ヤンデレさんたちとあそぼーけーかく
それから俺の生活は白黒テレビがカラーテレビに変わったかのように濃く色づいたものとなった。
朝、君谷さんと雅さんが俺の家まで来る。俺はそんなことやらなくていいとは言っているのだが、二人とも話を聞かない。
本人が自発的にやっていることなのだが、なんか申し訳ない気がするのだが。
学校、まぁ授業中はそこまで変わったことはない。
強いて言えば、今まで雅さんの視線は遠慮気味だったのだが、慣れ始めたのか段々見ていること隠そうとしなくなってきた。
後はクラスメイトを含めた大体の生徒から睨まれるようになったな。全部嫉妬だよ嫉妬。
人間って醜いねぇ〜。
この前上級生に絡まれた時釘を刺されたけど、あれから何ともなってないんだよなぁ。一体全体どうなってんだ?
昼食、放課後は君谷さんがこっちまで来て何かとちょっかいかけてくる。
あれだ、一番変わったところ。なのに話すことがないっていうね。矛盾してる。
そして下校、この前から雅さんがオーバーヒートしなくなったからか、三人で帰ることとなった。
未だに雅さんの許容範囲には謎が多くある。でもまあ、そこまで気にすることはないだろう。
俺は朝同様、無理してこっちまで来なくて良いとは告げたが、君谷さん曰く、
『氷ちゃんがもうそろそろ進展したいって言ったから一緒に帰ってるの。そこに遠いも近いも関係ない!! 氷ちゃんの気持ちの問題だから』
らしい。
一番変わったのは俺の心境だ。
ずっと嫌々だったが、最近は全くヤンデレで困ったことがなく、寧ろ良いこと尽くめだと気付き、まあ今のところは黙認するようになった。
それでもいつ何をされるか解らないという恐怖はあるが。
そんな生活が続くことはや二週間。たまに飯嶌くんが喋りに来るなどのことはあったが、それ以外はもう通常と化している。
俺も君谷さんと雅さんだけなら何とか催眠術を掛けられなくても少し自分の意見を主張出来るように、雅さんも雅さんで、俺への遠慮なさが酷くなってきた時だった。
突然彼女が提案を繰り出した。
「遊びに行こうよ!!」
ダンッ!! と、昭和の体育教師が教壇を思いっ切り押さえつけるように、俺の机を押さえつける君谷さん。
「うわっ!?」
唐突に始まったもんだからびっくりして椅子ごとひっくり返ってしまった。
「海里様!!」
雅さんが安否を確認する。
「……四音」
雅さんは君谷さんに地獄のような低音で咎める。
「ごめんって! まさかこうなるとは思わなくてさ……」
俺の醜態を遠い目で見る君谷さん。恥ずかしくなった俺は体勢を立て直す。
「だ、大丈夫だよ雅さん。それと、言ったよね? 様は止めてくれって。友達なんだからさ、気軽にいこうよ」
「あっ……分かった。…か、海里、くん……」
うん。毎回顔を赤くすることもないと思うぞ? 頭にだけ尋常じゃない量の血管が行き渡っているのか?
「それで、何でいきなりそんな突拍子もないことを言いだしたんだ?」
「そりゃあ友達なのに一回も一緒に遊んでないからでしょ!!」
自信満々に言う君谷さん。確かに遊んだことは一回もないな……ずっと登下校したり飯食ったりしてただけで。
「ふぅん、でも遊ぶって言ってもどこ行くんだよ。俺は運動系無理だぞ? 水上アスレチックでも行こうものなら一瞬で海の藻屑となって消えるのが容易に想像できる」
「分かってるよ。きみが『ド』が三つ付く程運動音痴なことくらい」
あるよね、自分で言う分には何とも思わないけど人に言われるとなんかムカつく時。
「じゃあどこに行くんだ?」
「水族館」
「却下」
「動物園」
「却下」
「動植物え――――」
「却下!!」
「何でそんなに駄目なの!?」
「俺が生き物嫌いだからだよ!!」
それは忘れもしない二年前の出来事。俺は母さんと共に家族旅行としてアマゾンの奥地へと向かった。
それも、なんの前置きもなくだ。
学校を早退した後家に帰ると、息を切らしていた俺に「ブラジル行くぞ!!」と言ってそのまま飛行機に乗ったのだ。
あの時の俺は混乱してジュース鼻から飲んでたなぁ。
で、俺は母さんに何故海外旅行をするのかと訊くと、一組様限定四泊三日の無人島サバイバル体験ってのに当たったのだと言われた。
いや、無人島サバイバルって何やねん。そう思った俺だが、今更やらないわけにもいかず、渋々その無人島サバイバルというのを始めた。
それがもうヤバいのなんのって。ヤバさを一つずつ丁寧に教えると、まず、物の持ち込み不可。
服は初日着ているものだけ。
しかもちゃんとした食料等も用意されてない。
企画側曰く、『なんか知らん無人島見つけたからそれ使ってイベント企画したろー』とのこと。
安全性もクソもない。
それと、その島、なんと肉食生物がわんさかおります。そんな中、すっぽんぽんな家族が一組。
うん……死ぬね!!
