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第8話 挑発


「何時まで騒いでいるのだっ!!早く訓練に戻れっ!!」


クローディアから事情説明を受けた団長様に叱られ、兵士たちは散っていった。


「不要な騒ぎを起こしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


「…いや、話を聞けばクローディア殿のせいとはいえぬ。

しかし、変な勘違いを生む原因を作られた事は、反省いただきたいですな」


叱られてシュンとなっているクローディアと、不機嫌さを隠さず俺に視線を向ける団長様。

その俺のななめ後ろでは、原因を作った3人がオロオロしていた。


「…ああ~、クローディア姉さまごめんなさい…」

「くっ、何たる不覚…」

「…あはは~、やってしまいましたね…」


この後、確実に怒られるのが解っているのだろう、声に張りが無い。

しかしその前に、団長様は俺の目の前にやって来た。


「…貴様がカインか。ワシが指南役の聖騎士団団長のフィリップ・オーガストだ。

クローディア殿から話は聞いている。

この様なことが許されるのは、彼女の願いをワシが叶えたおかげだ。

精々ワシに感謝して、あまり調子に乗らぬ様にな」


「…はじめまして、冒険者のカインです。今日はお邪魔させて頂きます。

この様な機会を与えて下さって感謝の言葉も有りません。

精一杯、頑張らさせて頂きますので、よろしくお願いします」


俺が彼女の婚約者に間違われたのが、お気に召さなかったのだろう。

敵対心を隠そうともせず話しかけてきたが、俺は


(…その程度の器だから駄目だって事に気づけよな…

まあここまで敵視してくれるのなら、こっちも心が痛まないで済むな)


などと、笑顔で対応しながらそんな事を思っていた。

するとクローディアが慌てて話かけてきた。


「先ほど中断しましたが、カイン殿の紹介を続けたいのですが…」


「…そうですな、手短にお願いしますぞ」


そういうと、3人が俺の前へやって来た。


「カレン、ルミラ、フィリア。こちらは冒険者のカイン殿。

今日は貴女達に特別な訓練をつけて頂く為に、来て頂いたの」


クローディアの説明に3人は状況を理解し、金髪の少女から自己紹介が始まった。


「…そうだったんですか。

あの、私はカレン・フォウ・ベテルギウスといいます。

先ほどは申し訳ありませんでした。本日はよろしくお願いします」


そう言って元気に頭を下げた。

赤髪の少女が続く。


「…私はルミラ・テオ・シリウスです。

お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。

ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」


やや恥ずかしそうにしながら、礼儀正しく深くお辞儀をしてくる。

最後に銀髪の少女が話しかけてくる。


「…はじめまして、私はフィリア・イル・プロキオンと申します。

以後お見知りおきを。

先ほどはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。なにとぞご容赦のほどを。

どうか、お手柔らかにお願い致しますね?」


そう言って微笑み、まるでドレスを着ている様に、法衣の端をつまみ優雅なお辞儀を見せた。

三者三様の自己紹介を受け、俺も自己紹介を返す。


「ああ、俺はカイン。A級冒険者の魔術師だ。今日はよろしくな」

笑顔で挨拶をしながら


(…ああ、くそっ心が痛いっ。これからこの子達を叩きのめすのか…憂鬱だ)


などと思っていたら団長様が


「自己紹介は済んだな。ならば早く訓練を始めてくれ。こちらとしても貴重な時間を無駄にしたく無いのでな」


とまるで俺が、邪魔者であるかの様な口調で割り込んできた。

3人もその言い様に眉を顰める。

多分、普段ならもう少し自分を抑えられるのだろう。

しかし今は俺の事がよほど憎たらしいのか、取り繕う余裕が無いようだ。

俺としても好都合だ、とことん嫌ってもらおうじゃないか。


「そうですね、それでは早速始めましょうか?3人ともそれでいいかな?」

「は、はいっ、私達は大丈夫ですが…」


すると団長様から物言いが入る。


「ふんっ、いったいどの様な訓練なのだ?さぞかし有意義な物なのだろうな?」


「ええ、手っ取り早く模擬戦を行います」


「模擬戦だと?はっ、貴様この三人の実力を知らないようだな。貴様では相手にもならんよ」


「そうですね、ですので私は一人で、そちらは実戦装備の上で3人同時に相手をしましょう。もちろん実戦形式で」


俺がそう言い放った瞬間、場が凍りついた。

まあ、当然だろう。ここまで勇者が馬鹿にされた事はないだろうしな。


「…貴様、正気か?」


「ええ、ちゃんと手加減はしますよ?ご心配なく」


「…馬鹿馬鹿しい、どうやら無駄な時間だった様だな。もういい、帰れ」


心底あきれた口調でそういってくる団長様。

3人もどうしたら良いのか解らず、戸惑っているようだ。

まあ、まだまだ煽らせてもらおう。


「…まあ、勇者が3人がかりで負けたら恥ずかしいしな、指導者が無能だとどんな良い素材でも無駄になるし」


俺のセリフを聞き、団長様が怒りに震えた。


「たかが冒険者風情が何様のつもりだっ!!!言うに事欠きワシを無能だと?

身の程を知れ!!!」


「身の程を知るのはアンタだよ、今の勇者達は俺一人に勝てない程度の実力なんだ。指導者のせいでな。

まあ、正面から自分の間違いを指摘されれば、認められないのも解るけどな」


「…貴様、ここまでワシを侮辱して、ただで済むとは思ってないだろうな?」


「侮辱じゃなく事実を言っただけなんだけどな。まあ、口では幾らでも好きな事をいえるしな?」


団長様の表情が急激に冷めていく。

ようやく堪忍袋の緒が切れたみたいだ。


「…よかろう、そこまで言うのなら、死んでも文句は言わさんぞ」


「最初から言う気はねーよ。御託はいいからかかってこいよ」


さあ、ようやく本番だ。





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