家族会議
この作品はまた
いつも空を見ている②③の
番外編です。
家族会議
とある二世帯住宅の一階、食卓に年配の女性と40代くらいの男性、中高生くらいの男の子と女の子が座っている。
「それでは家族会議を始めます」
「お父さん!」
「はい。なんですか?暎万さん」
「家族が足りません。おじいちゃんとお母さんがいません」
樹君は咳払いをしました。
「おじいちゃんは今日行う会議の内容から見て、本人は非がないのに責任を負わされる可能性があるので……」
夏美さんと春樹君と暎万ちゃんが樹君をじっと見ている。
「お父さんが逃しました」
「じゃあ、お母さんは?」
「逃げられました」
暎万ちゃんが黙ったままで上目遣いになりながら、頭を整理しています。樹君は娘をほっといて話を続けます。
「お母さんが今月いっぱいで会社を辞めます」
「ええっ!」
と暎万ちゃん。
「なんでまた」
と春樹君。
「ま、いろいろあって」
「聞いてない!なんで相談なしに勝手に決めちゃうの?」
夏美さんと春樹君と樹君が暎万ちゃんを見る。
「会社を辞めたくなったら辞める前にお前に相談しなきゃいけないのか?」
「うん」
「お前、どんだけ偉いんだ?」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
樹君はため息をついた。
「じゃあ、もしお父さんが会社を辞めたくなったら辞める前にお前に相談するよ」
「よろしく」
暎万ちゃん、上司のようだ。
「それでお母さん起業するって言ってる」
「え!」
「やるな、母さん」
暎万ちゃんが何か言う前に樹君が言います。
「お父さんがもし起業したくなったら1番最初にお前に相談するから」
暎万ちゃん満足気にだまりました。
「それでね、問題はここからなんだけど、うちの収入が半分になります」
「なんで?」
「お前、父さんの話ちゃんと聞いてた?」
「お兄ちゃんは黙ってて」
ばしっ。とうとう手が出た。血筋だな。乱暴だぜ。
「暎万ちゃん、お兄ちゃんのこと叩いちゃだめよ」
夏美さんがいう。
「お母さんの給料がなくなるからです」
「でも退職金もらえるじゃん」
意外とこういうところはしっかりしている。暎万ちゃん。
「全部会社の資金に回すそうです」
「はあ?」
暎万ちゃんキレた。キレモード入った。
「自分がしたいことすんのは百歩譲って許すとして、親として生活費はちゃんと回してもらわないと」
春樹君は夏美さんを見ます。
「おばあちゃん、誰が妹をこういう人にしてしまったの?」
「誰だろう?おばあちゃんかな?」
「そう思うなら、お母さんに直接言って。お父さんは、とりあえずこの事実を受け止めて、我が家の家計をおばあちゃんと一緒に見直しました」
こほん。咳払いしました。
「もともとうちはおじいちゃんのおかげで住宅費がかからないので、普通のサラリーマンの家より家計が楽です。その分、お前たちを少しいい学校に行かせてやれてるし、お父さんの年齢からみて同世代の人たちより貯蓄もできてると思う。だから、お母さんから生活費がもらえないからと言って、君たちの学費とか大切な部分を削ることはないから安心して」
「じゃあ、どこを削るの?」
春樹君が聞きます。
「娯楽費と食費。衣服費はもともとみんなそんなかける方じゃないから、削る必要ないと思う」
「娯楽費って?」
暎万ちゃんが聞きます。
「旅行なし」
「えー!」
「あれは毎年旅行好きのお母さんが出してたの。行きたいならお母さんに言ってください。それから……」
これ以上の反論を許さず、先に進みます。
「お父さんも今までおばあちゃんに任せっきりで知らなかったけど、うちの食費、おかしい」
樹君が暎万ちゃんを見ます。
「暎万のお菓子代が半端ない」
「そんなことないよ」
「そんなことありますね」
