ヤンデレさんとお金騒動
「ん」
朝、久し振りに学校に登校したら、雅さんに諭吉さんを二枚渡された。
その場で硬直する俺。
クラスがザワザワと騒ぎ始める。
「え、お金? どういうこと?」
「ま、まさか……あいつ雅様に体の関係を求められて……!?」
「ちょっと男子、それは考え過ぎっしょ? あれだわ、これやるから焼きそばパン買ってこいよーテキな?」
「いや、それはいつもの感じからして違うだろ。きっと借りてたお金を返すとかそんなのだって」
「バカめ、二万も借りる人間がいるか? 貴様ら人間には分からぬようだがあれは正しく魔の刻印の刻まれた邪神ラーヴァナの白紙だ」
「バリバリお札ですけども?」
皆それぞれに自分の意見を言い合う。
「まて、これ以上考察しても無駄だ。大人しく見守ろう」
「それもそうだな。下手に言ってまたあぁなっても……思い出したら鳥肌立ってきた……」
どうやら静かに様子を伺うことにしたらしい。
鳥肌立ってきたとは、一体何があったのだろうか。
……一番この状況に驚いてるのは自分だって自信あるわぁ。
だって、一週間ぶりくらいに一人で登校したなーって思ってたら雅さんが先に学校に来てて、俺を見つけて直ぐに金渡してきたんだぞ?
全くもってわけわかめ。
だから、クラスメイトよ。そんな期待した目で見られても困る。悪いことは言わないから妄想だけに収めとけ。
十中八九君谷さんが関わってそうだしな。あの人は事実は小説より奇なりという言葉を擬人化したような奴だ。
きっと、カオスで面倒臭い何かが待ち構えているのだろう。はぁ、鬱になるぅ。
「えっと……これ…何?」
指を指して問う。今日はまだ君谷さんに催眠術をかけてもらってないからコミュ障海里くんなのだ。
「……金」
そりゃ見れば分かるわ。そういうことを聞いてるんじゃなくて、何の金かって聞いてんの。
俺よ、思ってるだけじゃ相手には伝わらないぞ。朝の教室に鳩の鳴き声だけがこだました。
「……」
「……」
「……焦れったい」
クラスメイトの一人が小声で呟いていたが、五メートル程離れているここでも普通に聞こえてきた。
普通に話せる人からすればそうだろうな。でも、これでもこっちは本気なんだよな。
他には分からない陰キャの辛さ。
「何の……金?」
「……塾」
塾? 何で塾? 俺塾通ってないぞ?
頭の中クエスチョンマークで溢れかえっていく。首を傾げる俺を見て、雅さんは口を開く。
「通って……」
「え?」
「そのお金……」
「「「は???」」」
クラスメイトの声と俺の声が調和した。この金で塾に通えっていうのか? 一体何の為に?
雅さんの奇行に混乱する俺たち。
「え? 雅様は何を成されるおつもりなのだ……?」
「塾って……えぇ?」
「あたしちょっとよく分かんないわ~」
じょ、情報量が少な過ぎる……。だ、誰か、彼女に訊いてくれ!!
その俺の脳内の叫びが届いたのか、ある一人の青年がその場に割って入る。
「あー……氷ちゃん、それはちょっと情報少な過ぎじゃね? それはマジパネェわ。訳分かんねぇ」
流石だ我らが飯嶌くんっ!! よくぞまあこの雰囲気で言ってくれた!
俺は心の底から飯嶌くんを褒め称えた。
「……そうなの?」
雅さんは俺に真意を問う。
俺はこれでもかというほど首を前後に動かした。ワタシ、マッタク、ワカリマセン。
すると雅さんは一度大きく深呼吸すると、決心したように大きな声を勢いよく発した。
「………あの、私の、かか、通ってる塾に……い、一緒に行きませんか!!」
雅さんは詰まりながらも顔を真っ赤にしてそう言い終える。その様子は恋する乙女そのものであり、何とも可愛らしくて……
――ズキュゥゥゥゥン!!!
「「「グハァッ」」」
あ、男子が死んだ。雅さんのクーデレのデレの部分に男子もとい防御力ゼロの童貞諸君らはノックアウトされてしまった。
残るは少数の経験済みと女子軍と、俺だけだ。
俺もだいぶ大きなダメージ喰らってるけどね。
……あ、所々女子もやられてる。
まぁね、こんぐらいでやられてちゃ命が幾つあっても足りないんですよ。
この罠に掛かって一時の感情に身を任せたら最後、地獄のヤンデレムーブかまされるのだから、ほんと違う意味であざとい人だ。
……で、雅さんは俺と一緒に塾に通いたいらしいが……何故だ?
