅子……ありませんでしたね」

「ああ。先に寝る場所を確保したかったからな……」

 ちなみに、農具以外のも作っていたから、それなりに時間がかかった。

「こっちのはかまどですね」

「さすがにわかるか……」

「はい、まぁ……さすがに、平民として生活していた時は、私がお料理をしていた時もありましたからね」

「そうか……」

 俺は料理なんてできないからな。全部、魔法頼みになりそうだったところだ。

 前に試したことがあったが、かなりの大味でなんとなく足りないというか……食べれないわけではないが、食べててつまらない。そんな味になった。

 まぁ、こんな状況ではそれもかなり贅沢なものになるんだろうけど。

「とりあえず、当面の間は周辺でモンスターを狩ったり作物を作ったりしてお金を工面しながら、ここを発展させていこうか」

「そう、ですね。……今思えば、そのために狩猟ギルドに登録したのですね」

「あぁ、そんなところだな」

 とかく、今の俺には稼業が必要だ。

 そのために手っ取り早かったのが、モンスター狩りだった。

「そんな顔するな。危険は極力避ける」

「絶対ですよ? もし殿下にいなくなられたら、私一人じゃ生きていけませんから」

「わかったわかった……」

 まったく……心配性だな、アリサ嬢は。

 俺に、モンスター達からの攻撃が効くわけないというのに。


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