第1部
自治領-98はどのような場所だったのか、激動の前夜、それぞれに何が起きていたのか。歴史が変わり始める最初の1ページがめくられようとしている。
~プロローグ・世界観の解説~
その国は人類史上初めて世界統一を成した。
そしてその広い領土を0~127までの自治領に振り分け、それぞれで独自の統治が行われていたが、それぞれの自治領議会以上はコンピューターによって管理されていた。よって、人による裁判所や国会、国家元首は存在しない。唯一自治領議会のみが領民によって運営されている。
コンピューターに管理されているのは憲法、選挙制度などであり、経済形態は各自治領に任されていた。このため、自治領の中にも社会主義自治領と資本主義自治領が乱立しており、どこに住むかは国民の自由として憲法により保証されていた。だが、これにより自治領ごとに領民の主義主張が偏ってしまったのは事実である。
自治領同士の争いを防ぐ為、軍隊は持たないと国の絶対的な憲法に明記されていたが、治安維持のための実力組織「国立保安隊」支部が各自治領に設置され、それぞれの自治領が「自治警備隊」と呼ばれる法執行機関を擁していた。
これは、その自治領の一つ、自治領-98で起きた事案である。
第1.00部 自治領-98
社会主義勢力 98コムソモール元情報局員N.F氏宅より発見された音声データより抜粋
「本日、自治領-97自治庁付近で、大規模なテロが発生。これに対し、反社会的勢力の"赤い10月"が声明を発表しており、、、」
コンラートは、この頃同じ内容しか吐き出さないTVのスイッチを切った。
「コンラート、お前最近ニュースを見ないな。昔はむしろニュースしか見ない様な奴だったのに。」
「そりゃ毎日同じ様な無いようなんで。"テロ""デモ""反社会的勢力"そればっかり。しかもよく分からないコメンテーターの解説付きと来た。さすがに見る気も失せますよ。」
「まぁそういうな。お前、そんなこと言って考えが合うコメンテーターの出てるニュースは見てるじゃないか。違うか?」
「、、、。」
「まぁ自分の考えを持つのは悪いことじゃない。だが気をつけろ。自治領-97と違って、うちらの98は既に自治庁が傾き始めてる。議会の得票数も社会主義派が着実に伸びてきているし、近いところで言えば政府どころか、2軒となりの家も保安隊の情報部に目を付けられてる。」
「逮捕できないんです?」
「保安隊に逮捕権は無い。だが警備隊が動こうにも、自治庁が動かさんよ。」
「この前当選した自治庁の内務省長官、あの人も、、。」
「あぁ、あのバァさんもバックに社会主義勢力が控えている"らしい"。」
「いっそ社会主義勢力がテロでも起こせば、さすがに自治警備隊も出ざるをえないんですがね。」
「そりゃまぁ難しいな。おっと、もうこんな時間だ。それじゃあ、俺は帰るよ。とにかく、こんなご時世だから発言には気をつけろよ。」
「、、、善処しますよ。」
第1.01部 98コムソモール
保安隊中央情報局が98コムソモール所属の活動家へ行った尋問に対する回答より抜粋
「赤い10月が我々に共鳴した。これで保安隊は自治領-97に釘付けだろうよ。」
「そうなれば、我々の社会活動を邪魔する者など居なくなるでしょうな。」
「そうだ。自治警備隊と議会は既に我々の手の内にある。」
「では、そろそろ本格的に動くとしますか」
「そうと決まれば後はやるだけだ。98コムソモールの全同志に告ぐ。各々、やれ。」
私はその命令を受けて、やった。
第1.02部 不可抗力
保安隊97大隊参謀本部 治安活動記録57/10/1/23:32より抜粋
「保安隊98大隊情報部より入電!自治領98にて反社会的勢力98コムソモール決起!」
「ほぅ。98もか。こっちだって赤い10月の対処で大変だというのに」
「だからでしょう。むしろ繋がっていると見たほうが賢明かと。」
「だが、98で起きた事は98に任せておく他あるまい。向こうから要請があるまでな。」
「要請ですか。ありますかね?」
「まず、無いだろうな。本部に連絡だけしておけ。我々は法に背いてはならん。例えどんな状態であれ、軍人が自らの判断で動くとろくなことが無い。」
第1.03部 保安隊中央本部
新暦57年10月2日 中央本部会議議事録全文
議長:この会議は秘匿性を万全なものとするため、音声データではなく紙への記録となる。
議長:中央情報部司令、報告を。
中央情報部司令:自治領-97、98に於いての事案に関連性があるとの報告が97大隊情報部より入った。
議長:自治議会の要請がない限り、自治領内の部隊でそれぞれ何とかするしかない。
中央情報部司令:中央情報部で、部隊再編の速やかな手続きを行うとともに、議会への●●の支払いなどの●●●●を行う。
領事調整部長:もし、●●がばれたらどうする。
中央作戦参謀本部参謀長:そうならないよう、保安隊への領民の感情が良くなる方向へ向かわせる。凶悪事件やテロへのさらなる対応強化を行う。
中央情報部司令:それを行いやすくするよう、我々も活動家への●●●●、活動の●●を行い、部隊の作戦の幅を広げる。
中央情報部司令:また、先日より警戒中の98内にいる●●活動を行う組織とのつながりを徹底して調査する。※追記:独立
議員:それは秘匿する必要はないと思いますが。
中央情報部司令:では後で付け加えてくれ。
議長:では話をまとめよう。
一、中央情報部は、部隊の再編と、議会への●●●●、活動組織への●●と、独立派の調査を行う。
一、中央作戦参謀本部は、中央情報部の●●を基盤に凶悪犯の摘発を行う。
更に、私の一存によるが、議会への議員の輩出も行ってもらいたい。
~用語説明~
自治領
その名の通り、その領内に住む人間がより住みやすい環境を機械ではなく自分たちで創り上げるため、経済システムや、憲法に基づいて条例などを定める組織として誕生するも、誕生から50年以上経ち、自治領ごとに自由とされた経済システムが資本主義と社会主義に別れ、過去の「冷戦」と呼ばれる時代に再び突入していることは誰から見ても明らかだったが、国民の自治領間の行き来を自由にしていたため、結果的に持てる者と持たざる者に分かれた。これにより、当時は貧富の差が深刻な問題となっていた。
自治警備隊
自治領内での犯罪に対応するため、自治領ごとに設置された警察組織。自治領ごとにその特性、規模は異なるが、いずれの自治領においても唯一の逮捕権を持つ機関である。武装した凶悪犯に対応するために特殊武装警備隊を擁するが、この存在が自治領-98では国立保安隊との軋轢を生むことになった。
また、自治領-98ではその軋轢から、自治警備隊が本来の職を放棄していると見る者も居た。
国立保安隊
新暦2年に編成された国が管理する武装治安組織。各自治領に1大隊、8自治領ごとに1師団が編成されている。当初自治領間の戦争や武力による争いを防ぐために軍隊は置かないとされたが、テロへの対応に追われた政府は完全に国の直轄組織としてこの組織を設立した。
武装は歩兵用の各種装備から戦車、攻撃機など多数を擁するが、あくまで対テロなどの"治安組織"の為、大型の軍艦や戦闘機、戦略爆撃機などは配備されていなかったとされる。しかし、未だにこれに異を唱える者もおり、真相の解明は今後の研究が待たれる。