No.5 転移
あの後、創造神は蓮の持っていた本を全て読み尽くした。
そして、満足げに、そして同時に喪失感のこもったため息を吐く。
(だよねぇ! 読み終わっちゃった時ってそうなるよね!)
「これは、読み終わるとなんともいえぬ気分になるのう………」
そう言いつつ、少し名残惜しそうにしながら創造神は蓮に本を返す。
蓮は幼い頃にとある作品に憧れ、その影響で高校2年生となった今までずっと小説を書き続けてきた。
その甲斐あってか若くして書籍化という大業を成し遂げ、自立する事ができていたのだ。
それは蓮の目的を達成させるためのもの。創造神との出会いによって、その小さくも大きい目的は蓮のすぐ近くまで来ていた。期待を込めて、話を切り出す。
「ところで神様、僕は小説を書く仕事をしていましてですね………」
「それはつまり、あのような作品を書いて読ませてくれるということかの?」
「まあそうですね。異世界での行動を少し脚色してラノベの形にまとめてみるのも面白いかと。それに昔から、神様がいるなら一度話してみたいと思っていたんですよ。だから繋がりは持っておきたいなぁって」
「ワシも暇しておったからのう。お主の提案はとてもワクワクするわい」
目的の達成はできないけれど、かなり前進した。そう思うと、蓮の頬も自然と緩んでくる。
「ところで、最初ここに来たときに僕が神様の場所を当てれた理由、わかりました?」
「ああ、ふぁんたじー物というやつじゃな。あれはかなり似ておったのう」
「地球の人でファンタジーファンなら転移なんて垂涎ものですからね。偶然に感謝ですよ」
「そうじゃのう。お主が来なかったらワシはずっと暇な時を過ごしておったかもしれん……」
そんな会話をし、そしてそろそろ蓮はユルヴアに向かう。時の進みがゆっくりとはいえ、
あまり長居しすぎると1、2秒ほどのタイムラグができて召喚が失敗してしまうのだ。
「良いか、それでは今から転移するぞ」
「良いですよ。小説の方は向こうで書き進めておくので、ユルヴア時間で一ヶ月ほど経ったら連絡をください」
「楽しみにしておるでの。それと、ユルヴアではくれぐれも『ざまぁ』とやらはしないようにな。あれも悪くはないが、個人的にはない方が好きなのでな」
「わかってますよ。僕もない派ですしね。あっ、でもあれは意思には関係なく起こる気が……」
蓮がそこまでいったところで、彼の周囲を美しく整った薄青色の立体文様ーー魔法陣が囲んだ。
そして次の瞬間、彼の目の前は一瞬真っ暗になり、次に明るくなった時には、目の前には大量の西洋風の騎士と祈りを捧げる美しい女性が存在していた。
「皆様! 勇者様の召喚に成功しました!」
女性がそんな声を上げるとともに、周囲の騎士たちの顔に安堵の色が浮かぶ。
同時に、蓮の横から疑問の声が上がる。
「ここはどこですか?」
「そうよ! ちょっと説明しなさいよ!」
天城と赤月がそう声を発し、白崎も少し困惑したような表情を見せる。
狂木は、相変わらずのポーカーフェイスのままだ。一方の蓮はーー
(これは、逃げた方がいいやつかなぁ……?)
そんなことを考えていた。
明日から前期期末という名の悪夢がやってきます。
水木金の3日間です。
なので、明日と明後日の更新はお休みします。すいません。
期末終了祝いに、土曜日に1話だけ出します。