とりあえず現状把握をしてみました。
「つまりこれは借金なのか?」
俺はアーシアにわかりきっている質問をした。
「そうね! ホテル経営の利益の50%は借金返済に当ててあげるわ」
「つまり2000万円の利益を上げる必要があるわけだな」
うんうんとアーシアはうなずいた。
「とりあえず文句を言っていても、おれは元の世界に帰ることはできなさそうだな。今のホテルの状況を聞いてみたい」
1000万というのが相当な価値であることは分かるが、それだけを投資したホテルだ。それなりに充実した設備になっていることだろう。
「まず、部屋の数はどれだけあるんだ?」
「二階と三階が客室になっていて、5部屋ずつで全部で10部屋あるわよ」
「なるほどな。それで、一泊二日だといくら取ってるんだ?」
「100マガネよ」
「ちなみにそれは、この地域で言えば安い方なのか? 高い方なのか?」
「ゲルトがやってる。ミュラーホテルは一泊二日で部屋にもよって違うとか言ってたけど、安い部屋で500マガネにしてるみたいね」
そういえば、ゲルトをぎゃふんと言わせたいと言っていたな。
「ゲルトっていうのは誰だ?」
「私達のコーリスホテルのライバルで、ミュラーホテルっているのがあるんだけどそこのオーナーよ」
「ずいぶん値段設定に差があるんだな?」
「ゲルトのミュラーホテルは、とっても豪華だからそれくらい取らないと採算が取れないんだって」
「安い部屋でも5倍の差があるのはすごいな」
「それが原因でゲルトのやつ、コーリスホテルをオンボロホテルっていっつも馬鹿にしてくるのよ」
コーリスはゲルトのことになると、不機嫌そうに足元をパタパタしながら説明をしてくれた。
「とにかく部屋を見てみたい。そういえば今日は、誰か泊まっているのか?」
「今日はあなたを召喚するために、休業にしておいたわ!」
「そんな簡単にホテルは、休業に出来るものなのか?」
ならない口笛を吹きながら、「そういうことよ!」と言っていたのでおそらくお客さんは普段から少なくて、今日はゼロだったから焦って俺を召喚したとかなんだろな。
アーシアと一緒に二階の部屋を見てみることにした。日本で言えばビジネスホテルのような内装で、特に狭いとも広いとも言えないくらいの大きさの部屋だった。窓の外を覗くと、オーシャンビューとなっていて青い海が目の前に広がっていた。海はかなり深いのか、近くの砂浜から少し遠くに目をやると藍色になっていた。海岸沿いに右に目をやると大きなホテルがあった。おそらくこれが、ミュラーホテルなんだろう。さすがに一泊500マガネとるだけのことはあると言った雰囲気であった。
「ロケーションは悪くなんだな」
「ここパルト地方っているんだけど、パルト海溝で取れる大きなお魚なんだけどパルトフィッシュが有名なの。ほら、今みえたでしょ!」
正直驚いた。藍色の海に目をやると、遠目から見ていてもかなりのサイズの魚が大きな飛沫を上げてジャンプした。マグロよりも一回り大きいサイズで銀色のボディがキラキラしていた。
「あれ、うまいのか?」
「そりゃもう絶品よ! 今晩はあなたの歓迎会も兼ねてパルトフィッシュのディナーにしましょうか」
「晩御飯が楽しみになってきた」
アーシアは思い出すだけでよだれが出ると言った表情で、キッチンの方に連絡を送っていた。
「話を戻すが、他の部屋も同じような雰囲気か?」
「そうね。前はミュラーホテルを真似して、部屋ごとに個性をもたせていたことがあったけど、常連さんからやめてくれって言われたの。」
アーシアの暴走を常連さんが止めったって感じなのかな。そのときの部屋も気にはなるが、あまりいいものではなかったのだろう。
「今日は特別らしいが、普段はどれくらい部屋は埋まっているものなんだ?」
「ふだんはねー、半分くらいは埋まってるわよー」
アーシアは目線を泳がせ、自分の人差し指同士をちょんちょんくっつけながら答えた。ダウト! これは嘘を言ってる顔だ。この子わかりやすすぎるぞ。ちょっと心配になってきた。
つまり、部屋が全部埋まったとしても一日の売上は1000マガネか。そこから経費を引くと、1000万マガネなんていつになるんだよ! これはいろいろと改革できないと、この世界で一生ホテル経営を続けていくことになってしまいそうだ。
「アーシアさん。今の状況ってとてもまずいと思うのですが、おれだけ?」
「だからあなたを頼っているんじゃない!」
先が思いやられるな。いったん経営戦略を建て直しないと、いまのまま満室になってもどうにもならないな。