裏の顔があった陽キャさん
「ごめん状況が掴めない」
え、何で可愛いって言ったら友達にならなきゃいけないんだ? なんかおかしくない?
「まず、君谷さんが雅さんのことをどう思ってるのかを聞いたんだよな……」
「そうだね。それで君が『可愛い』って言って、私が、じゃあ氷ちゃんの友達になってあげてよって」
「そこだわ」
「え?」
え? じゃねぇよ。
「何で可愛いと思ってるからって友達にならなきゃいけないんだよ!!」
「え、なりたくないの?」
「いや、そういうわけじゃなくて……何というか、言い辛いけど文章が繫がってないって意味だよ!」
「んー繫がってないかな?」
ダメだこの人。自分のしたいこと優先してるせいで話が飛躍してる。
「まじで、国語力皆無かってぐらいに繫がってない。そして願わくばその考えに至った経緯を知りたい」
「経緯って言ってもなぁ。……九条くんは氷ちゃんのこと可愛いと思ってるんでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「可愛いって正の感情じゃん。正の感情ってことは良いように思ってるってことにもなるわけで」
「あー、うんまぁねぇ……」
悪い感情を持ってるわけじゃないからなぁ。ただヤンデレの束縛力でMIちゃんに貢げなくなったり度が過ぎた愛を押し付けられるのが嫌なだけで……。
「氷ちゃんの好きな人が氷ちゃんのこと良いように思ってるならくっ付けてあげるのが親友の努めじゃない?」
「あー」
ちょっと無理矢理な気もするが、一応彼女も彼女なりに筋の通った理屈はあったらしい。大分端折ってるせいで全く意味不明だったぞ……。
でも、一つだけ納得いかないことがある。
「なぁ君谷さん」
「なぁに? 納得してくれた?」
「――――親友の努めだから。じゃないだろ、理由」
君谷さんの顔から表情がストンと抜け落ちた。さっきまでのつくられた顔は何処にもない。そこには、君谷さん本来の顔が存在していた。
それを見て俺は思う。
……やっぱり、か。
別に、証拠があったから聞いたわけではない。普通にそれだけの理由だとしても納得するだろうし。だが、昨日見せたあの『笑った』表情。
あの顔からは俺の嫌いな感じが滲み出ていたのだ。
「……あーあ、バレちゃってたかぁ」
君谷さんの呟きが虚空へ吸い込れる。声のトーンも大幅に下がっておりいつもの純粋無垢な元気っ娘というイメージとかけ離れていた。
これが、彼女の本性。君谷 四音の性格。
「凄いね、九条くん。今までで本当の私を見つけれたのは氷ちゃんと君ぐらいだよ」
「あぁ、そりゃどうも」
そういうのには結構敏感なものでね。
完璧な人間と言われている奴には裏があるってのは、嫌というほど知っているんだよ。
「君の言う通り、確かに私は氷ちゃんの手助けをしたいだけでこんな事はやってないね」
君谷さんは「ただ」と続ける。
「その気持ちがないわけじゃないから、そこだけは覚えておいてね」
釘を刺すかのように言われる。それが嘘か本当か見当が付かない程、俺は人間不信じゃない。
「私はね、詰らないのが嫌いなの」
「詰らない……?」
「そう」
彼女は後ろで手を組み、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「何にも起こらないこの世界が嫌い。ドキドキもワクワクも、楽しくないこの社会が嫌い」
一歩ずつ、確実に、俺へと迫ってくる。
「どうにも私ってこの世界に馴染めないみたいなんだよね。だから、何も起こらないなら」
立ち止まる。俺との距離は十センチ程にまで縮んでいた。
そして――――彼女は笑う。
「私が起こしちゃおうって思ったの」
君谷さんは、黒い嗤みを浮かべた。例えるなら、『道化の悪魔』。
自分を偽り、人に悟らせないように笑う悪魔。俺は、彼女が人と違う思考を持っていることを実感させられた。
……ただ、少しばかり言わせてもらってはくれないだろうか。
君谷さんは『世界に馴染めない』だったり、『楽しくない社会が嫌い』だったり、なんかSFモノの創作物の敵ボスみたいな発言してるけどさ……
「しょぼくない?」
おっと口が滑ってしまった。
催眠術の弊害か。
「……しょぼい?」
「うん。だって今の雰囲気とか喋り方とか絶対にもっとヤバい感じだったじゃん? 厨二病的な発言すら罷り通りそうなくらいのシリアスだったじゃん? それなのにやることが一人の高校生の青春を弄ぶだけとかなんだか拍子抜けというか……。本人からしたらそれもそれで迷惑だけどな!!」
「しょぼくたって良いんだよ。私が楽しめさえすれば。あと、厨二病って言うのやめてくれる? 本心だから」
本当に愉悦そのものを欲しているのか……
