バフバフバフ
「そういえば、クロはどうやってここにきたの?」
今いる場所はどこを見ても出入り口なんてみあたらないのだけど。
「あぁ、それは「ふっざけんじゃないわよおおぉぉ!」
またクロがポーチからなにかを出そうとした瞬間リンの叫びがすべての音を飲み込んだ。
世界が、澱んでいく。
カスタード色の世界に赤黒い何かが混ざろうとしながら、混ざらないままぐるぐるとすべてを飲み込もうとしていく。
ぐるぐるが足元に届くと床が消えた。
違う、ぐるぐるが足首をつかんで引きずり込もうとしているんだ。
「シロ様っ」
ボクをつかもうと手が伸ばされるが、クロにもぐるぐるが絡みつこうとしてろくに動けていない。
床だった場所から滴り落ちる雫が頬を濡らす。
足をつかんでいる所を中心にそれは広がりながら集まっていく。
「――ざけんじゃないわよ、おまえぇぇ」
空間に亀裂を入れてあらわれたもの、それは澱みの塊だった。
とどろく雷鳴を背にしたような形にぐるぐるが集まっている。
立体にも見えるし、平面のような気もする。
人になろうとしたかと思えば瞬きの合間にゲジゲジのように伸び、ぶれた視界の隅で蝙蝠が牙をむき出しに威嚇している。
縦横無尽に振り回され、見てるだけで吐き気が…うえっ
「これは!私の!この私におもちゃに!選ばれたという幸運を得たの!」
振り回される中でときおり見えるのは鞭のようにしなるぐるぐるに襲われるクロの姿。
床も壁もすべてに広がったぐるぐるのどこからくるかわからないそれに圧されしまっている。
「そぉれそれそれぇ!さっさとくたばれぇ!」
「っち、シロ様、少々お待ちを!」
ポーチからだされたのはハルバード。
クロに持たせてたのはゲーム内でも最新の武器で威力こそあるやつだけど、やばい、かなりやばい。
比較的防御型のボクに対してクロはかなり攻撃型になっている。
そもそもゲーム内でも単独戦闘なんてそうそうなかったんだ。
プレイヤー含めて5人でチームを組み、バトルフィールド上のキャラを動かしていくターン制のバトル。
ボクがバフをかけて3人の下級天使で道を開きクロがメインアタッカーとして突っ込み……バフ!
「バフ、ど、うやればっ」
ゲームの中ならスキルを選んでぽちっとすればよかった。
俺がボクになった今、どうすればいい!?
画面なんてものはないしアイテムだって今は手元に1つとしてない。
なんて混乱してる間にもクロの傷はどんどん増えていってる。
とりあえずでもスキル使うときに流れてた呪文みたいなの言ったらどうにかなる!?なってほしい!
「ひ、響け――守護騎士の独奏!」




