第7話 依頼当日
翌日、昼頃に演習場の前に着いた俺を、クローディアが出迎えた。
「ようこそおいで下さいました、カイン殿。今日はよろしくお願い致します」
「ああ、任せといてくれ。それじゃ案内してくれるか?」
「はい、それではこちらへどうぞ」
そういって奥の演習場へと歩いてゆく。
しばらく歩いた先では、広い演習場で屈強な兵士や騎士、魔術師達が激しい訓練を行っている。
そんな中、違和感を感じさせるほど場違いな、3人の小柄な姿を見つけた。
「はあっっ!!、【ソニックエッジ】!!」
「…抜かせない!!【パワーウォール】!!」
「汝らに癒しを…【安らぎの息吹】」
遠目に見るが思っていたよりは戦えそうだ。
勇者と思われる少女の動きは素早く、高位の騎士2人相手でも圧倒していた。
隙が出来た騎士に、中級武技【ソニックエッジ】を叩きこみ無力化し、
残る1人も、中級魔術【ホーリーランス】をくらい膝をつく。
…うん、技の出もはやく、隙も少ない【ソニックエッジ】を選ぶのも正解だ。
【ホーリーランス】の威力、制御ともに申し分ない。
一瞬の判断の的確だし、かなり鍛えられているようだ。
騎士と思われる少女も5人の兵士と戦っていた。
こちらは防御の練習なのか、兵士達の攻めを防いでいた。
ばらばらに攻めれば、体捌きと盾を使い上手くいなす。
纏まって攻めれば中級魔術【パワーウォール】を使い、防ぐどころか弾き飛ばしていた。
…へえ、あの重装備で良くあそこまで動けるな。
それに【パワーウォール】は自分を中心に半球状の力場を作る防御魔術だ。
本来であれば、弾き飛ばす程の威力は無いはずなんだが…
僧侶であろう少女は、怪我をした兵士達に治癒魔術をかけていた。
使った魔術は、複数の治癒を同時に行える中級魔術【安らぎの息吹】。
こちらも本来、3~4人を回復させるものなのだが、10人以上を回復している。
しかも複数を癒せる半面、回復量は落ちるはずなのだが上級魔術に近い回復量だ。
…3人とも、年齢からは考えられないほどの実力を身につけている。
しかし…
「カイン殿、あなたの目にはあの3人はどう見えますか?」
「…ああ、確かに高い実力はある。でもアレじゃ駄目だな」
実際にこの目で見て確信した。
このままでは、魔王相手なら確実に負ける。
「…やはりですか」
「ああ、まあそういう意味ではアンタの依頼は正しかったよ」
俺の言葉にクローディアは、複雑そうな顔をする。
「頭の痛い話ですが、カイン殿が依頼を受けて下さったのは不幸中の幸いでした。
…お願いします。どうかあの子達を叩きのめしてやってください…」
「…ああ、大丈夫だ。ちゃんと理解させるさ…」
そうして俺達は3人の下へ向かった。
3人が休憩に入ったところでクローディアが話しかける。
「カレン、ルミラ、フィリア、少しいいかしら?」
「クローディア姉さま?は、はい、何でしょうか?」
「…お久しぶりです!!、クローディア様!!」
「まあ、本当にお久しぶりですね、クローディア様。今日はどうされたのでしょうか?」
話しかけられた3人はとても嬉しそうだ。
よほどこの3人から慕われているのだろう。
「ええ、今日は貴女達に会って欲しい人を連れて来ているの。」
そう言って、振り返って俺の方を向くと、3人が視線がこちらを捉える。
怪訝そうに見ていた3人だが、何を思ったのか壮大な勘違いを始めた。
「!!あ、会って欲しい人って…まさか!!!」
「…もしかして、クローディア様の…」
「まあ、ご婚約者の方ですか?クローディア様、おめでとうございます」
そのセリフに周囲が騒然となる。
ここまで、2人で歩いて来ていたのも勘違いの原因なのだろう。
近くの連中からは
「う、嘘だろっ、クローディア様が、そんな…」
「お、俺達のクローディア様が…」
「…何処のどいつだ?俺達に喧嘩を売ってきた奴は…」
「五体満足で帰れると思うなよ!!」
などと、戦場を思わせる様な殺気が放たれていた。
…どうやらクローディアは兵士達にも大人気の様子だな。
言われた当の本人は、まさかそんな勘違いをされるとは思っていなかったらしく、現在絶賛大混乱中である。
「…わ、私とカイン殿が…はっ、ち、違う!!違うのだ!!私とカイン殿はそういう関係では無い!!話を!!話を聞いてくれーーーー!!」
無関係なら面白可笑しかったのだろうが、巻き込まれたとはいえ当事者だ。
俺への殺気のこもった視線は増えこそすれ、減る様な気配は一切見せない。
(むしろここでクローディアを抱き寄せ「彼女がいつもお世話になっています」
とか言ったらどうなるのかなー、面白いのかなー)
などと現実逃避を始めていたら、
「何を騒いでいるのだ!!!貴様ら!!!」
と、遠くで立派な鎧を身に着けた御仁がこちらに向けて一喝していた。
その御仁はこちらにやってきて
「この騒ぎは何なのだね、クローディア殿?」
と、彼女を問いただしていた。
その際、俺を一瞥すると不愉快そうに表情を歪めた。
「…申し訳ありません、フィリップ団長殿。いささか勘違いが生じましてこの様な事に…」
と、クローディアは説明を始める。
それを見ながら俺は
(役者も揃ってきたし、そろそろ依頼を始めようかね?)
などと考えていた。