第67話 騒動の終わり
ヤタローは今後、ヤヨイさんを救う為他国を巡るそうだ。
そんな様子を見て3人は
「先生っ!私達にも出来る事は無いでしょうか?」
「こんな形で愛する方と引き裂かれるなんて、絶対に駄目ですっ!!」
「こうして知り合ったのも何かの縁ですし、お力添えしたいですね」
と言ってきた。
まあ、気持ちは解るし放っておくつもりも無いけどな……
「けどお前ら、それは桔梗屋さんの思惑に思いっきり乗せられてるぞ」
と、俺が言うと周りから驚きの目を向けられた。
「……それはどういう意味なんや、カインはん?」
「いや、結局この婿選びがどうしてこんな形になったのかを考えたら、納得できる理由がそれしか無くてな……」
俺は自身の推察を説明した。
武芸者を雇い、勝ち抜いた上で《剣聖》に勝つ。これが今回の婿選びだ。
有力な武芸者を雇う財力と人脈を量る為、という話だが違和感がある。
それが《剣聖》を雇ったという事だ。
どんな武芸者を雇っても、《剣聖》がいる時点で不可能だ。
よっぽど娘をやりたくないか、裏で話が纏まっているかと思ったのだが
「桔梗屋さんは、自分で《剣聖》を雇ったとは一言も言ってないんだよな」
「「「「あっ……」」」」
3人とヤタローが、今気づいた様で声を上げた。
更に説明を続ける。
ならばこの条件の意味は何なのかを考えれば、有力な武芸者の枯渇と考えた。
皇国の有力な武芸者が雇えなければどうするか、2つ道がある。
皇国内の無名の武芸者を雇うか、他国の冒険者を雇うかだ。
しかし《剣聖》の名がでれば、皇国の人間ならほぼ断るだろう。
そうなると、俺の様な他国の冒険者を雇うしかない。
「それを期待されて、ヤタローは王国に向かわされたんじゃないのか?」
「……確かに王国に行ったんは、旦那様の指示やったけど」
「そうして他国の冒険者と繋がりを持ちたかったんだよ。ヤヨイさんの為にな」
「……っ!!そうかっ!そうして他国で動いてくれる冒険者と知りおうて……」
「皇国では手に入らない薬や、その材料なんかを手に入れたかったんだろう」
あえて《剣聖》を雇ったという噂を流し、世間に広める。
そしてそれを否定しない事で、さも真実であるかのように思わせる。
しかし実際は《剣聖》を雇ったとは一言も言っていない。
桔梗屋さんは、決して嘘など言ってはいないという訳だ。
「ついでに言えば、ジュウベエは万が一にもヤタローが誰も雇えなかった時の保険も兼ねていたんじゃないのか。その時は面も外して名乗ってたろうけどな」
「……お見事です。そこまで見抜かれているとは思ってませんでした」
ジュウベエが感心した様な声を上げる。
まあ、ヤヨイさんの事が解ってやっと辿り着いた推察だけどな。
「こうして桔梗屋さんは、俺達という他国の冒険者の伝手を手に入れた訳だ」
「だから私達が動く事が、桔梗屋さんの思惑通りになるんですね」
「で、ですがそれは決して悪い事では無いでしょう?」
「……難しいですね。そこまで計画された方の為に動いて良いものか……」
「まあ、難しく考えるな。お前らは正しいと感じた様に動けば良い」
俺がそう言うと、3人は意思を確かめ合うように頷いた。
ああ、お前らはそうじゃなくっちゃな。
「桔梗屋さん、私達はヤヨイさんが助かる方法を探ろうと思います」
「絶対に、とは言えませんができ得る限りの事はするつもりです」
「乗せられた様で面白くは無いですが、気持ちは解りますから」
3人がそう言うと、桔梗屋さんは頭を下げた。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
とりあえずこれで、ヤヨイさんに関する問題は一段落したと言っていいだろう。
後は、今出来る事だけでもやっておこう。
まずは桔梗屋さんとヤヨイさんから、病の事を詳しく聞いてみた。
そしてヤヨイさんの身体を【異常検知】してみた。
しかし意外な事に、ヤヨイさんの身体には異常は見られなかった。
一瞬魔術が失敗したかと思ったが、1つの可能性に思い至る。
もう1度【異常検知】してみたら、今度は異常が見つかった。
ヤヨイさんの病の原因は、身体ではなく魂の異常が原因であった。
「……まずいな、これは。身体の異常なら治しようがあるが…」
「……先生、そんなに難しいんですか?」
「ああ、身体の異常なら最悪、霊薬があれば何とかなるんだが……」
「だったら、フィリアが【ピュリファイ】で浄化したら……」
「やめておけ。魂が汚染されているなら効果もあるが、これはそうじゃない」
「……どういう事ですか、導師様?」
「魂が変質してるんだ。もし浄化できたら、魂が欠けるかもしれない」
下手に手を出すと、取り返しがつかなくなるかもしれない。
今出来る事といったらこれしかないか……
「ヤヨイさん、すいませんが背中に触れさせて下さい」
「あの、カイン様?一体何をされるのでしょうか?」
「……一時的にですが病の進行を遅らせます。動かないで下さい」
俺はヤヨイさんに【異常検知】をかけ、魂の異常箇所を特定する。
そして異常箇所を【固定】し【停滞】させる。
これで少しは時間が稼げるはずだ。
魂の変質を戻す方法を探り、ヤヨイさんを救う。
他国を巡る俺達に、新たな課題が見つかったのだった。




