妹はオネエ〜オネエスパイ女川乙音の過酷で甘い現実〜
「あたし、いやアタイはオネエスパイ、女川乙音。昼間はチューガクセイだけど、夜はオネエスパイとして相棒のおに――タカシと共に、この世の悪をやっつける、正義のスパイなんだよ!」
自室で本を読んでいた僕の前に現れた妹は、何の前振りもなく、そんなことをのたまった。
僕は尋ねる。
「乙音、なんでオネエスパイなんだ?」
「だって、お兄ちゃんの彼女……」
「ちーがーうー! あれは、あいつの渾身の自虐ネタなの! あいつはちゃんと女の子なの!」
そうなのだ。僕より背が高く、胸がない――そのことをとても気にしていて、僕はいつも「そんなの関係ない。今のままの君が大好きだよ」と――いや、それはいい。
「だって、おっぱいない……」
「ありますよ! 昨日は厚着してたから分かりにくかったかもしれないけど、水着になればちゃんとあります!」
夏に見せてくれたスレンダーな水着姿は、素晴らしく美しい滑らかな流線型を描いていて、ボンキュッボンとはまた別の魅力があることを――って、それはいいんだよ!
「……でも、お兄ちゃんは、ああいう女が好きなんでしょ」
「いや、それは否定しないけれども、なんでお前がそれに張り合うんだ」
すると妹は急に顔をくしゃくしゃにして大声を上げた。
「だぁって、あの人だけお兄ちゃんといっしょの学校行ってずるいんだもぉん! あたしだってお兄ちゃんといっしょの学校行きたいんだもーーーん! うわあああああぁん……!!」
そうか。僕が中学に上がった時に、「もっと大きくならないとダメだ」って言ったのに、体のごく一部が大きくないあいつが中学行ってるから、自分も「オネエスパイ」になれば中学に行けると思ったのか。
「ごめんな乙音。それでもやっぱり小学生は中学校には行けないんだよ。分かってくれ」
「いやあだああああ、あたしもお兄ちゃんといっしょがいいー! いっしょじゃなきゃヤダああああ!」
泣き止まない妹に、僕はやむなく白旗を上げた。
「分かったよ。一緒に中学に行くのはダメだけど、今度の日曜あいつと一緒に遊園地行くから、お前も一緒に行けるように頼んでみるよ……」
「……ほんと?」
「ああ、あいつがいいと言ったら、だけどな」
そして優しいあいつは断らない。そういうところも好きなんだ。
僕はスマホを取り出すと、いつもの番号に電話した。
お読み頂きありがとうございました。
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