君谷さんが見当たらない。こういう時はいつも何処かで隠れて見ているというのに
「……あいつ、何キョロキョロしてんだ?」
こっちにも事情があるんだよ。君谷さんを捜して催眠術をかけてもらうという事情がな。
……隅々まで目を行き渡らせるが、君谷さんは一向に見つからない。かくれんぼのプロなのか?
俺が目線しか動かしてないのも見つからない理由の一つだろうが、この辺に隠れれる場所等ほぼない。
この前掃除道具入れのロッカーはぶっ壊れたし、廊下側の壁の下の小窓も塞がれてある。
クラスメイトに紛れてるかも考えたが、君谷さんが居たら皆反応するだろうし、俺が見逃すようなことはない。
くっ……何処に居るんだ! 君谷さんは!
一方その頃、君谷さんは……
「あ、やっべ、ガチで寝過ごしちゃった!!
あれぇ!? いつもなら氷ちゃんが起こしてくれるのに何でぇ!?」
と、大遅刻をしていた。
「あ、あの…みや……びさん?」
黙ってちゃ何も始まらない。君谷さんがいない以上素の状態で喋るしか……
「……ん」
もじもじしする姿を愛おしいと感じない人はいないだろう。そんな奴は最早人間ではない。
流石は美少女。心を鷲掴みにして握り潰すのに長けている。
「……どうしたの?」
「うっ……ぅぅ……」
頭を働かせろ、この僅かな言動から彼女の意図を掴むのだ……
むむむ……分かった! ずばり、雅さんは俺と恋人になる一貫として一緒の塾に通おうとしてる!!
ちょっと考えりゃ分かることだったわ。そうだよな。雅さんは俺が好きだったんだよな……
「どんな……塾? なんだ」
「……これ」
相変わらずのテンポが悪い会話をして、雅さんのスマホで見せられたのは……何々? 落下塾? その名前塾につけちゃまずくない?
「借りるよ」
「ん」
スライドしていく。集団塾で、塾講師が……スゲぇな、全員慶応卒以上じゃん。へぇ……雅さんこんな所に行ってるのか……
俺もここ行けば偏差値上がるかな? …………ん?
「なぁ……」
「ん?」
「これ」
スマホを指差す。近寄ってくる雅さん。
「どれ? …………あっ」
俺が指を指した先、そこにはこう書かれてあった。
高校生 通常指導コース一ヶ月 十六万八千円
スタンダードエリートコース一ヶ月 二十二万
プロフェッショナルエリートコース一ヶ月 七十万
…………
………
……
「金、足り無くない?」
口を開きポカンとする雅さん。唖然、下調べをちゃんとしてこなかったのか。どっちにしろ、俺は雅さんと同じ塾には通えないみたいだ。
だって高過ぎるだろ。なんで一番金かからないので十万以上もするんだ?
無理無理、家では到底通えない。
「そんな……」
唇を噛み涙目になる雅さん。
勇気を出して俺を誘えたのに、金の問題で努力がパーになったと考えると……うん、途端に罪悪感が滲み出てくる。
俺悪くないんだけどなぁ。
_______
「ふぅ、散々な目にあったわい」
「あ、戻ってきたんですね。そのまま死ねばよかったのに」
「辛辣すぎではないかの? ブラックジョークも程々にせい」
「あ、ジョークといえば」
「なんじゃ?」
「メタな話ですけど、馬鹿作者がゲラゲラコンテスト3に応募したらしいです」
「なぬ? あのクソ馬鹿作者がじゃと? 何を考えとるんじゃ彼奴は」
「どうやら、最近ポイントを多く貰って有頂天になり、思い切って書いちゃったそうで」
「なる程のぉ。…………わしらは出るのかね?」
「いえ、全くこれっぽっちも」
「なぬ!? 血迷ったか!! あのクソ馬鹿底辺作家が!!」
(ぴえん)
「同感ですね。今すぐにでも畜生クソ馬鹿底辺作家をぶちのめしたいところですが、私たちは創作物。妄想主に逆らう術はありません」
「そのうえ宣伝でわしらを使うとは…………死ねばいいのじゃよ。あの畜生クソ馬鹿底辺ゴミ作家」
「そうですね。でもまぁオチをつけれなくなって困っているようなので、一矢は報えたようで何よりです」
「じゃな」
【社内のBGM】短編 コメディ 二千文字以下
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(θωθ)オネガイシマス




