表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/224

第82話 修行の始まり


帰ってきた魔族は、まずは住居を建て始めた。

そのやり方は、幾つかの木に触れて魔術を唱えたのだろう。

あっという間に木が木材に変わり、更に唱えた魔術で勝手に木材が組みあがり小屋が出来上がった。

あまりの出来事に俺が呆然とする中、当の本人は


「……ふむ、こんなものか」


などと、大した事をやった風でもない顔で頷いていた。

俺が今のはどうやったのか、質問したら


「頭の中に設計図を作り、必要な材料を計算して自動で組みあがる様にした」


と、得意げな顔もせず言ってのけた。

正直、俺には何をやったのか解らないが、これがとてつもなく高度な魔術である事だけはかろうじて理解できた。


小屋の中に入ると、どこからか現れた黒い穴の様なものに手を突っ込み、そこから家財道具を取り出し始めた。

その中には、どうやったんだと疑いたくなる大きさのベッドなども含まれていた。

……駄目だ。コイツのやることに一々驚いていたら身体が持たない。

こういうものだと思って受け入れるしかない。


食料の方も、その黒い穴から取り出していた。

どうなっているのか聞いてみたら、別の次元に繋がっているとか訳が解らない事を言っていた。

中に入れたものは、時間が進まないから腐る事も無いそうだ。

1年は余裕で過ごせる量があると言っていたので、飢える事は無いだろう。


生活の準備が整った後、外に出て修行が始まった。

まずは俺の魔術の適性を見る事から始まった。

なにやらよく解らない魔術を俺にかけると、難しい顔をして唸った。


「……うーん。まさかこんな結果になるとはな」

「こんな結果って、どういう事だよ?」

「……お前、戦いに向いてないな。魔術適性が低いしやたら偏ってる」


などと、いきなり出鼻をくじく様な事を言ってきた。

詳しく聞くと、俺の魔術適性は特定のものを除き軒並み低いそうだ。

仮に魔術を使うのに100必要なら、俺は精々10ぐらいしか無いらしい。

普通は成長に伴いある程度向上が見込めるのだが、ここまで低いとまず使える様にはならないとの事だ。


更に適性が高かったのが、普通魔術、幻術、付与魔術の3つだけなのも痛かった。

それらの魔術の特徴を説明され、その内容がこうだった。


普通魔術は文字通り、魔術が使える人間なら誰でも普通に使える魔術だ。

魔力そのものを操り形状を変化させる魔術だが、魔力を触媒にした他の魔術の方が効率も良く威力も高く汎用性に富んでいる。


幻術は文字通り幻を見せる魔術だ。

あくまでも実体は無いので、使い方がかなり難しく使い手を選ぶ魔術だ。

攻撃力が全く無いのもこの魔術の難しいところの1つだ。


そして付与魔術は、最も微妙な魔術と呼ばれている。

様々な属性や強化や弱体化を付与できる高い汎用性の代わりに、魔力効率や威力は他の魔術より1段劣る。

サポートに特化した魔術なので、これが得意だと言う奴はまずいない。

これを身に着けるくらいなら、他の魔術を選べと言われる程に不人気だ。


「せめてなにか1つ、元素系が使えれば大分違っていたんだがな」


魔族はそう言って嘆いていたが、無い物は仕方ない。

魔術に関してはまた考えるとして、次は武術だ。


俺はナイフを構え、魔族と向かい合う。

俺は自分が考え付く限りの攻撃を繰り出したが、何1つ当たらなかった。

逆に相手の攻撃は半分は命中し、防ぐのもギリギリだった。

評価としては、平凡だそうだ。


とりあえず今日は魔力練成の方法を習い、素振りを出来無くなるまでやらされた。

そしてこの微妙な結果に、魔族は大いに頭を悩ませていた。



それから5年、俺は今模擬戦の真っ最中だ。


「くそっ!!今日こそは1発当ててやるっ!!」

「……もう聞き飽きたぞ、その台詞は。いい加減諦めたらどうだ?」

「やかましいっ!!これでも喰らえっ!!」


俺は数十発の魔弾を撃ち込んだ。

その内の9割は幻術による幻だ。

既に【身体強化】は付与してある。

弾幕に隠れて、一気に接近する。


「……気配の消し方が甘い。攻撃が相手の脅威になってないぞ」


そう言いながら出した横薙ぎの風の刃を、地を這う様な姿勢でかわす。

そのままナイフを投げつけ、更に接近する。

身体を半身にしてナイフをかわしつつ、迎撃体勢に入る。

正面から殴りかかる幻術の俺を無視して、足を取ろうとしていた俺を見る。


「狙いは悪く無かったけど、少々意外性に欠けたな」


俺は咄嗟に両腕を交差させ、強烈な蹴りをかろうじて防いだ。

しかし思い切り吹き飛ばされ、着地はしたが体勢が大きく崩れた。

そんな隙を見逃してくれるほど甘い相手じゃない。

追撃の風の玉を喰らい、吹っ飛ばされ地面を転げる。


「……ここまでだな。昔に比べればマシだがまだまだだな」


汗1つかいていない余裕の表情で、倒れた俺を見下ろした。


「それじゃ、明日も家事はお前が担当だな。なあ、いつもの料理は食べ飽きてきたから、新しいメニューでも開発しないか?」

「うるせーよっ!!ここ数年俺しか家事してねーだろっ!!贅沢言うなっ!!」

「……いやお前、戦いはともかく家事は間違いなく才能あるぞ」

「やかましいっ!!何の慰めにもなってねーんだよっ!!!」


俺はいまだに、コイツに一撃入れる事が出来ていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