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第1話 家をつくる

挿絵(By みてみん)


「ライル様ぁ、私、疲れましたぁ…………」

「あぁ。そうだな。……よし、ちょうどよくこの辺りは廃村のようだし、拠点を作るには申し分ない。ここに俺達の新天地を作るとしようか」

「えぇ? こ、ここにですかぁ?」

「あぁ。ちょっと待っていろ……創造魔法、農家の家!」

 辺境の地にはよくありがちな、人口減少が限界を超えて維持できなくなった寒村――の、跡地。

 そこに、俺は――俺と、俺にくっついてきた元伯爵令嬢の娘はやってきた。

 なもしれぬ、人一人もいない正真正銘の廃村だ。

 廃屋が残っていたのは、まだここがそうなってからそれほど時間が経っていないからか…………とかく、人がいないからこそ、今の俺達にはおあつらえ向きであると言えよう。

 追われる身、というわけではないものの、実家から追放された身だ。

 それも、元の身分が身分だっただけに、俺には行く当てもない。

 俺が浮気をした相手だという、この娘にも同じことが言える。正直、巻き込んでしまった感はぬぐえなくもないのだが……正気に戻った今となっては、どこか篭絡されていた感もあったので、何とも言えない心境でもある。

 まぁ、今となっては一種の運命共同体。

 二人そろっていく当てをなくしてしまった以上、偶然合流を果たしたのだから、二人で協力して生きていくほかはないだろう。

 もっとも――相手は訳ありとはいえ、伯爵令嬢だった。比喩表現にはなろうが、食器のカトラリーよりも重いものは持たないと言われるほど、上位貴族の令嬢はとにかく力仕事から縁遠い。

 独り立ちして、それぞれのみの立て方を見出して以降は、人によっては力仕事をすることもあるかもしれないが――おそらくは、少数派。

 おそらくは、どこぞの上位貴族や、王城などで侍女としてやっていける程度の身体能力しか持ち合わせないだろう。

 というのは、俺の単純な想像なんだけどな。

 とかく、こういった状況では生存能力が皆無であろう元ご令嬢を無碍にできない俺としては、俺が動くしかないというのが実情だ。

 それに――材料は、ここに来るまでにちょこちょこと寄り道して、いっぱい手に入れて来たからな。

 城から、私物の一つとして自作のストレージバッグを持ってこれたのも大きい。

 おかげで、俺自身のスキルも相まって木材も枯草もいっぱい手に入ったから、粗末な箱程度であれば、それほど魔力を消費せずに作ることができた。

 同じく、ベッドもわらのベッドだが作ることができたので、これで衣食住の衣は何とか用意できたわけだ。

「とりあえず、今後のことはこの中で考えよう。お前も疲れただろう。わらでできた粗末なベッドだが、ないよりはましだろうから、腰を下ろして、休みながら考えよう」

「むぅ~……なんで私がこんなところで……」

「追放されてしまったのだから仕方あるまい…………俺自身、それほどの罪を犯してしまった自覚を持った、というのもあるがな」

「ライル殿下……」

「よせ。俺はもう殿下などと呼ばれる立場ではない」

 そうだ。

 俺はもう、この国の王子ではない。

 王城から追放され、家系図から抹消され、王族としての権利もはく奪された俺は、もう殿下などと呼ばれることは許されないだろう。

 罪の意識を持った以上、そのあたりははっきりとさせておかなければならない。

 ――まぁ。その末に、こうして世捨て人みたいな真似をしてしまったのはさすがに、ちょっと反省しているけど。

 それでも、生き残る術があるのなら、これでもいいと俺は思っている。

「わかりました。殿下がそういうのであれば、私も頑張りますよ! 私を追放したこと、実家と国王陛下に、後悔させてやります!」

 ふんすー、と鼻息を荒くしながらアリサ嬢は急に躍起になる。

 どうやら、うまい具合に触発されてくれたようだ。これが、この場限りでないことを切に祈るばかりだな。

 それに――俺のスキルの一つである、創造魔法に内包されていた解析魔法によるならば、彼女は彼女で、この窮地を脱するにふさわしいスキルを持っているらしいからな。

 火魔法に、風魔法。彼女も彼女なりに、学園での成績は優秀だったから……きっと、このサバイバルで助けになってくれるだろう。

「目下の問題は食糧だな……来る途中に、食料を買い込んだとはいえ、食料の調達は急務だ」

「なるほど。そのために! 殿下は、王都でいろんな種を求めていたのですね!」

「まぁ、そんなところだ」

 取り合えず、まずは農業に必要なものを作っていくところからだな。

 アリサ嬢に見守られながら、俺は残りの木材を使って、黙々と鍬やバケツ、じょうろなどを作っていった。


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