ヤンデレさんの服選び+MIちゃん
“君谷”『ねぇ、氷ちゃんが今度遊ぶ時どんな服で行ったらいいか分からないんだって』
家でダラダラ出来る日曜日、俺も例外なくダラダラゴロゴロしていたところ、君谷さんのラウィンからそんな内容のメールが届いた。
何で君谷さんのラウィンからなんだ? それも唐突に。
“九条”『何で君谷さんのラウィンからなんだ?』
“君谷”『氷ちゃんが私に「海里様に嫌われないような服を着ていきたい」ってラウィンきたから、手っ取り早く本人に訊こうかなと思って』
あぁ、そういうことか。
しかし服か……俺も別にそこまでファッション気にしてるわけでもないんだよな。
“九条”『個人的にはどんなのでも良いけどな。そう伝えてくれ』
俺は無難にそう返した。
“君谷”『残念ながら、伝えられないんだなぁ』
“九条”『ん? どういうことだ?』
“君谷”『これ君に言うなって言われてるの。どんなのでも良いって私が言っても効果ないでしょ? 君の意見だと言うわけにもいかないし』
はあ? 言っちゃ駄目って言われてんのに俺に話すんじゃねぇよ!!
“九条”『おいおい、それは駄目だろ!!』
“君谷”『いいっていいって。だってファミレスでの件知ってるでしょ? あの時点でもう遅いの。氷ちゃんは君に好意を悟られたくなくてこんな回りくどいことしてるんだからね。なんか第三者としては笑っちゃうなww』
相変わらず悪魔のような性格だ……
“君谷”『という事でなんか他に好きな服とかない? あ、そうだ。写真送るねー』
写真?
君谷さんから写真が送られてくる。それは床一面に広がる大量の服の写真だった。
多っ!? え、これ何? まさか全部買ったの!?
“君谷”『氷ちゃんmisisippiで服有りっ丈買ったんだって。もうちょっと考えれば良いのにねぇ。waste』
ていうか部屋広くね!? 俺の家のリビングより面積あるけど……これ私室か!? 雰囲気が完全に上級国民じゃねぇか!
ま、まさか雅さんって大企業の令嬢とかそんな感じのお嬢様だったとか……?
…この五百着は軽く超えてそうな服の量をみるに、普通にありえるよな……
とんでもない人に目を付けられたのかもしれないと今更ながら思った。
元からとんでもなかったけど。
俺の色んな事を知っていたのも、親の金を使って……とかだったりして?
もしかして、あっちの家族全員がこれに関わっていたり……。
さ、流石にない……よな?
“君谷”『で、どんな服を選ぶ? 私はメイド服や裸エプロン。あ、バニーガールも良いかな!』
ブフォッ!?
“九条”『何言ってんだよお前!! 遊びに行くのにそんな健全男子である俺を刺激するような服を……てか、メイド服はまだしも裸エプロンとバニーガールって完全にグレー通り越してマックロクロスケだよ!! 漆黒だよ!! ビンロウジグロだよ!! 濡羽色だよ!! ベンタブラックだよ!! 因みに、お前の心は最近見つかった世界一黒い物質な!』
言いたいことを全部書いてしまった……。今度会ったときネット弁慶とか弄られそうだな。
でも雅さんはそんな公共の場で、エッチな服装とか絶対着ねぇって。まぁメイド服は……ちょっと見てみたい気持ちはあるけど……
雅さんに甘え声で『ご主人様……この未熟な私を……どうかお叱り下さい……』ってスカートめくりながらおっと誰かが来たよう((((((
“君谷”『お、おう……。こんな数十秒の間に長文お疲れ様っす……』
あ、君谷さん引いてるな。そりゃそうか。なんか今日の俺自分でも可笑しいと思うし。
“君谷”『あ、でもこんなに必死になってるってことはやっぱり君氷ちゃんが好きなのかなw? 自分以外の人間に氷ちゃんのエッロい姿見られたくねぇ!! 氷ちゃんのエチエチボディは俺のもんだ!! ってか?』
いつもの調子に戻った。雅さんを好き……か。まぁ、人並みには俺も好きなんじゃないのか? 知らんけど。
美少女でスタイルも良いし、通常時の性格も出来上がってる。だが問題はそう。俺が関わった時だろう。
人付き合い以外は割と完璧な雅さんだが、その時だけはヤンデレ、サイコパス、犯罪者属性が追加される。
完璧美少女が一転、ヤンデレの対象とされる俺から見れば厄介な存在なことこの上ない。
……これ俺が完璧美少女が好きなだけじゃね?
