第86話 2度目の死闘
地竜から逃げる為、まずは視界を奪う。
撃ち込んだ魔弾で砂埃を上げ、その隙に逃げようとした。
しかしどうやっているのか解らないが、地竜は明らかに俺を追って来ている。
先ほどの幻術を見破られた様に、地竜は視覚以外で俺を見つけられるみたいだ。
(……視覚で無いなら、こっちはどうだ?)
近づきつつある地竜の鼻に、最後に残っていた果物を投げつける。
見事に命中したのを確認して、森の中に逃げ込む。
俺は素早く近くの木に登り、息を潜めた。
地竜が段々と俺のいる木の近くまで迫ってくる。
(……もしも嗅覚で追って来ているのなら、見つかる事は無いんだが……)
鼻先についた先ほどの果物の匂いと、森の濃密な木々の匂いで誤魔化せるはずだ。
地竜ほ俺のいる木の近くまで来ると、足を止め体当たりを仕掛けてきた。
…駄目だ、完全にばれてる。
視覚でも無ければ嗅覚でもない。
地竜が何度目かの体当たりを仕掛けるが、タイミングを計り別の木に飛び移る。
魔力糸を伸ばしては別の木の枝に巻きつけ、次々と飛び移って行く。
それでも、俺が逃げる方向にしっかりと着いてくる。
どうやって俺を捉えてるのか解らない限り、逃げ切るのは不可能だろう。
じっと隠れていた俺を見つけたという事は、聴覚でもないはずだ。
……駄目だ、解らない。
解ったのは、どうやら地竜からは逃げ切れそうにないという事だけだった。
地面に降り地竜に向けて、ミノタウロスを貫いた石の杭を放つ。
命中はしたが、かすり傷もつけられてはいなかった。
あれで駄目なら鱗のある場所には、俺の攻撃は一切通じないだろう。
仕方なく、逃げながら色んな魔弾を放ち反応を見る。
水、雷、氷、火と付与した魔弾を順番に放つ。
水は喰らったが当然ダメージは無く、雷は一瞬ビクッっとなったがそれだけだ。
氷と火の魔弾はかわされてしまい、効くのかどうか解らなかった。
そして俺は、分割思考を瞑想から分析に移行して逃げ続けた。
速さは地竜が上なのだが、森の中であることが幸いしほとんど距離が縮まらない。
地竜の巨体が災いして、木々が移動の邪魔になっているからだ。
……しかし差が広がっている訳でもなく、このままではいずれは俺の体力が尽きてしまい、めでたく地竜の餌になってしまうだろう。
その前に何とか、地竜から逃げるか、倒す方法を見つけないといけない。
俺は先ほどの魔弾での攻撃に違和感を感じていた。
(……なんで地竜は氷と火の魔弾はかわしたんだ?)
正直あの魔弾が命中しても、地竜には何のダメージも無かったはずだ。
実際石の杭を放った時は、かわそうともせずまともに喰らっている。
それを考えると地竜は氷や火の攻撃を喰らうと不味いのか、それとも逆にその攻撃しかかわす事が出来なかった理由があるのか……
とりあえずは試すしかないだろう。
再び分割思考を分析から瞑想に切り替え、氷の魔弾を放つ。
やっぱり地竜は反応を示し、きっちりとかわしてくる。
威力だけなら石の杭の方があるはずなのに、何でわざわざかわすんだ?
もう一度石の杭を放つと、今度は無防備に喰らった。
かわす仕草も見せなかったし、明らかにさっきとは違う。
2つの違いを考えた結果、ある可能性に辿り着いた。
(……まさかコイツ、そういうことなのか)
俺は自分の進行方向に向かって氷の柱を1つ立て、その奥に石の柱を立ててみた。
俺はその脇をすり抜けながら逃げ続けると、地竜は氷の柱を尻尾で攻撃し、石の柱はその横をかわす様にすり抜けて行った。
……確定だ。コイツは温度を感じて俺自身や攻撃を感知してるんだ。
魔族に教わった事があったが、蛇の魔物などの一部には視覚の代わりにそういった方法で相手を感知するのがいる、と話していたのを思い出した。
そうと解れば対策を立てる事は出来るのだが、今は難しい。
本来なら、分割思考を対策に割り当てることで作戦を思いつくのだが、今は魔力の回復の為1つ瞑想に当てている。
先ほどまで地竜の特徴を探る為に、魔術を使いすぎた。
仮に今作戦を思いついても、実行する為には魔力が足らないだろう。
かと言って作戦が思いつかなければ、先に体力が尽きてしまいかねない。
魔力を優先させるか、作戦を優先させるかギリギリの見極めが要求される。
悩みながら移動を続けていたが
(……不味いっ!!この場所は危ないっ!!)
森を抜けた先は周囲を岩壁に囲まれた場所だった。
左右に逃げ道はあるが、すぐ後ろから地竜が迫ってくる。
俺は右に向かって逃げようとしたが、俺の正面に何かが迫ってきた。
瞬間的に魔力壁を張り、左腕で身体をガードしたが大した効果も無く大きく後ろに吹き飛ばされた。
「ぐはっ……!!」
そのまま後ろの壁に激突して止まった。
左腕はありえない方向に曲がり、口の中は血の味がしている。
背中を打った影響で、全身が痛く身動きも取れそうに無い。
目の前を見ると地竜が尻尾を振り切った体勢でいるのが見えた。
(……本気で不味いな。打つ手が無いぞ、これ)
朦朧とする意識の中、確実に迫る死の気配に俺は死を覚悟するのだった。




