チャラ男襲来
「おっはよー九条くーん。ほら、氷ちゃんも挨拶して!」
「あ、か、海里しゃま!! ……お、おはよう、ございます」
家の玄関を出て直ぐ、俺の登校する住宅街ルートをスタスタ歩いていると、後ろから声を掛けられた。
言われるまでもなく、ヘラヘラ笑っている君谷さんと顔を赤くしている雅さんである。
そうやって干渉してくるのか……
「……お、おはよう」
いくらコミュ障でも最低限の挨拶は出来る。だが朝は弱く、あまり喋りたくない気持ちのせいで音量は最小限だ。
そこで君谷さんが手を叩く。爆散するコミュニケーション障害。
「元気がないなぁ。これだから陰キャなんだよ?」
「うっせ。陰キャで結構だよ」
「か、海里様……。一緒にとと登校しませんか……?」
雅さんが吃りながら俺にきく。
うっ……そんな上目遣いで言われたら断れないだろ……男として。
「……いいよ」
コミュ障は治ってもイエスマンは治らなかったみたいだ。
君谷さんの手にかかればそらも治りそうな気がするけど……
三人で通学路を歩く。この様子を学校の人が見たら絶対に稀有な目でみられるだろう。
「そういやさ」
「ん?」
「雅さんと君谷さんって家何処なんだ?」
「私は北山羊町だねー」
「私は北馬町、です」
なっ!?
「ここ南馬町だぞ!? 一周回ってきたのか!?」
「まぁそうだね。だって、友達なら一緒に登校するでしょ?」
ウィンクして言う君谷さん。毎回思うけどあんたにとっての『友達』って何なの? 意味履き違えてない?
「でも雅さんって昨日下校しようとした時興奮したからなのか恥ずかしいからなのか知らないけどオーバーヒートしてたよな? 朝はいいのか?」
「下校はカップルみたいで、登校は友達みたいだから……です」
あー、確かにそういうイメージはあるな。友達以上恋人未満の幼馴染と主人公が一緒にいる印象だ。
これぞオタク脳。
でもそうか、雅さんはカップルっぽいことをするとバタンキューしてしまうのか。
結構初なんだな。
特に話す話題もなく、鳩の鳴き声を聞きながら道を進む。
横を見ると、明らかに様子がおかしい美少女の横顔がある。その美しさに、不覚にも俺は見惚れていた。
……雅さんってキャラが濃いよな。
ふと、そんなことを思った。
クール系人見知りサイコパス犯罪者ヤンデレ白髪美少女だぞ?
だいぶ渋滞してるだろ。誰かに分けてやればいいのに。サイコパスとか犯罪者とかヤンデレのヤンの部分とか。
「そういえば、九条くんっていつも学校で何してるの?」
沈黙を破って君谷さんがそんな質問をしてきた。
「いつも? いつもは学校で――」
「ラノベを読む約36%筆箱等で遊びをする約20%顔を伏せる約19%ボーッとする約12%鼻歌を歌う約11%涎を垂らす約2%」
「……」
本人よりも先に正確に言えるのってどうなんですかねぇ?
やっぱり雅さんはちょっと異常だわ。
正直なところ少しだけ慣れてきてるところはあるけどそれでも自分のことこれだけ深く知られてるのってクソ恥ずかしいんだからな?
「おぉ、流石氷ちゃん。本人よりも正確だねぇ。海里様検定があったら絶対一級だろうね」
なんだよ海里様検定って。
「つくる……!」
つくらなくていいです雅さん。どうせ雅さんしか受けないから、そんなの。
※※※※※
「氷ちゃん、九条くん一緒に昼ご飯食べよー」
四時間目の終わり、君谷さんがわざわざこのクラスまで足を運んできた。手には弁当をぶら下げている。
「…………」
雅さんはそれを不機嫌に睨む。
「まぁまぁ、いいじゃん。私がいないと二人は何も発展しないでしょ?」
宥めようとするが、雅さんは未だ不機嫌そうだ。
…俺はクラスの皆からの嫉妬の目を浴びながら飯を食わないといけないのか……
最近ゆっくりして飯を食える時間が少なくなってきたな。
これも君谷さんのせいだろうか?
「あ、この椅子借りるね」
「は、はひ!!」
相変わらずの横暴っぷりで近くの男子生徒から椅子をぶんどる君谷さん。机は俺と雅さんのをくっ付けてその間を使うようだ。
「「「頂きます」」」
できれば二人ともあまり関わらないで欲しいけどなぁと思いつつも、内心では今にとても満足している自分もいる。
なんてったって初めての女友達とのご飯だ。
これから何かされるかもしれないが、どうせなら今は周りを忘れて普通に友達関係を楽しみたい。
女性とご飯なんて母さんとしかなかったからな……
もっと言えば、他人と食べるということも親友としかやってない。
小学生の頃にあった班で机をくっつけて食べる給食でも、俺は空気で輪に馴染めず誰も話し掛けられなかった。
親友も他校で元気にやってんのかな?
「そういや今日の二時間目の授業がさ、チョウチンアンコウセンセーだったのよー」
「…………ふぅん」
俺は素っ気ない反応をする。
君谷さんの話にはついていけなかった。
ていうかノリが完全に陽キャで絡みづらい。
話す機会もないしな。
「はふ……はふ……」
雅さんの弁当箱を見て俺は驚愕する。
なっ!? まだ温かい弁当……だと!? あ、これ一回見たことあるぞ? 確か、『USBヒーター内蔵保温ランチボックス』だったか?