ほんと、冗談じゃなくマジで母さんがいなかったら一日目の夜で餌だったろうな。
夜な夜な俺はいつ喰われるか分からない状況。
自然が嫌いになるのも普通なんじゃないでしょうかね? でも母さんの無双っぷりは神がかっていた。
あれはなろう系。
無人島でサバイバルしたら母さんがチートすぎて最強無双が始まった件だ。
ただどっか行くのだけは止めてくれ。実の息子を森の中へ放置するのは何のゲームだ? 『放置○女』ならぬ『放置少年』か!?
「新情報……メモメモ」
野犬のように犬歯を剥き出しにして威嚇する君谷さん。
トラウマを思い出して悶えながら鼻息を荒くする俺。
懐からギッシリと文字の書かれたメモ帳――表示に『海里様手帳♡♡』と書かれている―――にペンを熱心に動かず雅さん。
「あぁ、またやってるなぁ。羨まけしからん」と事の成り行きを見守る周りの生徒。
まさに一触即発。詰まらない事が切っ掛けで戦争が起こりそうな雰囲気だった。
…………
「はぁ」という俺の一息で場が解される。
「……じゃあ九条くんだったらどこにするの?」
「俺だったら……」
…まず外に出ることあんまないからな……難しい問題だ……
「ゲーセン……とか?」
最終的に考え抜いた結果がこれだった。
まぁ、遊びは遊びだし。間違ったことは言ってないだろう。
「いや、センスなさ過ぎでしょ。何でわざわざ友達とゲーセンに行くの?」
「駄目か?」
「一概に駄目とは言えないけど私たちが求めているのはそういうことじゃない」
分かってるのか? 俺は恋愛経験なんて皆無な陰キャコミュ障だぞ? そんな良い案が浮かぶわけない。
「…………」
よって俺は黙秘を決め込む。俺なんかが考えた遊び場所よりも女子の考えた場所の方が絶対良いだろう。
今みたいにちゃんと考えたのに否決されたら堪ったもんじゃない。
あ、でも君谷さんが考えたのはなんか怖いな……、やっぱり自分で考えて……
「…………あっ」
その消えそうな声を上げたのは、俺の横の席の人物であった。俺の横、つまり雅さんである。
「か、科学館なんて、どう、かな……」
もじもじしながら提案する雅さんはヤンの要素を一切感じないデレの反応であった。
「科学館かぁ……氷ちゃん、科学館を選んだのは何で?」
「だ、だって……科学館だったら海里様もあまり飽きない……と思う。生き物もいないし。それに、動物園とか、ゲーセンとか……ちょ、ちょっと興奮して……。か、科学館だったら、カップル感ないから……」
雅さんはプシューという効果音を出しそうなくらい頭を沸騰させる。
不意に、『お風呂が沸きました』という音声が流れてしまう。いや、『頭が沸きました』か?
でも科学館か……
結構いいかもな。科学館って行ったことないし、理科好きだから案外楽しめそうだ。
「それならいいかも」と俺が言おうとしたその瞬間――
「よしっ! 氷ちゃん第一だ!! 科学館に遊びに行こう!!」
「え、ちょまだ俺――」
――パァァッン!
「よし、じゃあ科学館にけってーい!」
君谷さんが強引に行き先決定した。
そんなに決まらないのが焦ったかったのだろうか?
ていうか、君谷さんの催眠術マジで習得したい。
_________
「師匠」
「なんじゃ弟子よ」
「師匠って今年何才ですか?」
「九十二じゃ」
「もうそろそろ免許返却したらどうですか?」
「えー、面倒いのぅ」
「でも、最近はそういうの煩いですよ?」
「でもぉ」
「でもぉじゃありません。この前人引いてたじゃないですか。あの時は事なきを終えましたけど、次どうなるか分かりませんよ?」
「ん~ここからスーパーまで遠いからのぉ」
「そんなのいいじゃないですか。運動ですよ。運動」
「うー、やっぱ嫌じゃ!! 嫌じゃぁ!!」
「往生際が悪いですね!! 早く返した方が良いって言ってるじゃないですか!! 師匠の事を思ってるんですよ!?」
「そういう人程本当は全く思ってないんじゃよ! そんな罠には引っ掛からんわ!!」
「あっ、こら!!」
「嫌じゃぁぁぁゴフォッ!?」
チーン
「こ、殺してしまった…………」
師匠免許返却しろと思う人→星を付けよう!!
弟子自首しろと思う人→ブックマークを付けよう!
作者のノリについていけないひとつ→ブックマークも星も付けよう!!




