第十話 衝撃の真実!国王の裏切りとエルフ族の理性 ~NWOBHMの少年達の悔恨~
「・・・ブルータル・デス・エルフなんて・・・そんなものは存在しないのよ・・・」
シセラの口から発せられる衝撃的な言葉!
「えっ?・・・存在しないって・・・それは一体?」
30人の少年達が一斉にシセラに視線を集中させるなか、彼女は静かに続ける。
「ええ、にわかには信じられないでしょうけど、それはグラムニア王国の王・ボランド三世が作り出した幻・・・彼の奸計が生みだした偽りの存在なのよ」
・・・思わず絶句する少年達。
彼等は自分達がこの森に勇んで入り、散々苦労してきたその根本理由を否定された気がした。
それはにわかには信じがたい・・・信じたくない話であった。
「・・・でっ、でもっ・・・ヒト族の村が十数か所も襲われて、村人が皆殺しにされたのは・・・」
「それも全てボランド三世の仕業なの・・・彼は国軍の部隊を使って、エルフに変装させて自国の民を惨殺したのよ・・・」
悲しそうな顔で言うシセラにセリオンとマグリスが同時に食ってかかる。
「・・・どうして?・・・どうして国王陛下がそんなことを・・・」
「それは彼の野望の為よ・・・ボランド三世はこのヴェノームの森の北半分も欲しくなったの!そのために私達エルフ族の領地に侵攻する口実を自分自身で作り上げたのよ・・・そのために無辜の民を惨殺してまで・・・」
それは余りに衝撃的な話ではあったが、セリオンにもマグリスにも、そして他の少年達にも思い当たる節があった。
ブルータル・デス・エルフによる非道な行いを激しい論調で糾弾し、国民に怒りを撒き散らすパンフレットや絵入り瓦版の数々。
それは新発明の活版印刷機で大量に刷られ国民にばら撒かれた・・・新技術は国王の政治宣伝にまんま利用されたのである。
「・・・僕もブルータル・デス・エルフなんて一度も見たことがない、いやグラムニア王国の国民の殆んど全部がブルータル・デス・エルフなんて実際には見たことがないんだ!」
「・・・僕達は騙されていたの?・・・国王陛下に・・・」
動揺する少年達に、今度はゾラが静かに言葉をかける。
「辛いでしょうけど、それは本当の事なのよ・・・ブルータル・デス・エルフなんてどこにもいやしない、ボランド三世はエルフ族と戦争を始め、領土を奪うために幻の存在を創り出したの」
・・・彼女の話では、この村の住人は戦争の初期にグラムニア王国軍に村を焼き払われ、ここに避難してきた女性達なのだという。
村に女性が圧倒的に多いのも、男のエルフはその時の戦闘で勇敢に戦い、多くが戦死してしてしまったからなのだとシセラは悲しそうな顔で語った。
「確かに・・・僕の村の大人達もブルータル・デス・エフルなんて見たことがないって・・・そう言ってて首をひねっていた!」
「いや、君の村だけじゃない、僕の兄さんは軍人だけど・・・ブルータル・デス・エルフと戦った事なんてないと言っていたよ!」
「・・・騙されていたのか・・・みんな・・・」
「国王・・・ボランド三世・・・・許せない!」
直情型のマグリスはギユッと唇を噛んで宙を睨む。
少年達は傲慢で好戦的な性格のボランド三世と理性的で平和を愛するシセラ・・・どちらの言葉が「真実」か直感的に理解出来た。
「一つのものを二つの種族で分け合えば、みんな幸せになれるのにね・・・どうして独り占めしようとするのかしら・・・」
シセラは悲しそうに言った。
「・・・シセラさん、ゾラさん・・・僕達は・・・」
少年達はすっかり暗い顔をして落ち込んでしまう・・・。
神の御加護を受けた「聖戦」・・・正義の戦いのはずが、自分達の方が侵略者だったのである!
「安心して、みんな・・・私達は貴方達をどうこうしようなんて思っちゃいないわ、貴方達だって騙されてこんな酷い目にあったんだもの・・・同じ犠牲者よ」
「シセラさん、ゾラさん・・・僕達はどうすれば・・・これからどうすれば・・・」
マグリスはボランド三世によって引き起こされた、ヒト族とエルフ族の悲しい現状をどうにかしたいと思った。
・・・国の人々は・・・・彼の両親や近所の人も、今まさに国王に騙されこの侵略戦争に加担しているのである。
国では、自分達と同じように「NWOBHM」・・・神聖な心を持つ少年達の新たな軍団!・・・・として無垢な少年達が続々とヴェノームの森に送り出されているに違いないのだ!
これ以上犠牲を増やすわけにはいかない、そう思った。
「・・・貴方達はまだ何も考えなくていいのよ・・・未来だけを見つめて、ヒト族とエルフ族の未来の為に自分の気持ちに正直に生きて欲しいの」
「・・・ヒト族とエルフ族の未来の為に・・・」
その言葉はセリオンとマグリス、いや少年達全員の心に響いた。