あ、そうだそうだ今思い出した。あれ俺が金の使いすぎで買えなかった弁当箱だ。
いいなぁ。あれがあればもっと美味しく飯が食えるんだろうなぁ。
「……ふにゅ」
俺が雅さんの方を凝視したせいか、小さく動かしている彼女の口元が淡く色づいた。
お願いだ。マジで普通の女の子であってくれ! そしたら大歓迎だから!! 寧ろこっちから告白しちゃうから!
「――――になろうって……ねぇ、話聞いてる?」
「あ、は、はい」
いや、雅さんに気を取られて聞いてなかったわ。
そう言おうとした。でも、口が開かない。なんてことない、ただのコミュ障だ。
あれぇ!? 何で!? 朝に治してもらったよな!? 二回目も叩かれてないし……えぇ?
「あ、言い忘れてた」
君谷さんは食べながら喋りだす。
あ、それ俺のアスパラガス! 取るなよおい!
「……じゅるり」
雅さんもそんな欲しそうな目でみないで!! そんなに欲しいなら後であげるから!
「あの催眠術制限時間があるから二回目叩かなくても効果きれるからね。因みに制限の長さは私の度合いによりまーす」
制限時間付きとかそんなのあり? もう一回叩いてくれよ。
「……叩け」
「無理」
なんで!?
「ウヒヒヒヒ。戸惑ってますねぇ」
変な笑い声を出す君谷さん。これは何が何でも自分で習得する必要がありそうだ……
そう認識しながら俺が雅さんにレンコンサラダを渡した――その時だった。
「おっ、四音ちゃんじゃねっすか! どったの? 俺んクラス来て」
突如として後方から陽気なチャラい声が聞こえる。
俺は声の方へ目を向けると、そこには肌黒鼻ピアス金髪ボーイがヘラヘラ笑いながら近付いてきていた。
このチャラ男は、飯嶌 楽。このクラスの中心人物、見た目に反して優等生な、いつも笑っている都会ボーイだ。
彼は去年に東京から此処へ引っ越してきたらしいが、その持ち前のコミュ力で一気学校のカースト上位へのし上がり、その性格から『男版君谷様(劣化)』と呼ばれ親しまれている。
劣化って付いてるとこ皆が君谷さんを神格化してることが分かるよな。
絶対いらねぇって。可哀想だって。
「おぉ、劣化版私じゃん!」
ちょ、君谷さん容赦ないな!! 本人の目の前で言うとか鬼畜!
「ハハハハハッ!! それ四音ちゃんに言われるとかマジパネェ! 俺ちゃん泣いちゃうぜい?」
「笑いながら言うなっての。冗談だって冗談」
な、なんだ冗談なのか……
こういう冗談を冗談と思えないのも友だちが出来ない理由なのかな? だとしたら……うーむ。
俺は友だち一桁台で人生を終えるかもしれない。
「ウェーい!」
「ウェーイ!!」
君谷さんと飯嶌くんが手を叩く。
クソッ、これじゃ催眠はかからないか。
「んで、なんで四音ちゃんこのクラスで食ってんの? いつもの奴ら何処行ったんじゃい」
「あいつらねー。ちょっと用事あるからって断ったわ。氷ちゃんたちと喋りたかったしね。あ、もしあいつらに合ったら恋のキューピッドやってるって言っといてー」
その発言に一瞬固まる飯嶌くんだったが……
「おうふ。そういう事ね。完全理解したわ。……マジパネェな。こりゃあヤベェカップリングだわ」
「はむはむ……♪」
「…………」
俺とさきイカを幸せそうに噛んでいる雅さんを見て面白そうに笑う飯嶌くん。
さきイカ美味しいよね。ちょっとくれないかな?
「なぁなぁ」
「んー?」
飯嶌くんがコソコソと君谷さんに耳打ちする。
「俺もソレ、参加してもよろっすか?」
「んー、いや、止めといてー。これは私の特権だから。恋のキューピッドは一人しかいらないのさ」
キメ顔で言う君谷さん。
「おぉ、なら俺は遠くで見守ってるわ。なんか面白いのあったら教えてちょ」
「オケオケー」
「んじゃ、飯食ってくるわ」
「まだ食ってなかったの?」
「集会あったんだわ。マジめんどいわ」
「乙」
「じゃな」
男子の集団に戻っていく飯嶌くん。
「…あいつ、結構真面目だし、止められたらたまんないからね……」
「…………ん?」
今なんか言ってなかったか君谷さん。
そう思い君谷さんに目を向ける。それに気付いた彼女はニコリと笑って言った。
「いやなんでもないよー」
……いや、これなんかあるだろ。
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「ヤバイ…………ワシもう死ぬ…………」
「死なないで師匠!! ぎっくり腰なんかで最期を迎えないで!! くそぅ! ポイントさえあれば…………はっ!! あんなところにポイントが!! 師匠! 早くこれを尻の穴に突っ込んで!!」
「え?それ入れるの?結構大きくない?ちょっと嫌なんだけーーーー」
「つべこべ言わず入れろ!!」
「アァッーー」
次回雅さん視点