第二話 神の祝福を受ける純真無垢な戦士達 ~流言から発生した奇妙な少年部隊~
・・・今から5年ほど前のこと。
知的で温厚、きわめて平和的なエルフ族の中に変異種が誕生し、凶暴で好戦的、残虐極まりない「残虐な死のエルフ」と呼ばれる一群が現れた。
彼らはヴェノームの森に隣接するヒト族の小さな村々を襲撃して略奪と放火繰り返し、村人を惨殺し、あるいは捕虜として捕らえ他の種族に奴隷として売り払うなどの蛮行を重ね始めたのだった。
・・・ブルータル・デス・エルフに襲われ、廃墟と化した村は数十にのぼるという。
ここにきて、ヴェノームの森の南側を領土とするヒト族の国、グラムニア王国の王・ボランド三世がついに立ち上がり「エルフ征伐」の軍を編成したのであった。
完全装備の国軍兵士によるエルフ討伐師団は、両種族の国境とされる神聖樹「ブラッド・ツリー」を越境してエルフの国に進攻し、報復の名目で彼らの村々を襲い始めたのだ。
「ブルータル・デス・エルフ」なるものは、普通のエルフと外見上は何ら変わる所がないという。
ボランド三世のエルフ討伐軍は、それがブルータル・デス・エルフか、それとも友好的なエルフ達なのかの判断がつかないまま手当たり次第に彼らと戦火を交え、報復の念に衝き動かされ嵐のようにエルフの村を襲い続けた。
・・・その連戦連勝の戦闘の様子は、発明されたばかりの活版印刷技術で印刷されたパンフレットや絵入り瓦版で国民に広く流布し、彼らの「反エルフ」感情を煽ったのである。
こうして、ブルータル・デス・エルフの襲撃から始まったヒト族とエルフ族の戦いは両者の全面戦争の様相を呈し、1年経った現在も膠着状態となっているのであった。
大軍を擁してエルフ族の棲むヴェノームの森に進攻したボランド三世の討伐師団だったが、森林は元々エルフの住処である。
視界も効かず行動も制限される密林での戦闘は、軍勢の規模としてはグラムニア王国軍の三分の一以下・・・劣勢と思われていたエルフ族に有利に働いた。
また個々の身体能力を見ても、ヒト族とエルフ族では圧倒的にエルフ族の方が優れている。
彼らは主武装のロング・ボウで王国軍の小部隊や補給線を襲っては疾風のごとく森の中に消えてしまうのであった・・・いわゆる「ゲリラ戦」に徹したのである。
・・・鳴り物入りで進撃を開始したボランド三世のエルフ討伐軍は当初の快進撃から一転、ここにきて完全に進撃の足が止まり、ついには防戦一方となる。
ブラッド・ツリーを越境してエルフの領地に進攻した各部隊の補給線も断ち切られ、次第に押し返されて国境付近での小競り合いがダラダラと続く続膠着状態に陥ったのだ。
・・・残虐なエルフ共に正義の鉄槌を!・・・そんな熱狂に包まれていた国民達も次第にいらだちを深め、巷には様々な流言が飛び交い始めた。
熱病のように熱狂的な感情は、一度自信を失うと激しく動揺するものだ。
そんな国民の心を捉えた流言の一つが・・・NWOBHM・・・Neo Warriors of Boys Holy Mind・・・というものだった。
・・・神聖な心を持つ少年だけで結成された新たな戦士達!
「心の穢れた大人たちの軍勢が攻めるから神の御加護を得られず、何時まで経ってもエルフ軍を打ち破れないのだ!・・・純真で神聖な心をもつ、まだ女の肌を知らない無垢な少年達を集めて軍を作れば、神の祝福を受け、エルフ軍などあっと言う間に壊滅出来るに違いない!」
・・・その噂はすぐに国民の心を捉え、新たな熱狂を産み「自分も神の啓示を受けた」「少年軍を率いてエルフ共を成敗するよう神に命ぜられた」と称する者が次々と現れたのである。
神に祝福される、穢れのない神聖な少年達の軍勢!・・・このアィディアは、戦況の停滞にうんざりしていた国民の心を鷲掴みにしたのだった!
・・・雨後の筍のように、王国の各地でNWOBHMが結成され、愛国心に燃えた少年達が次々とエルフを討伐するために森に入る。
曰く「神から少年達を率いるよう啓示を受けた」と称する者達に率いられた集団、退役軍人達が中心となって護国の精神に燃える少年達を集め結成されたグループ、司祭の率いる宗教的集団から、自然発生的に集いフラリと村を抜け出した無計画な少年達の群れまで・・・。
彼らNWOBHMの「少年軍」は剣や甲冑などの完全装備を備えたものは稀であった。
皆、二束三文のなまくら剣や手製の皮鎧、甚だしいのは着の身着のままで武器も持たずにNWOBHMに参加したのだった。
・・・少年達は、ただ「神の御加護」だけを信じて、思い思いにヴェノームの森の奥へと進んでいったのである。




