強くて、綺麗な
朝ごはんを食べ終わった私は、バイトの支度をした後、洗濯物を干した。
バイトに行く時間になったので出発する。
「それじゃ、陸さん、行ってきます。」
「色々ありがとね。いってらっしゃい。」
あれから陸さん、元気がなかったな…。
葵、気を使ってたな。
もう何年も前のことなのに…。やめやめ!ちょっとランニングでも行こう。
頭を切り換えるため、私は走ることにした。私は気分転換によく走っている。走ると気持ちが良いんだよね。
15時30分。葵は陸の部屋の前にいた。
ふう…普通通りに普通通りに…
【ピーンポーン】
…ガチャ。「おかえり。お疲れ様、葵。」
いつも通りの笑顔だ。
「ただいま。」
中に入ると、陸は、「自由にくつろいでね。」と言うと机に向かった。
あ、いつも机に出てる教科書で勉強してる。そう言えば私、陸さんのこと何も知らないな。聞いてみよう。
「陸さんって社会人じゃないんですか?何でいつも教科書で勉強してるんです?」
「うん。私は働いてるよ。だけど、学生でもあるんだよ。」
え?どういう意味?
葵は不思議そうにしている。
「MRっていう職種知ってる?私、それなんどけど。」
「製薬会社の営業ですよね?在学中だけど、もう就職してるってことですか?」
「ううん。それの逆かな?
大学の修士課程がはじまったばかりの頃、急に教授から東京の就職先を勧められて…。私、ずっと地方にいたから、抵抗あったなぁ…。でも、行ってみようと思ってOKしたら、MRだから、大学にも編入して薬学学べって…。しかも、2年間で準薬剤師の資格も取れって…。教授が当然のことのように言うから、あ、知識とか資格とか必須なんだって思って、頑張って編入試験の勉強もしたし…。実際は必須じゃなかったみたいなんだけど…。
まあ、なんとか無事に大学の編入試験もパスして、今は平日の午前は大学、午後は製薬会社で働いてるんだよ。」
陸は笑いながら説明を終えた。
いやいや笑い事じゃないでしょ。メチャクチャじゃない。
「…よくやろうって思いましたね…。
それで資格の勉強をしてるんですね。」
「まあ、資格だけじゃなくて、普通に大学の講義も難しいし、仕事をしている中で分からないことも勉強してるんだけど…。」
「すごい。私だったら絶対無理って諦めてますよ。」
すると陸は、ふふ…と笑いながら、強い、綺麗な目を葵に向けて言った。
「もう、逃げたくなかったんだ。」
「…。」
綺麗な目…
どうしてあなたは、そんなに強いの?
『リリリリン…リリリリン…』
「あ、電話だ。ちょっとごめん。」
陸はベランダに出る。
陸さんにはよく、電話がかかってくる。
私といる時だけでも、1日最低1回はかかってくる。
まあ、あんなにイケメンで優しいし?そりゃあみんな、陸さんのこと頼りにするよね。
でも、何だか、他の人にもイケメン顔で優しくしているのを見ると、なんか、モヤモヤするんだよね…。
「ごめんごめん、…葵?」
「え?!あ、か、買い物行きましょうか?!」
※注意
準薬剤師という資格はありません。
この物語のみの資格です。