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第5話 依頼者


「…えーっと、念の為に確認しておくけど冗談を言ってる訳じゃないよな?」


「はい、我が名誉に懸けて一片の偽りもありません」


真剣な表情を崩さないまま、俺の言葉に力強く頷く。


「…解った、話を続けてくれ。世界の危機を防ぐとはどういう意味だ?」


「はい。…カイン殿は勇者についてご存知でしょうか」


「一般常識としてなら知ってる。確か名前は…」


「カレン・フォウ・ベテルギウス。それが今の勇者そして、私の妹の名前です」


「…やっぱりか、アンタの名前を聞いたとき、ベテルギウスってのが引っかかった。それにベテルギウスってのは確か公爵家だったよな?」


「はい。仰る通りです。私はベテルギウス家の二女、そしてカレンは三女になります」


「そういう関係か、…それでその勇者様がどうしたってんだ?」


「はい、…私は今のままでは妹が、魔王との戦いに敗れる、いえ、もっといえば魔王に辿り着く事さえ叶わないだろうと感じているのです」


「…なかなかキツイ話だな、勇者ってのはそこまで弱いのか?」


この話が本当なら、それは世界にとってかなりヤバい話だ。

勇者は魔王をうち倒す唯一の希望だ、それが魔王の前に立つことさえ出来ないとは…


「いえ、まだ未熟ですが素質は素晴らしいものがあります。共に戦う仲間も同様です。現時点でもよほどの相手でもない限り、遅れをとる事は無いでしょう」


「…ならアンタは何故そう考えたんだ?」


…まあ話を聞いて、俺が適任者である事を考えれば答えは見えてくる。

なるほど、勇者様とはずいぶんと正直者のようだな。


「はい、私は何度か妹達の訓練や、実際の戦闘を見た事があるのですが、

…何といいますか、あまりにも戦い方が綺麗過ぎるのです。

正面から敵を打ち破るといえば聞こえは良いですが、搦め手に対する意識があまりにも薄いのです」


「その事に関して本人達はどう言ってるんだ?」


「…自分達は勇者なのだから、正々堂々とした戦いをしなければならない、と

…しかしこれはあの娘たちのせいではないのです。

指南役の方がそのように考えられているのです」


…アホだな、そいつ。もし俺が指南役なら勝ち方なんてどうでもいいから、

とにかく生き残って最終的に魔王を倒せ、と言うだろう。

当然だ、勇者に求められるのは魔王を倒すことであって、正々堂々とした戦いなんぞ二の次、三の次だ。


「その指南役ってのは誰だ?」


「…聖騎士団団長のフィリップ・オーガスト様です」


「…はー、なるほど、そりゃ正々堂々が好きな訳だ。…その様子だともう進言済みか?」


「…はい、もっと搦め手に対する対処を、と申し上げたのですが聞いて頂けませんでした」


なるほど、確かにこれは俺が適任と言うのも納得だ。

この近辺で俺以上に、正々堂々からかけ離れた奴はまず居ないだろう。


「つまり、アンタの依頼ってのは、その勇者達に搦め手の対処法を仕込んで欲しいって事か?」


「はい、ですが正確にいえば、その機会は一度しかないと思います。ですのでその一度きりの機会で、搦め手を使って圧倒的に勝っていただきたいのです。」


…しかしそうなると幾つか気になる点があるな…


「なあ、幾つか確認したいことがあるんだが、いいか?」


「はい、なんでしょうか?」


「まずは報酬について。いくらだすつもりだ?」


「…前金で金貨100枚、成功報酬でもう100枚支払せて頂きます」


「…いや、いくらなんでも多すぎる。この依頼なら100枚でも十分だろ」


「いえ、この依頼を達成出来そうなのはカイン殿以外にはおられません。

私が支払える精一杯の金額になります。なにとぞお願い致します」


金貨200枚か…正直簡単に出せる額じゃない。それに今の口ぶりなら実家が出している訳でもなさそうだな。


「それじゃ、次だ。この事は本人達や指南役、そしてアンタの実家は知っているのか?」


「……いいえ、私の独断です」


「…はー、そこは嘘でも、了承済みですって言っとけよ。正直すぎるだろ」


「…済みません。元々要らぬ迷惑をかけるのです。せめて嘘だけはつきたくないのです」


「なら、この件で俺が処罰される可能性はあるか?」


「いえ、それだけは絶対に無い様にします。カイン殿にこれ以上の迷惑はかけられませんから」


そういって、少し自虐的な笑みを浮かべた。

…全く、自分に得なんて無いだろうに良くここまで…お人よしにも程があるだろう。


「…じゃあ最後に、これまでの話を聞けば、俺が勇者達と戦うのはかなり難しそうだが、大丈夫なのか?」


「はい、一度きりならば間違いなく可能です」


何らかの方法で了承を得られるのだろう。

…全く、金は殆ど報酬につぎ込んでるだろうし、実家の助力も得ていないだろう。

そうなると手は限られる。美人の公爵令嬢となればほぼ決まりだろう。


「ひとつ条件がある。報酬は成功報酬だけでいい。

そのかわりアンタには俺の願いを叶えて欲しい」


「…願いですか?それはどの様なものですか?」


「今は言えない。依頼が終わったあとに言うよ」


「…ですが、どの様な願いか解らないのでは…」


「アンタが叶えられない願いは言わない。どうしても無理なら断ってくれていい」

「…解りました。その条件でお願い致します」


「ああ、これで契約成立だ、よろしくな」


「はい、どうかよろしくお願いします」


さてそれじゃあお仕事だ、勇者様を叩きのめしにいこうか。


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