この人なら…
葵はスッと立ち上がった。
今日は簡単にインスタント食品でも食べようかと思っていたがまあ良いか。
それにしても…。身長は163くらい?髪は艶のある黒髪でストレート。肩より少し長い。高校生にしては大人びた雰囲気だな。うん、なんて言うか…うん、凄く綺麗な子。
しばらく歩くと、コンビニに着いた。
陸はカゴを持つと言った。
「食べたい物何でも入れてね?」
「え、良いですよ。自分で買いますから。」
葵は無表情に答えた。
「ううん。今日会えたお祝いに、ご馳走させてよ。」
あれ?会えたお祝い?んんん?
私、合ってる?変なこと言ってないかな?
「ぷっ」
「会えたお祝いって…」
そこまで言って葵はハッとして口を抑えた。
だって、なに?会えたお祝いって?!しかも自分で言って自分で、あれ?っていう顔するんだもん!
あ!笑った!可愛いな。笑うと、年相応の女の子だ。
「笑うと可愛いね。…いや!真顔が可愛くないんじゃなくて…。うん、綺麗な子だと思ってたから。」
陸がそう言うと、葵は黙ってお弁当が並んでいるところに歩いて行ってしまった。
あ、怒らせちゃったかな?
熱い!顔が、耳が熱い!!なに?!私今絶対顔も耳も真っ赤だ!顔見られてないよね?!笑顔が可愛いとか綺麗とか、私がそんなわけないじゃん!!
「じゃあコレ、ご馳走になります。」
葵は少し俯きながら、鮭弁当をカゴに入れた。ちょっと顔が赤い。陸は、唐揚げ弁当を入れながら、やっぱり怒らせちゃったか。と思った。
気を取り直して言った。
「あ、下着も持って来て?部屋着は私の貸すからさ。」
葵は更に顔を赤くしながら、
「下着は自分で買いますから!レジ先に行って下さい!」
と言って下着売場の方に行ってしまった。
ん?またやっちゃったか?下着?下着がダメだったの?でも女同士なんだしあんなに怒らなくても…いやいや、難しいお年頃なんだ。気を付けなくては。
陸が1人反省している時、葵は焦っていた。
『なんで私こんなに動揺してんの?!別に下着くらい!でもなんか恥ずかしかったんだもん!
あ!もう買い終わって待ってるし、取り敢えず早く買わないと。』
2人でお弁当を食べる。
葵がボーッとテレビを観ていたら、
「葵、唐揚げあげる。結構美味しいよ?」
陸が微笑みながら、唐揚げを1つ葵のお弁当に乗せる。葵は、「じゃあ、鮭を半分あげます。」と言って陸にお返しした。
「ありがとう。」
うう。そのイケメンスマイル…。
葵は目をそらす。
ま、またしてもやってしまった…。陸は、眉を下げて謝った。
「ご、ごめんね?何か私、さっきから怒らせることばかりして。」
「べ、別に怒ってないです。」
「え、そうなの?」
陸はパッと顔を明るくさせて言った。
そうなんだ。怒ってなかったのか。良かった。
うん、鮭も美味しいな。
…あー美味しかった。葵はまだ残ってるね。
陸は先に食べ終わったようだが、テレビを観ているのか動かない。
そんな陸を見ながら葵は、誰かと晩御飯を一緒に食べるのはいつ以来かな?特に話をしているわけじゃないけど、まあ、悪くないかな。と思った。
葵が食べ終わると、陸が葵のコップを持ち上げて、「もういらない?」と聞いてきたので、「はい。」と答える。
陸は2人分のコップと空のお弁当の容器を器用に持って流しに向かった。葵は慌てて言った。
「私が洗います。」
「じゃあお願いね。私はお風呂を沸かすよ。ああ、あと葵の部屋着も捜さなくちゃね。」
陸はそう言いながらお風呂場にいったので、コップと空のお弁当の容器を洗った。お弁当の容器はプラだから、このゴミ箱で良いのかな?