「ええー!」
「一つに、生きてくのにこんなにお菓子は必要ない。しかも、高級スイーツにこだわりやがって。二つに、体に悪い。お前、成人病なって早死にしたいのか?」
「そんなぁ〜。わたしの生きる喜びなのにっ!」
みんなで無視しました。
「それと外食の回数を減らします。ゼロにはしないけど毎月決められた金額に収まるように。どうしても行きたい時は安い店に行ってください」
「お父さん、質問!」
「はい。暎万さん」
「安い店とは、例えば?」
「焼肉で言えば、我が家は肉がまずいと文句を言う人がいますから、いつも李園に行きますが、それが駅前の牛兵衛になります」
暎万ちゃんの目が、大きく見開かれました。
「ああ、あそこの肉硬いんだよな」
「お兄ちゃん、行ったことあるの?」
「部活のみんなとね」
暎万ちゃん、しばらく俯いてからぼそっと呟いた。
「敗北感半端ない……」
「いや、肉ぐらいで大げさだな」
春樹君がつっこんでます。
「お父さん、前から思ってたんだけど、どうしていつもお母さんの言いなりなの?」
しーん。一瞬、誰も何も言えませんでした。
「暎万ちゃん、いくら親子でも言っていいことと悪いことがあるのよ」
夏美さんが嗜める。
「暎万、この際だから言っておくが、お父さんはお母さんにお父さんの言うことを聞かせようなんてことは……」
樹君じっと娘の顔を見つめる。
「とっくに諦めてる」
しーん。もう一度しばし沈黙。
「ごめんなさいね。樹君。わたしの育て方が悪かったのよ」
「いや、もう成人してますから、お義母さんのせいじゃありませんよ。寧ろ巻き込んでしまって、すみません」
不思議な譲り合いをしてますが……。
「ねえ、お母さんって貯金はないの?」
「あるとは思います」
「いくら?」
「知りません」
暎万ちゃんがしかめっ面を……
「ねぇ、お父さんって……」
「暎万!」
春樹君が制した。
「それ以上地雷を踏むな。男は女が考える以上に繊細な生き物なんだぞ」
納得のいかない顔でしばらく春樹君を見てた暎万ちゃんでしたがはたと思いついた。
「そうだよー。大事な人忘れてた。うちでお金持ってるのはお父さんとお母さんだけじゃないじゃん。おじいちゃん!」
暎万ちゃんの目がキラキラしてます。
ふっと樹君が不敵な笑みを浮かべました。
「お父さんは初めからこうなることを予測していた」
「どういうこと?」
「だから、おじいちゃんのこと今日逃したの」
「……」
暎万ちゃん、八方塞がりになりました。
***
夜中、子供が寝た後にこっそり玄関から忍びこむかげが。パチンと電気がつけられた。
「おかえり」
「あ、起きてたんだー」
「びっくりしたよ。朝起きたらいないんだもの」
「うん。ちょっとね。農家に下見に行ってて。言わなかったっけ?出かけるって」
「聞いてません。ていうか、子供たちに話す時は一緒にって言ってあったよね?」
「あれ?もう今日話しちゃった?」
わざとらしく笑う千夏ちゃん。無表情の樹君。
「僕が来週は出張でいないから、今日しかないって伝えました」
「あれ?そうだっけ?うっかりしてた。ごめん」
「……」
今日という今日は結構怒ってます。樹君。
「子供達、どんな反応だった?」
「春樹は冷静。けろっとしてた。暎万は激怒してた」
「ああ、予想通りだな」
「今日、すっげえひどいこと暎万に言われたよ」
「え?うそ?あいつ、全く」
「元はと言えば、でも……」
樹君の顔、すっごい冷たいんですけど、今晩。
「悪いのはあなただよね。暎万じゃなくて」
千夏ちゃん、今きっと背筋が寒いはず。
「じゃあ、寝ます。明日から出張なんで」
そう言うと、樹君1人でスタスタ2階あがって行っちゃった。
千夏ちゃん、玄関でご主人の背中見送る。
この人、学習能力ない人。また、懲りずにおこらしちゃったじゃん。




