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第73話 修練の仕上げ


あっという間に2週間が過ぎた。

その間に3人はもちろんの事、ジュウベエも実力を上げていた。

普段はおっさんとばかり鍛錬しているのが、年齢も実力も比較的近い3人との鍛錬は、ジュウベエにとってもいい刺激になったようだった。


その一方で、俺は初日以来おっさんとは戦っていなかった。

おっさんが言っていた覚悟は既に出来ていたが、まずは3人を強くしたかった。

3人を仲間として信じると決めたあの日、俺は意識を変えた。

それまでは、常に3人をフォロー出来る様に後ろに控えていたが、俺自身も戦闘に加わる事で3人と1人から4人パーティーへと変わったのだと強く意識した。


おっさんとの手合わせには直接関係はないが、これは俺の心の問題だ。

おっさんとの勝負に集中し、勝つことで間接的にあいつらを守る。

それが3人を仲間として信じ、頼ることだと思ったからだ。



今日の鍛錬が終わり、俺はおっさんに話しかけた。


「なあ、うちの3人はどのくらいで合格が出せそうだ?」

「はっ、合格なんざ一生かかっても出来ねーよ。……まあ、及第点までならおよそ後2週間ってとこだろうな」

「……へえ、思ったより早いな。正直2ヶ月はかかると思ってたんだけどな」

「お前、基礎的な事に絞って教えてただろ。変な癖がない分早いんだよ」

「……俺の時はまず矯正から入ってたからな。おっさんに任せるつもりだったからそこは注意して教えたんだ」

「人が苦労して直したってのに全然伸びなかったからな。お前、本当に武術の才能ねえな。金髪と赤毛の嬢ちゃんとは比べ物にならねーよ」


やかましい。本人が1番自覚してるんだからいじるなよ。

しかし、その物言いはおっさんにしては珍しいな。


「意外にあの2人の事を評価してるんだな。普段の鍛錬じゃ叱られてばかりだったから、評価が低いのかと思ってたんだけどな」

「……才能だけでいえばピカイチだ。お前、あいつらに魔術も仕込むつもりだろ?

……うわー、勿体無いから止めろ。武術だけにしてワシに預けろ」

「本当に評価高いんだな。てか、ジュウベエ鍛えろよ。愛弟子だろうが」

「アイツも良いんだけど、あの2人も捨てがたいんだよな。本当はもっとじっくり仕込みたかったんだが、お前らの方に事情があるんだろ?」


……相変わらず勘が鋭いな。この後共和国と帝国も巡る予定だ。

ヤヨイさんの件もあるし、ずってここで鍛錬してる訳にもいかない。

クローディアと相談して、出したのが2ヶ月だけという結論だった。

……まあ、その割にはいきなりサカイに寄ったのだが結果オーライだ。


「他国を巡るのに半年ぐらい予定してるし、それが終われば本格的に魔族への攻勢にでるだろうしな。次に皇国に来れるのは、魔王を倒してからだろうな」

「……気の長い話だな。まあ、ギリギリまで仕込んどいてやるよ」

「ああ、3人が及第点になったら手合わせ頼めるか?」

「……こっちはいつでもいいぜ。前みたいな無様は晒すなよ」


おっさんの返事に、片手をあげ応える。

俺はおっさんに背を向け、立ち去っていった。



それから更に2週間が経った。

今現在の3人といえば


「そこっ!!はああぁぁぁぁ!!」

「そう簡単には通さないよっ!!はあっ!!」


「そちらの好きにはさせませんっ!!【ウォーターウォール】」

「その後に雷で拙者の動きを封じる。……何度も見ましたよっ!!」


今、カレン&フィリアとルミラ&ジュウベエで模擬戦を行っている。

フィリアだけ魔術ありで、他は【錬気法】【縮地】【透かし】のみだ。

流石にフィリアは1対1では勝率が悪い。

しかし、俺と立ち回りを研究したせいか、戦い方が俺に似てきた。


「なっ!!今の【ウォーターウォール】は足場を荒らす為ですかっ!!」

「取れる選択肢は幾つあっても構いませんからね。【フリージング】!!」


魔術で水の壁を作りそこに雷を流す、というのは俺がよくやる手だ。

防御力に乏しい水の壁も、こうすれば安易に突破出来ない。

しかし、狙いはそれだけだけはない。

仮に突破されても、相手が水に濡れれば雷や氷の魔術が効きやすいし、水で濡れた地面も足場を泥にしたり、凍らせたりと幾らでも応用が利く。


現に突破しかけたジュウベエに対し、足下を凍らせにいった。

水で濡らした事で足下が氷になり、踏ん張りが利かなくなる。

そこに更に、水の魔術での攻撃から雷か氷の魔術の追撃に移るといった寸法だ。


一方、カレンとルミラの戦いは白熱していた。

今までは、カレンが速さで翻弄しルミラがそれを待ち構えるといった構図だった。

しかしここでの鍛錬の結果、ルミラの方は速さに慣れつつあった。

カレン以上の速さのおっさんとも、手合わせしているのだから当然だろう。


そしてカレンは、単純に動きそのものが洗練されていた。

こうしてみると、以前の動きがいかに余計な力が入っていたかよく解る。

上手く脱力する事で、技の繋ぎも格段に良くなっている。

……まあ、それを凌ぐルミラも同じくらいに動きはいいのだが。


しかし決着は意外にあっさり着いた。

ジュウベエの足止めに成功したフィリアが、カレンに加勢したからだ。

他の3人は目の前の勝負に拘るが、フィリアにはそれは無い。

ジュウベエとの1対1をあっさりと切り上げ、2対1の状況を作る。

……そういう所まで俺に似たのは、果たして良い事なのか悩むな。


流石にルミラも2対1では分が悪かった。

2人がかりで一気に押し切られ、戦闘不能になる。

足止めから脱したジュウベエだったが、もう遅かった。

そのまま2対1での戦いを強いられ、敗北した。


実際、1対1では勝率の悪いフィリアだが、チームを組むと評価が変わる。

とにかくチームとしての勝ちを得ることでは、4人の中ではずば抜けている。

さっきの様な足止めや、逆に囮になって隙を作る事もある。

チームの中での、自分の立ち位置がよく解っているからだろう。


模擬戦を見ていたおっさんから決着が告げられ、3人には一応及第点が与えられたのだった。


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