表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/150

出逢い(2)

私は今、知らないオジサンから2万円を貰った。貰ってしまった。

どうしよう。お金が必要だとはいえ、やはりこんなのダメだよね。


「あの、やっぱり私、やめます。」


私が言うと、オジサンは優しい顔で言った。


「どうしたの?大丈夫。何も怖いことは無いよ。」


「…ごめんなさい。」


私は謝った。すると、今までニコニコしていたオジサンの顔が急変し、眉間にシワがよる。


「今さら何言ってんだ?!」


唾を飛ばしながらガシッと肩を掴まれた。こ、怖っ!しかも痛い。振り払おうとした時、


「金がほしいんだろ?」


…そうだ。私にはお金がいるんだ…。

私が諦めたように目をそらすと、オジサンは「行くぞ。」と言って歩き出した。

ああ、もう無理だ。さっきの感じだと逃げられそうにないし。今更ながら、会ったばかりの好きでも無いこんなオジサンとだなんて…。

考えたら、泣きそう。私はバカだ、今さら後悔するなんて。


「君、大丈夫?」


ちょっと低めの耳に心地好い声が聞こえた。声がした方を見ると、その話し掛けてくれた人と目が合った。薄暗いはずなのに、その人の目が凄く綺麗なのが分かった。


「あんたに関係ないだろ!」


オジサンが私の前に立った。肩を押されたその人は少しよろけた。私はオジサンに手を引かれて行く。

すると急に、私の手が、オジサンのゴツゴツした生暖かい手から、スベスベした細い手に握られた。冷たい手。


「嫌がってるんじゃないですか?」


もしかして助けようとしてくれてる?なんで?面倒なことには、首をつっこまない。それが大人なんでしょ?!


「金を受け取っているんだから合意の上だろ?!」


私は思わずビクッとしてしまった。軽蔑されたよね?もう、私のことはほっといて良いから。自業自得でしょ?

…驚いた。その人はこっちを向いて微笑んでいたのだ。優しい目で、少し悲しそうに。『君は本当にそれで良いの?』と言われているようだった。

どうしてそんな目で見るの?こんな大人、知らない。

…良いのかな。私、まだ諦めなくて。

私は繋いでくれている冷たい手をギュッと握って、


「か、返します!私返しますから!!」


大きな声で言いながら、鞄にそのまま入れていたお金をオジサンに突き付けた。


「はあ?!今さら何言ってんだ!!」


オジサンは凄い形相で近付いて来る。な、殴られる!私は目を瞑った。

しかし、カシャッという音がしたかと思うと、


「今の会話、録音させて頂きました。あと、あなたの顔の写真も今撮りました。このままお引き取り頂けない場合は、警察に通報します。」


と落ち着いた声が聞こえた。私は目を開けた。でも何も見えなかった。いや、正確にはその人が私を庇うように前に立っていたため、その人の背中しか見えなかったのだ。タ、タイミングが悪かったら殴られてたんじゃない?!それに、いつのまに録音なんてしてたの?!!

で、でも、これでオジサンも諦めてくれるかな?


「今後彼女に近付いても、同様です。」


こ、この人、助けてくれた上に、今後私にオジサンが何かしないように牽制してくれてるの?なんなの、この人、良い人過ぎない?


「な、…分かったよ!クソっ!!」


オジサンは睨みながらも、去って行った。

良かった。安堵した私は急に怖くなってきた。我ながら本当に情けないなぁ。その人は優しく私の肩に手を置いた。


「大丈夫?

…家、…だから、ちょっと上がって行きなよ。」


安堵と恐怖で、聞きとれなかったところはあるけど、どうも家で少し休んで行くように促しているようだ。

普通、急に自分の家に行こうだなんて、言わないよね?なに、やっぱり何か企んでんの?

でも、なんでだろう。この冷たい手を、離したくない。

その人は、何も言えずにいる私の手を引いて歩き出した。


ガチャ。

その人の部屋は、無駄な物の無いシンプルな感じだった。机に本がある。教科書?

変だな、社会人でしょ?その人が着けてるネクタイは、有名な製薬会社のもののようだった。

その会社は、国内トップクラスの製薬会社であるだけでなく、制服でも有名だった。スーツであれば何でも良いが、男女ともにネクタイが指定されているのだ。色は深緑と黒、もしくは紺と黒のストライプだったと思うが、その人は、後者に似たネクタイをしている。似ているだけかな?

その人を改めて観察すると、身長は170cm以上あり、スラッとした体に色白で、色素の薄いサラサラ髪は長めのショートカット。スッと高い鼻に二重のタレ目をした、誰が見てもイケメン顔の持ち主だった。


「どうぞ、適当に座って?」


そうこうしている間に、机の本は片付けられていた。取り敢えず座る。


「わ、私は、高崎 陸。君の名前は?」


[私]?お、女の人なの?!

こんなイケメン顔なのに?!でも、そう言われて見たら美人だ。いや、これはもう超絶イケメン美人!男女ともにモテるだろうなぁ。


「高校生?」


うわ、やっぱまずいよね、高校生がこんな時間に。しかもお金貰ってさ…。


「家はどの辺?送って行くよ。」


「…葵。」


話しを反らしたくて名前を答えた。


「え?」


「私の名前。」


「ああ、それは名前?苗字は?」


苗字は言いたくなかった。


「名前。」


「葵さん?家は…」


さん付けされるのが何だか嫌で、私は、


「あなた年上ですよね?さん付けじゃなくて良いです。」


「じゃあ葵ちゃん、家…」


「呼び捨てで良いです。」


なぜか呼び捨てで呼んでほしくて。うわー、私、感じ悪ぅ…。


「あ、葵は、家はどこ?送るよ?」


そんな私に、この人は優しく話し掛けてくれる。その優しさが信じられなくて、ちょっと困らせてやろうと思った。


「帰りたくない。」


「…。じゃあ、うち泊まる?」


うそでしょ!

冷静に答えようとするも、驚きは隠せない。


「良いんですか?」


「だって帰りたくないんでしょ?」


とか言ってくる。そんな素敵な笑顔で答えないで!

いやいや、私、何思ってんの。

でも、いつものように冷静沈着を装おうも、声を抑えるので精一杯だ。


「でもでも、私、高校生ですよ?さっき知り合ったばかりの。」


「構わないよ。ただ、親御さんには連絡するんだよ?」


それを聞いた瞬間、あの人の顔が脳裏に浮かんだ。頭が真っ暗になった。

あの人に連絡?要らないでしょ。


「それは必要無いと思いま…」


「ダメ。

電話が嫌なら、メールだけでも良いから。しないなら泊めない。」


なんでよ。どうせあの人は、私のことなんか気にもとめてないのに。

でも、なぜかこの人が言うなら連絡しても良いかなと思えた。私らしくないな。


「…。分かりました。」


私は母に、友達の家に泊まるとメールを送った。


「送りました。」


「お腹減らない?コンビニで何か買って食べようか。」


「…。」


「葵?」


「何も聞かないんですか。」


「うん。」


即答。なんで?普通聞くよね?良い人ぶって何か事情でもあるの?とかさ。

そうそう、説教したりとかさ。

私はこんなに混乱しているのに、「さあ、行こう。」とか言って立ち上がるし。

変な人。私はもう少しこの人を観察してみようと思った。どんなに親切を装おったって、いつかボロが出るに決まってる。私は、


「はい。」


と言って立ち上がる。

なぜか少し期待している自分には、気付かないようにしながら。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