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ヤンデレさんの気持ち

誰が一日一回投稿だと言った?

____________

 私の名は雅 氷。人見知りでちょっぴり愛が重いな陰キャ女子だ。突然だが、私には大大大好きな人がいる。


 学校で真ん中の席だというのに一切の存在感を放たずひっそりと生活している彼。


 彼の名は九条 海里。寝ぼけづらでアホ毛がチャームポイントの私の王子様である。


 彼との出会いはまだ浅く、高校生になって始めて会えた。


 でも、始めて見たその日から、私は()()()だと分かった。


 仕草、声、動き、性格、全てが似ていたのだ。これを運命と言わずして何と言う?


 そこからは、情報収集の始まりだ。家の金を使って超高性能双眼鏡を買い、近くのビルを買い取って二日に一回そこから観察をした。


 因みに、双眼鏡である理由は動きやすくするためである。


 海里様の家の間取りを覚えるために間取り図を入手し、敷地を無断で改造。地面に穴を掘り下からも海里様を覗けるようにした。


 あんまり大きな穴だとバレるし、小さな穴を多く作ったとしても家の床が脆くなる可能性があったので場所は制限されたが、それでも十分な情報量を入手できた。


 ……目に水が入るのは痛かったけど。


 休みの日は大切な用事が無い限り、海里様の後を付けるか、海里様の旧友に海里様の内面を教えてもらうことをしていた。


 そのお陰で今では、外に出た際にどのような行動パターンで動くかを予想出来るようになっている。


 ここまでしている私だが、学校内では私は海里様に関わらない。というよりも関われない。

 そう、私は人見知りなのだ。


 シャイなのだ。

 普通の人にも「そう」としか返すことが出来ない。そんな私が、好きな人と関わる?


 無理に決まってる。相手から嫌われたらと思うとどうしても行動することが出来ない。


 どれだけ相手のことを知っていても、嫌われたら意味が無いのだ。


 一回だけ、嫌われる確率を下げる為に彼の性癖ドストライクな感じにイメチェンしようかと考えた。

 でも、それは失敗するしない以前にやるという気持ちがなかった。


 そんな偽りの自分が好かれて何になるというのか。そして、そんなことをしてもし嫌われたら私は生きていけない。


 だから私は、未だ彼と関わる事無く、情報収集という形で逃げていた。


 ただ、情報だけを集めて、彼から一切意識されることもなく、勝手に独りで……。


 そして、彼にGPS発信器を装着しようとした時、ふと思ったのだ。



 ――これって…犯罪……?


 今まで、情報収集としか考えてこなかったこと。


 それは世間一般からすれば「ストーカー行為」という立派な犯罪になっていたのだ。


 私は心から焦りまくる。


 ストーカーを働く私は、一体彼に知られたらどう思われるのだろうか? やはり、嫌悪されるのだろうか?


 自分の魂がドロドロに溶けていくのを感じた。もうどうしようもない。このままじゃ今までが台無しになってしまう!!


