第95話 共和国へ到着
道中、純魔力の扱い方を教えながら共和国を目指す。
「カレン、まずは自分の思い通りの威力を出せる様に練習するんだ。今まで通りの威力がどの程度の魔力で出せるのか、ちゃんと把握して使いこなせる様になれ」
「はい、先生。やってみます」
「ルミラとフィリアも、しっかりイメージして魔術を使う様に心がけろ。今はまだ大した効果は無いだろうが、純魔力が身に付いた時に実感するはずだ」
「「はい、解りました」」
こうして5日かけて共和国との国境まで辿り着いた。
以前皇国に行った時に比べて、多くの人や物が行き交っている。
共和国は直接魔王領と接していない為、魔族による被害が無かった国だ。
温暖な気候も相まって食料生産力が高く、輸出の主力になっている。
更にエルフとドワーフが住んでいる事から、珍しい植物や質の高い武器防具なども人気の高い輸出品となっている。
そして共和国は4つの国の中で、最も自由な国だ。
貴族が存在しない事や民衆から国の代表が選ばれる事も、他の国では考えられない事だろう。
この地の人々の持つ性質も、明るく元気で何事にも挑戦的な人間が多い。
失敗も多いがそれにめげず、何度も挑んでは成功を掴むというのはこの共和国では決して珍しい話ではない。
もちろん共和国にも様々な人間はいるし、悪人だって存在する。
しかし良くも悪くも実力があれば、なりあがれるのが共和国だ。
実力主義は帝国も一緒だが、あちらは武力限定での話だからな。
有名な話で、かつて武力も財力も持たないただ誠実なだけの青年が、その人柄だけで周囲の人々に助けられてこの国の代表になったという逸話もある。
関所の列に並んで待っていたが、今回は何事も無く共和国に入れた。
次に向かうのはこの国の首都であるアゼリアだ。
ここから通常の馬車で8日、俺達なら余裕を持っても4日で着く。
そこでこの国の代表と話をした後、2人の英雄に会いに行く予定だ。
共和国へ入ってからも訓練は続いた。
その甲斐あってカレンは威力の制御は問題なく、独自解釈の方も少しだけ出来る様になった。
ルミラとフィリアも【魔闘術】を使って、イメージの練習を行っていた。
イメージした魔力を形にする【魔闘術】は、この練習にはうってつけだった。
そして4日後の昼過ぎにアゼリアに到着した俺達は、まず宿をとり荷物を置いた。
その後代表に面会の申し入れ行う為に、代表が働く館に向かう。
3日後の夕方に面会を取り付け、それまでは観光する事に決めたのだった。
昼食をとるにはやや遅い時間なので、屋台で何か食べる事になったが
(……何かこいつら、普通に屋台に行く様になったけど大丈夫なのか?)
などと思ってしまった。
本来は、屋台で何か食べるなどありえない立場の人間だ。
日々の食事ですら自分で作る事無く、専属の料理人が作るという貴族様だ。
それを俺が連れまわした結果、何がいいかな、と嬉々として話している有様だ。
(……これ、こいつらの身内が見たら凄く怒られるんじゃないのか?)
と思って聞いてみたら
「……以前食べた蜂蜜パイを母様が召し上がったら、定期的に買出しをお願いするくらいに気に入られましたよ?」
「……うちは元々武門の家ですから、細かいところは気にしてないですね」
「私は教会で簡単な調理もしていましたし、差し入れでその手の物も頂きますので特に問題は無いですね」
との事だった。
……危なかった。もしこの問題で代理人を辞めさせられたら流石に洒落にならん。
まあ、それを言ったら年頃の娘と俺が一緒に居たり、色んな場所に連れまわしたりしてる時点で大問題なのだろうが……
多分そのあたりは、クローディアが上手くやってくれているのだろう。
こいつらと親しくなるのは構わないが、どうも最近その辺の線引きが甘い。
1度しっかりと話し合った方がいいだろう。
屋台が並んでいる場所に着くと、色んなところから良い匂いがしていた。
どれもこれも、美味そうに見えてしまうのが困りものだ。
俺達は話し合って、4人で分けられる量の品をそれぞれ選んで買う事にした。
誰が選んだ料理が、1番美味しかったか勝負しようというのだ。
待ち合わせ場所を決め、全員が揃ったら食べ比べを開始する予定だ。
クジで食べる順番を決め、それぞれが料理を買いに出る。
順番は、フィリア、ルミラ、カレン、俺の順だ。
フィリア以外は、前の人間が何を買ってきたかで評価が変わるだろう。
脂っこい物の後に同じ様な物では評価が下がるだろうし、辛い物の後なら甘い菓子の評価は上がるだろう。
俺は最後なのでシメになる物を選ぶべきだろうな。
(……まあ、ここでの食事では必ず1度は引っかかるからな)
誰かが絶対にアレを買うと考えて、俺は屋台を巡り料理を選ぶのだった。
結果だけ伝えると、カレン、俺、フィリア、ルミラの順で高評価だった。
それぞれ具沢山の卵焼き、アイスクリーム、野菜サラダ、カレーを選んでいた。
フィリアは1番手でサラダを持ってくるあたり、勝負に拘ってないのだろう。
2番手のルミラも、カレーの匂いを嗅げば選んでしまうのはしょうがない。
しかし味はともかく辛さの選択を間違えてしまい、俺以外が苦しんだ。
「甘口を勧められましたが、辛い方が美味しいとの事でしたので普通にしました」
と言っていたが、俺も経験したがこの国のカレーは普通でも相当辛い。
以前に食べた事がある俺は、甘酸っぱい飲み物を買っておいて3人に差し出した。
3人から本気の感謝を頂戴したが、その辺の選択ミスがルミラの敗因だろう。
3番手のカレンの優しい味の具沢山の卵焼きと、最後の俺のアイスクリームの評価が高かったのもカレーの辛さの反動によるものだろう。
ほとんど差は無かったが、共和国で食事した経験の有無でカレンが優勝となった。
その後、間食用に幾つか買って宿へと帰っていったのだった。