お風呂場からちょうど帰って来たので、
「プラゴミってこっちのゴミ箱ですか?」
と聞くと、陸は少し驚きながら言う。
「お弁当の容器、ちゃんと洗ったんだね。」
「当然です。」
へぇ。意外と真面目なんだなぁ。もちろん私も洗って捨てますけどね。
「うん。そのゴミ箱であってるよ。
ええと、確かこの辺に間違って買った小さい部屋着があったはず…。あったあった。はい、これ。お風呂が沸いたら先入ってね。」
「いえ、私は後で良いです。」
「そう?じゃあ先入るね。」
お風呂が沸いたので、入った。
ああ…。つ、疲れた…。やっぱりお風呂は良いなー。明日は休みだし、ゆっくり起きよう。
「お風呂どーぞー。あ、制服はこのハンガー使って。洗濯物はカゴに入れてね。はい、タオル。」
「ありがとうございます。」
入れ替わりに葵がお風呂場に行く。麦茶でも飲むか、と思って冷蔵庫に行こうとすると、
「ちょっと陸さん!なんですか!この洗濯物の山は!!」
葵が脱衣場の扉を開けて叫ぶ。
え、ええと…。だって、洗濯物ってためちゃうじゃん?とオロオロしていると、
「明日!洗いますから!!」
葵はそう言うとピシャリと扉を閉めた。
ご、ごめんなさい…。ん?さっき、私の名前、呼んだ?呼んだよね!
…笑ってしまう。だからなんなのよ。
でも、何だかとても嬉しかったんだ。
全く、しょうがないなぁ……ふふふ。
葵は自分が笑っていることに驚いた。まただ。なに、笑ってんの?
お風呂から出ると、陸は机を端によけて、座布団とタオルケットを用意していた。
「あ、もう寝る?私は床で寝るから。」
当然のことのように言う陸に、葵は驚く。
「え?」
陸は人差し指で頬を掻きながら言った。
「恥ずかしながら、予備の布団が無くて…。ベッドはあるから、葵はそっちで寝てくれる?」
「そんな、私が急に泊まるなんて言いだしたんだから、私が床で寝ますよ!」
「いやいやダメだよ。」
「ダメじゃないです!あなたが床で寝るなら私も床で寝ます!」
「…名前。」
急に陸はポツリと言った。「え。」
「もう名前は、呼んでくれないの?」
ななな、なに?!急に!
…そうか!そう言えばさっき私、名前呼んだんだ!あれは、ちょっと、洗濯物の山を見て、考えるより先に言ってしまったというか…。
でも何かすごく悲しそうだし…。わ、分かったわよ!べ、別に名前呼ぶくらい何よ!!
「り、陸さん…?」
ち、超緊張したんですけど…。
すると陸はこれでもかと言わんばかりに嬉しそうに微笑んで言った。
「ベッドで一緒に寝ようか?」
「え…な!なんでそうなるんですか?!無理ですよ!!」
「セミダブルだから、大丈夫だと思うよ?」
「そういう問題じゃありません!一緒に寝るなんて!!」
「さっき葵が、床で一緒に寝ようって言ったじゃん。」
言っ…たなぁ。確かに。
いやそういう意味で言ったんじゃなくて!!
陸は不思議そうにしている。
いやまあ、別に問題無いですけど!女同士だし?!良いんですけどね!!!
「…分かりました。」
「よし!そうと決まれば、今日はもう遅いし、寝ようか。歯ブラシは新しいのあるからそれ使って?」
私は今、イケメンを背に寝ています。
いや、女の人ですけど!
もう良い、何も考えないでおこう。寝る。寝るんだ。
少し落ち着いてきた。今日は色んなことがあったな…。あのオジサンの顔と、肩に触れた感触を思い出す。もし陸さんが助けてくれなかったら?
ヤダ、想像したらちょっと震えてきちゃった。
葵は反対を向いている。
はじめはモゾモゾしていたけど、落ち着いたようだ。よく眠れると良いけど。
ん?なんだか様子が変だ。震えてる?どうしたんだろう。
一度震えだすと、止まらなくなってきた。オジサンだけじゃなくて、今までの嫌な記憶まで思い出しちゃって…。暗くて深い沼に自分が沈んでいく…。
その時、私の体は暖かいもので包まれた。『?!』…私、後ろから陸さんに抱き締められてる?!
え、え、ど、どうしよう。
「え、ちょっと、陸さん?!」
「おやすみ、葵。」
優しい声。何だか安心するな。強張っていた体から、徐々に力が抜けて行く。本当に不思議な人。
もしかしたら、この人なら信じても良いかもしれない…。
「おやすみなさい。陸さん。」