第65話 最終戦
こうして優勝した俺なのだが、周囲から不満の声が上がった。
曰く
「あのような戦い方は正々堂々としていない」
「陰陽術を用いるなど聞いていない」
「戦い方が潔くない、誇りはないのか?」
などと言ったところだ。
……俺に言わせれば、何を言ってるんだこいつらは、という感じなのだが。
俺が反論してやろうかと思った時、意外な人物が俺を擁護した。
「ごちゃごちゃうるせーぞっ!!いい加減黙れっ、馬鹿野郎がっ!!!」
それはさっきまで俺と戦っていたバイケンだった。
バイケンの一喝で静まりかえる中、彼は俺に向かって話しかけてきた。
「なあ、あんた本職は陰陽師なんだろ?」
「……ああ、俺の国では魔術師と呼ぶけど、そう思って間違いない」
「そうか。……聞いたか、テメーら!こいつは陰陽師でありながら武芸者の間合いで勝負してきた。そこで陰陽術を使う事は恥でも何でもねえ!」
周囲に向かってそう叫ぶ。すると
「……バイケン殿の言う通りだ。陰陽術を使ってはならないという決まりは無い。使うはずが無い、使える訳が無いという思い込みこそ恥じるべきだ」
そう賛同してくれたのはインシュンだった。
「そもそもこいつにとっては、陰陽術すら手札の1つに過ぎねえ。俺らが武芸しか手札が無いのに比べて、陰陽術やらその組み合わせっていう手札を持ってたんだ。その上戦い方まで上手いときたら、勝つのは至難のわざだろーよ」
バイケンのその言葉に周囲が黙り込む。
どうやら俺への非難は止んだらしい。
「……あんた、顔に似合わず意外と良い奴だったんだな」
「うるせーよっ!真っ当な勝者が文句つけられるのが我慢ならねーだけだっての。……それより顔に似合わずってのはどういう意味だ、てめえっ!!」
バイケンが怒鳴るが、手を振りながら3人の元へ向かっていく。
フィリアにバイケンの治療を頼むと、快く引き受けてくれた。
治療中のバイケンが、緊張して顔を真っ赤にする様子に周囲が大爆笑していた。
さて、それでは最後の一戦だ。
旦那様が俺に
「それでは30分後に最終戦を始めます。準備が出来ましたらお呼びしますね」
と言ってきたが
「いや、こっちはすぐでも大丈夫ですよ。さっさと始めませんか?」
と言い返した。すると
「……解りました。会場の整備に10分頂き、その後始めましょう」
こうして、10分後に最終戦が始まることとなった。
10分後、準備を終えて会場の中央に集まる。
対戦相手はまだ狐の面をつけたままだ。
「なあ、あんたそのお面つけたままで戦うつもりか?」
俺が問いかけると、無言のまま頷いた。
どうやら喋るつもりも無いらしい。
旦那様の方を見ると苦笑しながらも頷いた。
そして視界開始の合図が告げられる。
「それでは、最終戦始めっ!」
開始の合図と共に、相手が間合いを詰めてくる。
上段から切りかかってくるがそれをかわす。しかし
「……あぶねーな。まともにやってたら喰らってたぞ」
「……っ!!」
切り下ろした刀が途中で跳ね上がり、再び俺に襲い掛かってきた。
周囲からは俺が切られた様に見えただろう。
しかし俺は幻術を使い、反対方向に避けていた為無傷だった。
しかし
「……【月影】か。ただの偽物って訳でも無いのか……」
「……っ!!!」
俺の言葉に僅かに動揺を見せる。
まあ、勝たないと何も喋ることは無いだろう。
「少し本気で行くぞ。集中しろよ」
そう告げて、本来の俺の戦い方に戻す。
後ろに跳びながら魔弾を連射する。当然【閃光】【轟音】も付与しておく。
なんとか回避しているが、俺との距離が開いていく。
そこに【切断】を付与した魔力糸を横に振るい、地面を削り取る。
周囲を砂埃が舞い、視界が塞がれる。
「何だ、全然見えねーぞ!!」
「2人とも何処に居やがるんだ」
「……っ!!見ろっ、あの野郎上に居やがるっ!!」
周囲がそう騒ぐ中、俺は棒を地面と垂直に立て【伸長】を使って上空にいた。
棒は俺の身体を遥か高く持ち上げ、上空で魔弾の準備をする。
下では相手が俺を見上げ、身体を捻り溜めるような構えを取る。
俺が魔弾を放った少し後、相手が刀を大きく振るった。
「【浮舟】っ!!!」
そう叫びながら放たれた一撃は、魔弾を切り裂きながら上空の俺に迫る。
その斬撃は俺の身体に命中し、そして俺の身体が消えていった。
「なっ!!」
あれだけの大技だ。出来る隙も当然大きい。
幻術の俺が切られたのを見て、俺は魔力糸で相手の後ろから拘束した。
「もう少し注意深く見れば、影が無かった事に気づいたかもな」
「くっ……」
まあ、種明かしをすれば何という事も無い。
砂埃で視界を塞いですぐに、【認識阻害】を使った。
後は棒に【伸長】を使い、幻術で俺と魔弾を見せたのだ。
その間俺は相手を見つけ、魔力糸を用意、隙を見て拘束という流れだ。
まあ、こいつが何者かは後で聞くとして、とりあえずは決着だ。
旦那様を見ると、穏やかそうに笑いながら
「見事です。この勝負カイン殿の勝利です」
そう宣言し、無事婿選びは終了したのだった。




