頑張るヤンデレさん
「はぁ……はぁ……はぁ……」
軽い呼吸困難を引き起こし、机に突っ伏す。
椅子から立ち上がろうとするが、いつものように軽くは出せず、かなり力まないと立ち上がれない。
……駄目だ。こんな状態じゃとても海里様に近付けないだろう。
それでも、私は強引に呼吸を整えた。今日、今この昼食の時間に、遂に私は海里様に話し掛けなければならないのだ。
……うっ、また呼吸が……
わざわざ昼食の時間にしたのには理由がある。それは、『話題』だ。
初対面で意図的に相手に話し掛ける際、やはりどうしても困るのは話題だ。
話し掛けるわけ。
そこで不自然になってしまうと、相手は疑問に思うし、私も恥ずかしさで自殺する。
なので、私も多くの知識を保有し、彼も美食家というアドバンテージを持っている『食』の話でいこうと考えた。
そうなると、自然に『食』の話へ持って行ける時間は昼食の時だけとなる。
だから私はこの時間に決行することを決めたのだ。
……と、ここまでは良いんだけど『食』の中の何について話すかまでは決めてない……
これは細かいところまで考えていなかった私の落ち度だ。こればかりは頑張って乗り切るしかない……
でも、人見知りの私がそんなこと出来るだろうか?
普通の人と喋る事さえも人並み以下の私が、ましてや好きな人の前で正常な思考回路が働くのだろうか?
ハッキリ断言できる。無理に決まってる。
詰んだ……
私は後ろの彼を見る。彼は持参してきた弁当を涎を垂らして輝いた目で見つめていた。
そんなちょっと汚いところもまた可愛い。やっぱり私は海里様が大大大大好きだ。
……はぁ。だからこそ、こんな私に失望する。人望も無ければ人付き合いも悪い。オマケに最近太った。
こんな雌餓鬼を彼が好きになるのだろうか? いや、きっと心優しい彼ならそんなこと関係ないのだろう。
でも、それは自分自身が許せない。視線を彼から外す、そして次に目に入ったのは、ドアの前に立っている四音だった。
やった! 四音にこの事を相談しよう!
彼女の元へ直ぐさま移動した。
「どうよ? この時間に話し掛けるって言ってたけど、喋れたの?」
「それが、内容を細かく決めてなくて……『食』について話すとは決めてたんだけど……」
「えぇ……あ、そうだ」
何か良い話を考えたのだろう。
「昨日ファミレスで食べてたアレ、あの隠しメニューのことで話したらどう?」
隠しメニュー……? あぁ、あのハンバーグのこと。でもあれ知ってるかな? どん兵衛さんのツヴィッターフォローしてないとほぼ見つけるの不可能何だけど……
その事を四音に伝える。
「えっ!? そうなの? え、えっと、ほら! 彼食に関しては詳しいじゃん!? こんな近場の店の裏メニューなんだからさ、知ってるんじゃない?」
「そうかな……」
「『九条くんそのお弁当美味しそうだね。ねぇ知ってる? 隣町の『ブロンコドンキー』に裏メニューあるんだよ?』はいっ!! リピートアフターミー!!」
「えぇ! え、え…と、く、九条くんそのお弁当美味しそうだね。ねぇ知ってる? 隣町の『ブロンコドンキー』に裏メニューあるんだよ……?」
勢いに気圧されて言ってしまった。
「よし!! それでオッケー!! ほら、行った行った!!」
「ちょ、ちょっと……」
四音に背中を押され海里様へと向かう私。……一歩一歩が重い。世界が止まったかのように遅くなっていくのを感じた。
駄目だ。近付くにつれ頭の中が真っ白になっていく。もう私は四音の言っていた言葉を覚えていない。
本来ならば、ここで一旦戻るという行動を選択していただろう。
だけど、足が止まらない。彼の近くに寄りたいという衝動が理性を抑えてしまう。あぁ、こんな何の考えも無しに彼と話せるわけがない。
……いや、落ち着け、私。ここで全てを諦めてしまうのか? 今までの犯罪を無に返してしまうのか?
そんなことは許されない。あってはならない出来事だ。
覚醒せよ!! 私の人見知りよ!!今、本領を発揮するときだぁぁ!!
と、そんな狂ったことを脳内でしている私の第五感の内の一感、視界が落ちていくソレを感じた。
ソレは、床に落ちるとべちゃりとくっつき、そこから動き出す気配はない。
ソレとは、米のことであった。私の大大大大大好きな海里様が落とした米。
そして、視界が暗転する。
――気が付いた時、私は四音と共に廊下で立っていた。
「……あれ?」
私、海里様と喋ろうとしていた筈じゃ……。もしかして、あれは全部妄想?
