面接
この作品は
いつも空を見ている②③
の番外編です。
樹
「お前からもなんかあったら聞いていいぞ。上条。」
部長にふられた。
「彼氏いますか?」
目の前に座ってる女の子はじっと僕を見て黙っている。もしかしてこの単語知らないのかなと思い言い換えた。
「你有没有男朋友?」
そのとたん
「った〜。なにするんすか、部長。」
「すみません。今の質問はなかったことに。ほんとすみません。」
「あんなに叩くことないじゃないですか。」
「お前、ああいうドン引きする質問して向こうから辞退させるつもりだろ?」
ばれてたか。
「女の部下やなんです。」
「普通は喜ぶとこじゃねえか。あんな美人。」
「いやです。男にしてください。」
すごく嫌な顔された。
「男性経験のない女性が男から逃げ回るならとにかく、なんで男が女から逃げるんだよ。しかもお前既婚じゃん。誰も相手にしないって。」
「中国出張ってやたら飲まされること多いんですよ。万が一何かあったらどうするんですか?」
部長は、じっと僕の顔を見た。
「ばれなきゃいいんじゃないの?」
「他人事だと思って。」
「そんなに心配しなきゃいけないほど襲われてきたのか?お前は。」
ちょっと考える。襲われる前に手当たり次第誘ってました。千夏さんに会う前までは。
「とにかく却下。会社は能力重視。今日面接した中ではあの子が一番よかった。本人がオーケーなら彼女に決めるから。」
それで、直属の上司(僕)の意見は残念ながら退けられ、会社は中国人留学生だった彼女を新入社員として雇いました。
「上条樹です。よろしくお願いします。」
「王麗華です。よろしくお願いします。」
その夜、課の歓迎会があった。
「あ、そういえば、主任、わたしいます。」
「ん?」
一瞬何の話かわからない。
「彼氏」
つながった。
「ああ、それはどうもおめでとう。」
「……」
ずずず、酒をすする。お互いに。
「そこはもう少し気の利いたこと言わないと、女の子には、主任。」
「なんて言えばいいの?」
「なんだ。残念とか……。」
そんなんいわれて嬉しいか?
「じゃあ、やっぱりか。」
そのくらいならいいかも。
「やっぱりか。」
ずずず、お互いに酒をすする。ふっと彼女がやさぐれた顔で笑った。
「噂通りですね。」
ん?なんだ?うわさ?やな感じしかしない。
「なに?」
「面接で何であんなこと聞かれたか謎で……」
「はあ。」
「普通は勘違いしますよね。でも、主任指輪してるし。それに、いくらなんでも面接では言いませんよね。」
「はあ。」
「今日会社で聞いてみたんです。」
「え?」
それはちょっと困るよね。僕、ただでさえいろんなうわさたてられやすいのに。
「そしたらね、彼氏いるって言ってごらん。ほっとした顔されるからって。」
「……」
「あの人はいつも奥さんの顔色うかがってるから、とにかく女そばに寄せつけないんだって。」
「……」
麗華氏がお酒を飲んでる。ずずず。こいつ酒強いじゃん。
「そんな怖い奥さんなんですか?」
「いや、そんなことない。」
「ただいま〜」
「お帰り〜」
玄関先まで奥さんが迎えに出てくるなんて珍しい。
「春樹は?」
「寝たよー。」
ニコニコしてる。
「ね、歓迎会だったんでしょ?どう新しい女の子?」
じっと見る。千夏さんの顔。
「なんか上条にはもったいないあんな美人で若い子ってうちの課の子が騒いでたよ。」
「なんで俺が話す前に全部知ってるわけ?」
「え?なんか、だって、樹君のことはみんな頼んでないのに全部教えてくれるよ。」
「それ、口実作って千夏さんと話したいだけだよ。」
「そんなわけないじゃん。」
ニコニコしてる。
「普通は旦那の部下に美人がついたら、もっと気を揉むものじゃないの?なんか嬉しそうじゃん。」
「え?ああ……」
ちょっと考える。
「わたしって片思いしたことなかったの。」
「うん」
それはあろうことかうちの妹で済ましたんだったよね。擬似片思い。
「浮気されたこともないの。」
「……」
なぜか目がキラキラしている。
「どんな感じなんだろうって想像したらすごい楽しくって。」
「僕が……」
「ん?なに?」
「いや、なんでもない。風呂入る。」
僕があなたが心配しない様にあれこれ気を揉んだ努力は一体何だったんだろうか。それと、君が面白がってるのは、あくまで擬似浮気であって、本物の浮気をされたがっているわけではないですよね?
僕が奥へ進むと、後ろからついてくる。
振り向いて奥さんの顔を見る。まだニコニコしている。
「ん?なに?」
この人やっぱり宇宙人だ。意味がわからない。返事が怖くてなにも聞けないじゃん。もういいや。
「なんでもない。」
うちの奥さんは、やっぱりある意味怖いのかもしれないです。