No.8 王の判断
「それで、あのレンという異世界人の処遇は」
ロマーヌスは、そう王に問いかける。
ここは玉座の間から少し離れたところにある隠された小部屋だ。
この場所を知っているのは王とロマーヌス、そして他に数名の重鎮のみ。
緊急時には隠し通路にも繋がるが、もっぱらロマーヌスと王が密な会話をかわす時に用いられている。
「決まっているだろう。口封じ一択だ。勇者以外を召喚したとあらば列国の追及は避けられぬぞ。民にも不信感が生まれ、国も揺らぐ」
今交わされている会話は、蓮のステータスによって起こったものだ。
ロマーヌスは天城達を部屋に案内した後、王に蓮のステータスについて聞かれた。
問題となったのは、勇者であれば必ず『勇者』となるはずが、『魔術師』となっている職業欄と、基本的に魔族にしか適正が付かないとされている闇適正があったこと、そして勇者にしてはあり得ないほどに低いステータスだ。
この世界の人間の平均初期ステータスは100で、彼はそれと比べれば十分に高いのだが、勇者の平均である300と比べるとかなり見劣りする。
ここまでくると、蓮が勇者であろうとなかろうと関係なく非難の対象だろう。特に闇適正がまずい。
魔族を使って何か企んでいたなどといった噂が流れれば、北方の宗教国家との外交問題を生みかねない。
「ならば、アマキ達はどういたします? 彼らは友人でしょうし、レンを殺せば反発する恐れがありますが」
「暗部をさし向ければ良いだろう。アマキとやらには旅に出たとでもいえば良い」
「それでは真相を知った時にどうなることか……城の地下に幽閉するにとどめておけば、言い逃れもたやすいでしょう」
「ふむ……ならばそれらはお主に任せる。今夜のうちにレンを城地下深くに監禁しておけ。抜かるなよ」
「はっ」
そう会話を交わして、2人は別々の道から部屋を出ていくーー
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蓮が読書を始めてからおよそ5時間。部屋の壁にかかる時計は、7時を指していた。
(ふー、そろそろ休憩するか。結構情報が集まったな)
ーーコンコンコンコン
不意に、扉が4回ノックされる。何かと思い、蓮が扉を開けると、そこにはトレイに食事をのせた給仕の女性が立っていた。
「勇者様、食事をお持ちしました」
「ありがとうございます。部屋で食べるんですか」
「勇者様方もお疲れでしょうし、今日は部屋での食事とするとの仰せです」
(そんなことあるのかな。召喚当日の夜は大広間で歓待の宴的なイメージが強いけど……まあ実際はこんな感じなのかな)
蓮が一人であれこれと考えている間に、給仕の女性は食卓に夕食を並べ終え、部屋を出て行った。
部屋食とはいえ王宮で出される食事、そのメニューはかなり豪華だ。
「いただきます」
一言呟いて、食べ始める。
(おおう、大きい海老っぽいのが光ってる。サラダも水々しくて食べやすいな)
蓮の食べたことのある味とは微妙に違っていたが、全て蓮が今まで食べたものを超える美味しさだった。
少しして全て食べ終えた蓮は満足したのか、ご馳走様と言ってベッドに向かう。
ベッドに倒れ込んだ蓮は、風呂のことも忘れてすぐに眠りについた。