いや、でも完璧美少女=雅さんを指すからあながち間違ってないのか。
え、君谷さん? 君谷さんは割と抜けてるとこがあるってこと最近知ったから……
“九条”『まぁ、その解釈でいい』
“君谷”『ん?? その解釈でいいとはどういうことなのかなぁ?』
馬鹿正直に好きと言って問題を起こされたらと配慮してあやふやな応えにしたが、突っ掛かってきたか……
“九条”『それはそうと、俺は露出度が低めの服の方が好みだな。高いのも悪くはないが、今の時期冬だし、俺は創作物で露出多いのは大歓迎だが、リアルで自分からやる人はあざといって感じるから』
別にあざとくても全然いいんだけどな。どちらかというとってやつだ。
“君谷”『あっ話題そらした! い~けないんだ~いけないだ~』
“九条”『小学生か。高校生でそれ使う人見たことないぞ』
“君谷”『やだなぁここにいるじゃぁありやせんか』
“九条”『例外だな。それよりどの服が良いか訊くだけじゃなかったのか? 沼に嵌まってきてるぞ』
“君谷”『あー、まっ海里くんの言うことも一理あるね。じゃ、テキトーにコートとか送っときまーす。くくく、氷ちゃんの可愛い冬服にドギマギするがいい…………』
“九条”『へいへい』
俺はそれを打つとスマホの画面を閉じ、目の間を摘まんだ。
「あー」
何とも言えない脱力感。それを終えると目をぱちくりさせテレビへと視線を向けた。
今日何かやってたっけな………。チャンネルを順番に変えていくが、面白そうなアニメ、ドラマ、バラエティはなかった。
あ。
そういえば、今日MIちゃんがテレビに出るんだっけな。十一時半だったか? 今の時間は……やべっ!? 後一分じゃん!!
急いでチャンネルを変える。
『元気百倍ブロガリア!! 海鼠味も出た!!』
ヨーグルトのcmが終わると、場面が変わりハゲヅラの男性がドアップで映し出された。
『さあ今夜もやってまいりましたブリブリトークショー今夜のゲストはこの方です!!』
司会のニセハゲが飛沫を飛ばしながら喋った後、頭に等身大のスケトウダラを被った少女が映写される。
「おぉっ!!」
テレビに極限まで近付いて観ていた俺は感嘆の声を上げた。そう、彼女こそ俺のお目当ての人物――――
『今絶賛炎上中の大人気YoTuberMIちゃんさんです!!』
――――MIちゃんなのだから。
『どうも、日替わり魚人系YuTuberMIです。やっほー』
軽く手を振るMIちゃん。
「尊いわぁ……」
うっわ、マジヤッベ、超ヤッベ、リアルMIちゃんじゃん。尊過ぎて尊いからもう尊尊いわぁ……。
この時だけは雅さんの気持ちが分かる。推しはマジ、平常感覚失う。スゲー脳内物質がいつもの七千倍は最低でも出てるってこれ。
うわー俺何考えてんだ。
YoTuberMIちゃん。彼女は六年前にYoTuberデビューした子で初期の頃からその奇抜な見た目とぶっ飛んだ動画内容で話題になっていた。
でも彼女が本格的に有名になったのはやはり第六百二十三本目の動画【銀行強盗にあったので撃退する次いでに更正させてみた】だろうな。
あのMIちゃんの包丁をものともしない体術、緊張する場面で発揮する脳天気さ。それに加えまさかまさかのネタではなくガチの銀行強盗だった為テレビにも出演して……
あぁ、ヤバい。涙が出てきた……
古参リスナーの俺から、いや、古参リスナーの皆からするとこの成長は親のように喜べる。
「と、尊い、尊くて草。マジやっばい」
テレビの前で号泣してMIちゃんが映し出される度に尊いを連呼する俺氏。
この時母さんが扉を半分開けて憐れな目で見ていたのを知る筈がなかった。
「とぉぉぉぉぉうとぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」




