第74話 《剣聖》との再戦
「まあ、大負けに負けてギリギリ及第点ってところだな」
おっさんはそう言ったが、その顔はにやついていた。
多分本人の想像以上の仕上がりだったのだろう。
これで3人は、めでたくおっさんに認められた形になった。
後は俺が認められれば、ここでの鍛錬は終了となる。
正直、不安はまだ残っている。
今のあいつらでも【転】を出されたら、防ぐのは厳しいだろう。
しかしこの先、強敵を相手にするのに一々不安になっていたらきりが無い。
おっさんとの戦いは、俺があいつらの仲間になれるかの試金石だ。
俺は意を決しておっさんに話しかける。
「……それじゃ、おっさん。俺と手合わせして貰えるか?」
「……ああ、いいぜ。掛かって来いよ」
こうして俺とおっさんの2度目の手合わせが始まった。
双方が一定の距離を取り、向かい合う。
もう、いつ始まってもおかしくない。
「先生っ!!頑張ってください!!」
「お師様っ!!こちらは心配無用ですからっ!!」
「負けたら許しませんからねっ、導師様っ!!」
後ろから3人の声援が聞こえる。
……前回のような情けない姿は、もう見せられない。
まずは俺から仕掛ける。
5発魔弾を出し、【閃光】【轟音】【条件式】【切れ味低下】【重量増加】の順に付与し【誘導】も付けて放った。
同時に俺の周囲の地面に【軟化】をかけつつ、幻術でそれを隠す。
放たれた魔弾を、おっさんは5発とも切り落とす。
おっさんの性格なら、かわさず斬るだろうと読んだ俺の狙い通りだ。
今の魔弾はこちらが優位に進める為の布石だ。
【閃光】【轟音】で五感を鈍らせ、【切れ味低下】【重量増加】で僅かでも違和感を持たせる。
そして【条件式】は最後の決め手の仕込みとなる。
魔弾を斬った後おっさんは、【縮地】で迫ってくるが足下が【軟化】していたので接近しきれない。
距離を取りつつ再び【閃光】【轟音】の魔弾を放ち、【爆発】も混ぜておく。
大したダメージにはなっていないが、確実に視力と聴力を削っていく。
その隙に地面に【条件式】を撃ち込んで仕込みを済ませる。
そして俺は勝負に出る。
【転】の性質上、俺の予想通りになる可能性は高い。
しかし、万が一予想が外れれば他の皆が危険に晒される。
……それでも自身の予想と3人を信じると決め、行動に移した。
どうにか【軟化】した場所から抜け出したおっさんに、大量の魔弾を撃ち込む。
この時点で俺の仕込みは終わっている。
後はおっさんが【転】を使うのを待つだけだ。
そしておっさんは【転】を使い、迫り来る魔弾を切り裂いた。
そのまま他の全員に無差別に攻撃を加えるが【切れ味低下】と【重量増加】の影響があるのか、以前よりも攻撃に切れが無かった。
他の皆も、ルミラが【パワーウォール】を張り、フィリアが【リーンフォース】と【安らぎの息吹】を使う事で強固な防御と回復を行っている。
ジュウベエとカレンは、その2人を傷つきながらも守っている。
痛みに耐えられれば、【安らぎの息吹】で回復が出来るが故の荒業だ。
【転】は俺にも攻撃するが、その攻撃がすり抜けた。
幻術を使い偽の自分を見せて、俺自身は【浮遊】で宙に浮いていた。
宙に浮いている俺を見つけて、おっさんは【転】で攻撃を仕掛ける。
俺の背中に一瞬で回り込み、強烈な斬撃を叩き込む。
その斬撃をもろに喰らうが、【斬撃無効】と【衝撃吸収】のおかげで無傷だ。
そして俺が待っていた瞬間が、遂にやって来た。
俺は斬撃を受けて地面へと叩き落され、おっさんは逆に宙から落下していた。
【転】の原理は解らないが、移動して攻撃している事は確かだ。
ならば、宙に浮いた相手を攻撃したらどうなるのか?
その答えが、攻撃は出来るがそこからの移動は出来ないだ。
唯一の不安が、宙に浮いた俺を無視して他の皆に攻撃が集中することだった。
今のおっさんは移動も出来ず、ただ落下するだけだ。
俺は真下に回り込み、大量の魔弾を放つと同時に【条件式】を発動する。
最初に魔弾を斬った時の【条件式】は《任意で磁力を発生させる》だ。
そして地面に撃った【条件式】は《磁力を持つ物を強く引き寄せる》だ。
2つの【条件式】により、おっさんは刀に引っ張られて地面に吸い寄せられる。
踏ん張りが利かず、刀に引っ張られては流石のおっさんも迎撃出来ない。
大量の魔弾を喰らい、そのまま地面に叩きつけられる。
気絶し地面に埋まった状態でも、刀を手放さないのは流石だ。
……なんとかなったが、流石におっさんの相手はきつい。
今回は読みがほとんど当たったから良かったが、実際は紙一重だ。
1つのミスで流れが一気に変わるので、精神的な疲れが大きい。
俺は大きく息をつき、後ろに倒れこんだ。
「……あー、しんどかった。もうやりたくねー」
俺が大いに愚痴っていたら
「先生っ!おめでとうございます。凄かったですっ!!」
「流石お師様ですっ!お見事でしたっ!!」
「ふふっ。格好良かったですよ、導師様」
3人が近づき、声をかけてきた。
俺はそんな3人に
「……おう、仲間としてみっともない姿は見せられないからな」
と、笑顔でそう返した。




