陽キャさんとの対話
「はぁ…………今日も君谷様は美しい…………」
「え、何? あんな奴クラスに居たっけ?」
「まじあいつ誰だよ…………」
「何であんなモブが君谷様に呼ばれて…………」
嫉妬九割他一割ってとこか。てかクラスメイトに名前どころが存在すら覚えられてない俺って何?(哲学)
重い腰を上げて君谷さんへ向かう。くっ…………周りの視線が痛いな…………。
「……………………何?」
「ちょっとこっちに来てくれる?」
君谷さんはそう言うと俺の手を掴んで走り出――――おわっ!! 初めて母さん以外の女の人に触っちゃった!! 手の感触すげぇ柔らけぇ!! めっちゃ肌スベスベしてる!! てか、え、クソ良い匂いするんだけど!?
ナァニコレ!?
「あんまりペタペタ触ったり匂い嗅がないでほしいな…………。あと、鼻息荒いよ」
おっと俺としたことが。初めての出来事に舞い上がってしまったみたいだ。いかんいかん。
「ちょっとペース上げるね」
オッケ――――え?
※※※※※
「んー、この辺なら大丈夫かな」
「ぜぇ…………ぜぇ…………ぜぇ…………」
走ること数十秒。俺はドチャクソバテていた。き、君谷さんまじ速ぇ…………。俺も最近全然運動してなかったけど、それを差し引いても君谷さんの速さには追い付くことはないだろう。
ここまで君谷さんについて行くことが出来たのは、たんに腕を引き千切られるかというほどの痛みを代償に引っ張ってもらっていただけのことだ。
てかさっき食ったばっかなのに走ったせいで横腹痛い。
「大丈夫?」
大丈夫に見える?
何気に息を切らしてない君谷さん凄いなと、思いつつも呼吸を整える俺。
ふぅ………………。で、ここどこだ?
辺りを見渡す。そこら中にホコリが舞っていて、ボロボロな木材で出来た学校の教室。机や教壇が置いてないことから、もう随分と使われていないことが分かった。そこから導き出される答えは…………。
まさかここ南校舎最果ての空き教室か!?
南校舎最果ての空き教室とは、無駄にデカい俺の高校で無駄に長い廊下を歩かなければ他教室に移動することが出来ず数年前までオオハズレ枠として存在していたが、最近南校舎が脆くなったことが切っ掛けで空き教室となった場所のことである。
たった数十秒でここまで来たのか…………君谷さんは何の為に…………いや、十中八九
「あ、今何でここまで連れて来たか考えてるでしょ? 言っとくけど、告白じゃないからねー」
だろうな。正直言って俺は好かれるような人間じゃないし、そういった期待も中学を卒業してからきっぱりなくなった。雅さんが異常なだけだ。
「さてと、じゃあ単刀直入に言わせてもらうね」
君谷さんの目が見極めるかのように細くなる。
「――――昨日私たちの後ろにいたよね?」
っ!?
胸がギュッと痛くなった。いや、分かっていたんだ。分かっている筈なのに、こう口にして突き付けられるといろんな感情が込み上げてくる。
冷め切った空気がホコリと共に漂う。早くも俺はこの状況から逃げ出したくなった。
こくりと、首を小さく動かし肯定する。ここで嘘を付いてもしょうが無い。
「あー、やっぱりそうだったんだ。顔合わせたの少しだけだし、私自身そこまで顔ちゃんと見たことなかったから確定は出来なかったんだよね」
とても楽しそうに笑い、喋る君谷さん。不覚にも可愛いと思ってしまった。馬鹿な、君谷さん中学校千人斬り伝説は本当の話だったのか!?