「それに、大きなことやって刺激を得てもその後刑務所で過ごすのは嫌じゃん? 一回の楽しみで人生を終わらせる気はないよ。死ぬのって痛いしね」
あ、はいそうですね。
「でも君谷さんはどうやって楽しむんだよ。そんな面白いことになることなくないか?」
「いやー、そんなことないよ。私に係ればどんな出来事も面白可笑しく、そしてカオスにできるから」
不安しかない。
「ということで今後とも宜しく。ちゃんと氷ちゃんと仲良くなってよ?」
ポンッと肩を叩く君谷さんの顔は屈託のない笑顔であった。
いや、いやいやいやいや。
「誰がお前の言うことを聞くか!! 俺は普通に生きたいんだ!! ましてや美少女に話し掛けるとか……周りの目が怖いだろ!! 特にファンクラブからの!」
「そこは私が何とかするからさぁ。ほら、私支持率良いし皆に結構好かれてるじゃん?」
「だとしても! カオスになると分かってて言われた通り行動するわけないだろ!」
「往生際が悪いなぁ」
「往生際が悪いとか……あ」
そんな遣り取りの最中、俺は目撃してしまった。悪魔などとは比べ物にならないくらいの、狂気に満ちた存在を。
「――四音?」
その声に、言葉に、君谷さんの体がビクリと反応する。
俺に向けていた余裕はもう既に消えており、顔から汗がダラダラと流れていく。
彼女が、ぎこちなく振り向いた先にその人はいた。
「あー、なぁに? 氷ちゃん」
言葉はいつもと変わらないが、声は震え、カタコトとなっている。
それもそうだ。だってそこに居るのは、鋭い果物ナイフ――何処から持ってきたのかは分からない――を握り締めた、焦点の合わない虚ろな瞳を持つ雅さんなのだから。
「あー、えっと、そのぉ…………」
「ねぇ、何をしてたの? 何で海里様とこんなところにいるの? 私がトイレに行ってる間に何があったの? ねぇ!! ねぇ!!!」
果物ナイフを君谷さんの首元に近付けて問う雅さん。わーホラー映画見てるみたいだー。
「ひぃ!!」
悲鳴を上げる君谷さん。……ご愁傷様です。もう俺は関わりません、関わりたくありません。
ということでさようなら、明日学校で会えたらいいね。
気配を消して出口へと足を運ぶ。
「っ!! そ、そうだ氷ちゃん!! 朗報があるよ!!」
「……朗報?」
雅さんの声が少し和らいだ。
「そうそう!」
その隙に付け入り一度距離をとる君谷さん。
それと同時に俺の背筋に悪寒が走った。
「おいお前何を言お――」
パァンッ!!
君谷さんの手のひらで衝撃が起こる。
すると、突如今まで自然と出てきていた言葉が、抑制されたかのように出てこなくなった。
喋ることの緊張が、脳内を支配する。
くそ! 別に猫だましじゃなくても手を叩けばいいのかよ!!
「なんと九条くんが氷ちゃんとお近付きになりたいって!!」
なっ!?
「えっ……」
ボフンッと顔を赤くする雅さん。
「ほんと……?」
「ほんとだよ!!」
「でもさっきは何も言ってくれなかったし……」
さっきも?
――――……と……ち………ま……か……
あぁ、あの時の「とちまか」か。多分「友達になってくれませんか」とかそう言うことを言っていたのか。
「ほら、あれは聞こえてなかっただけって言ったでしょ? 氷ちゃん悲観しすぎ。ほら、あそこに本人がいるんだから、聞いてみたら?」
「……っあ」
雅さんと視線が重なり合う。
っって!! 何やってんだよ俺ぇぇぇ!!??
逃げる隙なくなったじゃねぇか!! 雅さんが話してる内容とか考えてるんじゃねぇよ!!
過去の自分を叱るが、もう後の祭りである。
▽かいりは まおうに めを つけられた
「どうも……」
何となくの挨拶。
「か、海里様が私に声を……」
目を潤わせる雅さん。うん、そんな泣きそうになることないと思うな。俺は雅さんの中で一体どういう存在なんだ?
「あ、あの……ほ、本当に……友達になって……」
さて、ここで「いや違う。全ては君谷さんの戯言だ」と言えるのが妄想の俺。
じゃあ現実はというと……。
「…………はい」
これで否定を述べれるのは余程空気読めない奴か死にたがりだけだ。
イエスマンの俺が『はい』と言えないわけがない。
俺は内心を隠すようにできる限り笑いを浮かべておく。
「~~~~~~~!!!」
……まぁ、可愛いからいっか。
俺は遠い目で現実逃避した。
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作者はふと思いました。
後書きに【評価お願いします】と書くのと何も書かないのではどれ程差がつくのだろうかと。
ということで【評価】【ブックマーク】をお願いしやすぜ。旦那ぁ。へへっ。
√(θωθ)√ ←作者
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