第6話 依頼実行前日
「それじゃ何時始めればいいんだ?」
「そうですね…明日午後から、軍の演習場で訓練が行われます。
そこで戦える様にしますのでお願い出来ますか?」
「ああ、解った。確か城の北側だったよな?昼頃そこに向かえばいいか?」
「はい、私が入り口で待っていますので、お越しください」
「了解、それじゃまた明日よろしくな」
俺はクローディアに握手を求めるように、手を差し出す。
「はい、依頼を受けて下さって本当に感謝しています。
明日はよろしくお願いします」
そう言って、ソファーから立ち上がり、握手を交わし俺に頭を下げ退室していった。
うん、ちゃんと付いている。
これで後の作業も楽に出来る。
彼女の気配が十分遠ざかったのを確認して、筋肉ダルマに話しかける。
「…おい、どうせ調べてるんだろ?金なら払うから情報よこせ」
「…全く、お前ぐらいだぞ、わしにそんな口をきくのは…
ふん、まあいい、金はいらん。依頼のついでに調べた事だしな」
そういって執務机に向かい、引き出しから紙の束を取り出し俺に渡した。
まあ、コイツがこの依頼の裏を取らない訳は無いしな。
俺はその束に、すばやく目を通し必要な情報を整理した。
(…はあっ、勇者って13歳かよ!!他のメンバーもガキじゃねーか。
…俺、明日コイツらと戦うのかよ、くそっ、大人気ないにも程があるだろ?
…この指南役は…やっぱりな、それなら確かにこの依頼をねじ込むことは出来るが…つーか年齢43歳?年の差考えろよ、オッサン!!)
得られた情報を元に、これから取るべき行動を考える。
(勇者の方は問題ない、そしてクローディア…アレが必要になるな。
決定的な証拠を掴めば問題ないだろうが、強く出られると手遅れになりかねない。
すぐに追った方がいいな。…指南役の方は確実にするなら押さえて置きたいが、そうなるとやっぱりコイツに頼らざるをえないか…)
俺は嫌そうな顔で、筋肉ダルマの方に顔を向け言った。
「おい、明日の依頼の時に、なるべく偉い奴を連れてこれるか?」
「ん?偉い奴ってのはどのくらいだ?」
「上であるほど良い。当然、指南役の派閥じゃない奴で」
ここまで言えばコイツなら、俺が何をするのか解っただろう。
そしてコイツは、こういう時の期待は絶対に裏切らない。
「…はっ、面白れーじゃねーか。いいぜ、任せとけ。
とびっきりの奴を連れて来てやる」
「任せた。俺は準備があるからもう行くぞ」
紙の束を返しながら、俺は部屋を出て行く。
急いで外に向かっていると、途中ミュシャに呼び止められた。
「あーーー!!カインさーーん!!報酬!報酬忘れてますよーーー!!」
「悪いーー!急ぎの用事が出来たから、明日貰いに来るよーーー!」
「ええーーー!!ちょっとーーー!!カーーイーーンーーさーーんーー!!!」
申し訳ないが、本当に急ぎなのだ。
万が一があったら、洒落では済まない。
(…アレは手持ちにひとつあるな。このままクローディアの所に向かうか。)
俺は人気の無い路地に入り、幾つか魔術を使う。
さっきの握手の時につけた、目印でクローディアの位置を特定する。
(…今は騎士団の詰め所の方に向かってるのか、そうなるとこの後、指南役と落ち合う可能性が高いな。そこで話すつもりだろう。)
急いで騎士団の詰め所に向かい、正面から隠れることなく詰め所に入る。
門番も、周りの騎士達も、俺に何か言ってくるようなことは無い。
クローディアを探していると、見つけた。
上の階の方へ向かっている様だ。
(…どうやら丁度いいタイミングだったみたいだな…)
後をつけると、扉のまえにクローディアは立っていた。
「失礼します。クローディア・ルウ・ベテルギウスです。入室を許可して頂けますか?」
「…ああ、キミか、構わんよ。入りたまえ」
「……はい。失礼します」
聞くだけでいやらしさが解るような声色で、部屋の主が入室を促す。
クローディアは、覚悟を決めた顔で部屋へ入って行った。
(…やれやれ、本当に面倒くさい事になってんな)
俺も扉を開け、部屋へと入るのだった。
…………
………
……
…
(…はー、これでとりあえず仕込みは終わりだな…)
辺りを見回すと、もう日が落ち頭上には月が輝いていた。
(まあ、あのエロ親父には一線を越えさせなかったし、
後は明日、依頼の達成と後始末だけか…)
想像以上の面倒くさい事態に、俺はため息を吐きながら帰宅するのであった。