…………と、冗談はさておきこれだけは聞かねばならんことがある。
「…………みや、びさんは…………」
「ん?氷ちゃんはね。今トイレに行ってるよ」
コミュ力お化けと言うべきか、俺が言い終わるより先に応えを述べる彼女。
「じゃないと私も君に接近しないって。いくら私が親友でもあのヤンデレは普通に呪うからねー。知ってる? 氷ちゃん君の親友をたまに妬んでるんだよ?」
聞きたくなかった事実。おいおいちょっと待てよ。俺の親友は男だぞ? 妬むの意味知ってんのか?
※【妬む】男女間のことでやきもちやくこと。
「だから親友くんとは氷ちゃんがいない時に会うのがオススメだよ~」
気の抜けた言い方で助言する君谷さん。いや、雅さんがいない時っていつだよ。
「それで、本題なんだけどさぁ、海里くんって氷ちゃんのことどう思う?」
「…………は?」
思わず声をだしてしまった。
雅さんのことをどう思うか? それは人としてなのか? それとも異性としてなのか? というかそもそも俺は雅さんとそんな間柄じゃないからその質問返すのに困るのだが。
「あ…………っと…………」
口篭もる俺。君谷さんは最初俺が喋るのを待っているが、俺が全く喋らないからか、キョトンとした。
「あ、そっか」
こちらへ近付いてくる。
そして――――
パァァンッッ!!
「うおわっ!!」
至近距離で猫だましを食らった俺は後ろに仰け反り、尻餅を付いてしまう。
「ふふんっ」
豊満な胸を張る君谷さん。
「っつぅ!! 何すんだよ!!…………てあれ?」
自然と飛び出してきた言葉に、俺は大層驚いた。いつもの人と喋る緊張がない。それどころが、何故か開放感まで感じている。
どうなってんだ…………。
「君谷さんがやったのか?」
立ち上がりながら聞く。
「どうだ? 凄いだろー!」
「うん、まぁ普通に凄い。…………でもどうなってんだ?」
「まぁそれはね、一種の催眠術みたいなもので、私がもう一度手を叩くまではそういう他人を意識しちゃうようにならなくなるんだ」
「何それ俺も使いたい」
まるで最初からコミュ障じゃなかったかのように言いたいことがスラスラと出てくる。あぁ、人と普通に話せるのはこんなに楽しいのか…………。
「駄目だよ。だってそんなことしたら私の楽しい楽しい計画が台無しに――――ってそんなことより最初の質問! 氷ちゃんについてどう思ってるの!」
なんか不吉な予感がするんですけど…………。
まぁ、いいか。
「……………………美少女」
絞り出した言葉がソレだった。うん、美少女。見た目は俺も好きかもしれない。
「それだけ?」
「…………おう」
それを聞いた君谷さんは大袈裟に「はぁ」と溜息を吐いた。
「これじゃ氷ちゃん悲しんじゃうだろうなぁ。だって美少女とか他人の視点でしょ? まぁ本当に思ってるんだろうけどさー、なんか可哀想じゃない? 好きな人にただの美少女としか思われてないなんて」
く…………それは求めている言葉じゃないってか? なら君谷さんは俺に何を言わせたいんだよ…………。
脳細胞を活性化し、全神経を集中させ、彼女の求める応えを探す。
嘘は吐きたくない。俺の本音で、雅さんが許容するような言葉…………。
「か…………」
「か?」
俺は、羞恥心を抑えつけて言葉にする。
「可愛い…………?」
美少女で駄目なら可愛いだ。この可愛いの言葉はリア充どもが彼女に向かって連発するような言葉。これならば嘘偽りなく、本当のこととして雅さんを喜ばせることが出来る…………筈。
君谷さんの反応を伺う。
「うーん…………ちょっと弱い気がするけど…………」
頼む! これ以上の言葉は見当たらないんだ!!
「まぁいいや! オッケー」
「うっしゃ!」
何がオッケーなのかは分からないが取り敢えず体全体を使って喜んだ。
「じゃあ氷ちゃんと友達になってあげてね。氷ちゃんヤンデレなのに人見知りで上手く話せないから」
「は?」
どうしてそんな話になる?