 極限状態にまで追い詰められた私は、ある決断を下す。

 私の唯一無二の、昔からの親友にこの事を話そうと。


 今まで何故それをしてこなかったのか。


 それは、ほぼ彼のことを知らない彼女に、私が彼の良いところを口を滑らせ言ってしまい、彼のことを好きになってしまうという最悪の事態を起こさない為だった。


 そんなこと普通は起こらないだろうというような可能性も、私にとっては十分脅威なのだ。


 ――四音、私の好きな人、見つかった。


 私は四音に相談した。

 これからどうしたらいいのか。相手に振り向いてもらえるのか。私の愛は届くのか。


 こんなどうしようもない私の話に、彼女は真摯に向き合ってくれた。


 四音は色んなアイデアを出してくれるが、どれも私のせいで不発に終わる。


 このままじゃダメだ。

 そう思った私は、気分転換に隣町の店のファミレスでまた話し合おうと四音に提案した。


 隣町のなのは、少しでも彼がいる確率を下げる為だ。


 ……それと、ちょっと裏メニューを食べてみたかったというのもある。


 自分の町にも同じ店はあるから、同じ学校の生徒がいる筈もない。私は、焦燥に駆られながらテーブル席に座った。


「んーで、どうなったの?」


 四音には好きな人が出来て、アプローチを頑張って行っている途中で、全部失敗しているのと言っている。


 だってストーカーしてたなんて言えないし……。


 黙っている私に彼女は「はぁ」と溜息を吐いた。


「氷ちゃんの好きな人と話せたの?」


 ニヤニヤしながら聞いてくる。好きな人、という言い方に少しムッとくる。


 四音も知っている筈なのに、他人行儀ということは……


「……無理、だった」


 取り敢えず今は話を進めよう。さぁ四音、私に良いアイデアを……


「まぁたダメだったの? まだ一言も喋ったことないんでしょ? そんなんじゃいつまで経っても恋は実らないよ?」


 親身になって言ってくれる四音。なんか芝居してるみたい……


「うぅ……でも……」


「恋は実らない」という言葉に強く反応してしまう。分かってる……分かってるけど……。


「あのさぁ、いくら氷ちゃんが美少女でもこっちからアタックしなかったら意味ないよ? 一生叶わない恋で終わっちゃうよ?それでもいいの?」


 自分で美少女だと思ったことはなかった。でも、他人から言われると一瞬本気で思ってしまう。


 そして、四音の言うことは最もだ。仮に私が本当に美人だったとしても、意識してもらう理由にはならない。


「それだけは……嫌だ」


「でしょ? なら何か行動に移さないと」


「もう行動には移したし……」


「おぉ、そうなんだ! で、何したの?」


 そう、私だって相手からの反応を見なければ関わることだって出来るのだ。


 はたしてそれは関わったと言えるのかどうかは次として。


「体操服の匂い嗅いだり下校の時後ろから後をつけたりバレンタインデーに自分の髪を入れたチョコを渡したり……」


「は?」


 あ、本当のこと喋っちゃった……。あぁ! 四音にバレないようにここまで練ってきたのに……もうこうなったら全部言っちゃえ!


「ねぇ……それ止めた方がいいよ? 逆に気持ち悪がられるって」


 うん……自分でも重々承知でいるつもり。


「うん……そう、だよね…………自分でも分かってる。でも、なんか止められなくて……これって禁断症状なのかな?」


 止められなくてというか、止めようという気持ちにもなれない。


「禁断症状だわ」


 引き攣った顔で言う四音。


「ま、まぁ、本当にその人のことが好きなら今すぐどうにかしてその禁断症状を治すことをお勧めするよ」


「そう……でもどうしよう? 言っちゃえば私が服の匂いを嗅いだり下校の後をつけたりするのってもうご飯食べるのとかと同じぐらいの欲なの。四音は大好物のご飯が目の前にあるのに食べちゃいけないって言われたら凄い食べたくならない?」


「なるほど……えぇ、じゃあどうすればいいんだろう」


「むぅ……」


「ん……」


 長い間議論を繰り返す私と四音。あれやこれやと考えてみるが、何だかしっくりこない。


 すると四音はこんな提案を出してきた。


「ねぇ氷ちゃん」


「なに?」


 ニヤニヤしている……。四音のニヤニヤはあまり良い時のものじゃないけど、今はそれに縋るくらいしか出来ない。


「もうヤンデレを治すのは諦めてもう素直な感情で接したらどう?」


「え?」


 どういうこと? そんな、ヤンデレがあったら嫌われるでしょ?


 四音の意図が分からず困惑する。


「でも……四音も言ったじゃん。引かれるかもしれないって」


「でもさ、ネットで調べたけどやっぱりヤンデレは治るようなもんじゃないらしいんだよね。もう治らないんだったらいっそのことありのままの自分を見てもらった方が良いんじゃないかな?」


 でも……それで一生関われなくなったら………


「――――逆に海里くんに分かるように後をつけたりしたら、自然と氷ちゃんが海里君のことが好きだって分かってくっ付くことが出来るんじゃないかな?」


 その言葉に私の脳強い衝撃を受ける。

 ……そうだ、私は今まで臆病になりすぎていたんだ。ヤンデレを治す治さない以前に、まず認識すらされていなかったんだ。


 いくらヤンデレを治したところで関わりを持たなきゃ何も始まらない。四音は暗にそう言っているのだろう。


「……なるほど……押して駄目なら引いてみろってこと?」


「そうそう」


 よし……もう私は嫌われたらなんてこと考えない……取り敢えずまずは認知してもらうことを第一にしよう!


「分かった!! 明日から今まで以上に積極的にアピールする!!」


 こうして私の恋は急速に動き出す。

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