この世界のお金はとても便利なようです。
「そういえば、マガネっていうのはお金のことか?」
「お金っていうのは異世界教本で読んだことがあるわ。物やサービスをやり取りするときに使われる万能の橋渡しだったわよね。発行する国によって、使える場所が決まってきたりするのよね。」
そうか、アーシアから見れば俺の世界が異世界なのか。なんだかややこしいな。
「マガネとお金は使い方としては似ているわ。お金との違いは、違いというよりも付加価値といったほうがいいわね。マガネっていうのは魔力の結晶なの。だからマガネをお金のように物々交換の橋渡しに使うことも出来るけど、それに加えてマガネを魔力に変換することで魔法を使うことが出来るの」
紫色の結晶をアーシアはゴソゴソと胸ポケットから取り出した。
「で、これがマガネよ。中に数字が見えると思うんだけど、これは結晶の中にどれだけのマガネが入っているのか分かるのよ」
「便利なものだな。俺もこの先、必要になってきそうだな。それはどこに行けば手に入るんだ?」
「でしょ!あなたももう持ってるはずよ」
アーシアは俺の胸ポケットを指さしながら言った。胸ポケットに手をやるとなにか石のようなものが、入れられていた。
「なんだこれ? 勝手に入ってたぞ。アーシアが入れたのか? 手品か何かか?」
「違うわよ。それはマガネットといって、あなたに伝わる言葉でいうとお財布ね。落としても、いつの間にかポケットに入ってるの」
とんでもなく便利な財布だな。いままでに何度か財布を落としたから、もともとこの世界に住んでいたら欲しかったあのゲームとか買えたりしたのかもな。
「あと、マガネの受け渡しは、送りたい先のマガネットと、送りたいマガネの量をイメージすると自動的に送られるわ。それ以外の方法で送ることはできないの。だからこの世界にはあなたの世界で言う泥棒っていうのは存在しないわ」
俺の世界のもこんな財布があったらどんなにいいだろうかと、マガネットをくるくる回しながら眺めていると、異世界人にこの世界のことを羨ましがられて嬉しいのか、アーシアは得意げにニマニマしていた。
「それとね、マガネット持ち主が潜在的に持つ魔力生成能力に応じておひさまが登るとき自動的にマガネが増えていくわ。平均的には100マガネくらいよ」
「ちょっと待て、俺のマガネット壊れているかもしれない」
俺のマガネットを覗き込むと、所有しているマガネが”-10,000,000”になっていた。アーシアの顔にマガネットを近づけた。
「それ私に見せても、みえないわよ」
「そうなのか。俺のマガネがマイナス一千万なんだが、おかしいだろ」
「おかしくないわよ? だってそれ私があなたに背負わせた借金だもの」
俺は驚愕した。この子何を言っているのか分からない。おれは100万マガネを稼がなくては、元の世界に帰ることはできないのは知っていたが、1000万マガネとはどういうことだ。
「異世界から召喚された人には、召喚した人の担保になってもらうことが出来るの。ちなみにこの1000万マガネっていうのは、ホテルの内装工事にかかった費用よ」
「俺が元の世界に帰るには1100万マガネを稼がなくてはならないのか……」
「そういうことよ!」
アーシアは悪びれることもなく答えた。ふざけるなやっていられるか。さっきは納得仕掛けたがどう考えてもおかしいだろこの状況は。そもそも、異世界ものって召喚者は事件に魔物退治とかやらされるものの、チート能力とか、国からの支援とかの優遇を受けるものじゃないのか? まぁそれはファンタジーの世界だけなのかもしれないが、全然納得できないな。それとも気づいていないだけで、俺にはなにか能力があるのかもしれないな。
「あっ! あなたの名前はなんていうの? これから一緒にやっていく仲間なのにあなたはちょっと寂しいと思うのよ」
「俺は小田哲平だ。というより名前よりも借金のことのほうが話し合いたい」
「じゃあ哲平って呼ぶわね。これからよろしくね!」
アーシアは、俺の文句を聞くことなくどんどんと話を進めていった。