四音が私の肩に触れる。
「ま、まぁ……ドンマイ……ぷぷっ」
泣くほどの笑いを堪えている四音の意味が分からなかった。だが、次第に脳が正常になっていき、自分が何をしたのかを知る。
私の顔はみるみる紫色へと変化していった。
「そ、そんな……わ、私は……」
私は、海里様の前でとんでもない失態を犯してしまった。事実だけが私を苦しめていく。
体は、今までにない以上脆く、儚く、今にも砂となって消えそうなほど力が入らない。
「そ、そんな……」
膝から崩れ落ちる。生きている心地がしないとは、正にこの事だろう。
私は死んだも同然だ。私は彼の為に生きているのだから。
「ははっ……はははっ!!」
もうどうでもいいや。このまま死のう。
「えっ!? ちょいちょい、氷ちゃんそんなヤバい感じだったの!?」
四音、今更気付いてももう遅いよ。私は終わったんだ。
「だ……まだチャンスはあるって!! ほら、今の出来事彼全然気にしてないみたいじゃない!!」
「ははっ……ははっ……」
「あぁもう!! ほら!」
無理に後ろを向かされる。そこには何やら考え事をしている彼の姿が。
……あれ? 気にして…ない?
「ふぇ?」
「まだ次があるよ!! そうだな……じゃあ次はもう思い切ってお友達になってもらおう!! ほら、あんなことやっても嫌われてないんだから、きっとなってくれるよ!!」
「でも……それってあんなことやっても私は彼の眼中に入ってないことなんじゃ……」
「違うよ!! あぁ……そこ、氷ちゃんの悪い癖だよ!! 何でも悲観的に考えすぎ! もっと自分に自信を持ちなよ」
「自信……」
「そう!!」
……ここでやらずに一生を終えるか、やって一生を終えるか……。
私は、強く決心した。
「行″く……」
「よし……あ、ほら氷ちゃん。涙拭いて。可愛い顔が台無しだよ」
「んっ……じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
私はもう迷わない。狂ったりもしない。ただ、彼に友達になってくれと懇願するだけで良いのだ。
そう言い聞かせている内に彼の前にたどり着いた。
「……ねぇ」
自分でもびっくりするほどスルリと声が出る。
「な、なんだ……」
やっぱり彼は優しい。あんなことをしたのに私を嫌悪することなく接してくれる。
「…………」
「…………」
ここまで来て言葉が出て来ない。後一歩なのに、その一歩が重い。
「あの……」
彼は「はい」といった表情でこちらを見つめてくる。私は期待に応えないといけないんだ!!
「友達になってくれませんか」
言い切った。達成感がやってきて、それをぐっと噛み締め返事を待つ。
が――
返事が来ない。
あぁ…そっか……
私は彼から離れる為に早足で四音へ向かう。そして、そのまま四音を通り過ぎて行った。
「ひ、氷ちゃんまだ返事もらって――――」
「うるさい」
私は、嫌われたのだ。返事をもらえなかったのだ。同情して欲しいなんて思わない。それは運命なんだ。
「ちょっとトイレ」
気持ちが、悪かった。
_________
「師匠、今日の晩御飯はカレーにしましょう」
「えー、ワシハヤシライスが良い~」
「だだ捏ねないでください。今手元にはカレールーしかないんですから。カレーで我慢してください」
「ワシ、ハヤシルー持っておるぞ?」
「「……………………」」
「はっ!! ハヤシなんて所詮カレーのパクリですよ!! ここは大人しくオリジナルであるカレーにしてください!」
「なんじゃと!? ハヤシを侮辱するか!! 言っとくのじゃがな!! カレーなんて家でつくって食べるよりココ◯チ行った方が美味いんじゃよ!! やっぱり家で食べるならハヤシじゃハヤシ!!」
「「ぐぬぬぬぬ!!!」」
「もうこうなったら」
「あれで決めるしかないのう!!」
「「料理対決じゃ(だ)!!」」
カレー派(ポイントを付ける)
↓
うん、カレーは定番だもんね! そんな君に良いお知らせ!! ハヤシカレーっていうカレーもあるよ!! 美味しいから食べてみよう!!
ハヤシ派(ブックマークを付ける)
↓
うん、ハヤシのコクがたまらないよね!! そんな君に良いお知らせ!! カレーハヤシっていうハヤシもあるよ!! 美味しいから食べてみよう!!
ps.作者はビーフシチュー派です。共感者がいたら感想に書いてね。