第53話 貴女への贈り物
こうして竜の涙を王妃様に預けて、1ヶ月が経った。
その間俺達は変わらず、訓練と依頼をこなす日々を過ごす。
今日もまたグリフォンの討伐を終え、王都に帰還するのだった。
依頼達成の報告に、冒険者ギルドに顔を出すとミュシャが声をかけてきた。
「ああっカインさん!お帰りなさい。お待ちしていましたよ!!」
「お、おう、ただいま。…どうした、やけに気がはやってるみたいだけど…」
「これがはやらずにいられますかっ!!ギルドマスターからの伝言です。
『例の物が完成した。王城に行って受け取って来い』だそうです」
「…!!そうかっ!解った、ありがとうなミュシャ!!」
「いえ、早く行ってあげて下さい。報告と精算はこちらでやっておきますから」
「ああ、それじゃこいつを頼む。明日にでも取りに来るから」
「…はい。いってらっしゃい、カインさん」
ミュシャに討伐証明部位を渡し、俺達は王城へ向かう。
門番に、王妃様に会いに来たと告げると、しばらくの間待つように指示があった。
その後、面会の許可が出た事を告げられ、部屋まで案内された。
「…皆、よく来ましたね。待っていましたよ」
部屋では、王妃様と以前に同席した2人の騎士が待っていた。
こちらを代表してカレンが王妃様に話しかけた。
「…ユースティア叔母様、お願いしていた物が完成したと聞いたのですが…」
「ええ、こちらです。とても見事な品です。貴女もご覧なさい」
そう言って王妃様は、やたらと高そうな宝石箱を手に取りカレンに手渡した。
渡された宝石箱を開けるとそこには
「………綺麗……」
「……凄い、こんなの初めて見た…」
「…本当に、この美しさは言葉で表現出来ませんね…」
「…ええ、私が見た中でも最高の逸品です。これほどの品は2つと無いでしょう。任せた職人も、久しぶりに満足のいく仕事が出来たと喜んでいましたよ」
そこには俺の目で見ても解るほどの、素晴らしい出来のネックレスがあった。
決して派手すぎず、しかし気品と風格を兼ね備えたそのネックレスには、竜の涙がその輝きを放っていた。
「……正直羨ましい程です。ですがこのネックレスを身に着けたあの娘は、とても美しいのでしょうね…」
そう言って王妃様は、慈しむような優しげな笑顔を浮かべた。
「さあ、早く持って行きなさい。こんな素敵な贈り物をされたら、きっとあの娘は泣いてしまうわね」
王妃様に、何処か悪戯ッぽそうな笑顔でそう言われ
「「「はいっ!!!」」」
元気よく返事をして、彼女の元は向かった。
部屋の前に立ちノックをする。
「カインです。入室してもよろしいでしょうか?」
「ああ、入ってくれ」
返事を貰い入室する。
…後ろの3人、俺の敬語が珍しいからって笑いを堪えるな。
部屋の中には、クローディアが1人いた。
「よく来てくれたな、……おや、3人ともどうしたんだ?」
俺についてきた3人を、不思議そうな顔で見るクローディア。
そして俺達を代表してカレンが話しかけた。
「あの、クローディア姉様。ご婚約おめでとうございます」
「…ああ、ありがとう、カレン。お前にそう言って貰えるのはとても嬉しいよ」
そう、実は先日、クローディアの婚約が決まったのだ。
元々王国軍の中でも高い人気を誇っていたが、家柄と今の勇者指南役のせいで中々そういう相手が現れなかったのだが、意外なところから相手が現れた。
それはある侯爵家の跡取りなのだが、年は1歳年上で性格は超が付くほど真面目。ずっと仕事一筋で女性関係で浮いた噂もない、そんな男性だった。
普通は婚約者がいそうなものだが、この男性は本来跡取りだった兄が急死した為、急遽跡取りとなったらしく、そういった話とは無縁だったそうだ。
兄を支える為努力を重ねてきたのだが、自身が跡取りとなると話が変わる。
侯爵家にふさわしい家格も求められるし、相手も限られる。
そんな中、俺の最初の依頼の話を聞き、クローディアに興味を持ったらしい。
本人は完全に官僚系なので、軍事系のクローディアとの面識は無かったそうだが、妹を守る為にわが身を犠牲にしようとした、その有り方に敬意を抱いたそうだ。
そして実際に会い話をしてみれば、その美しさと誇り高い生き様に心奪われ、すぐに婚約を申し込んだそうだ。
急に言われたクローディアは断ったのだが、それでも諦めずアプローチし続けた。周囲の人間からは、諦めろ、お前じゃ釣り合わない、分を弁えろなどと言われたが決して諦めなかった。
1年以上も態度を変える事がなかった彼に、クローディアも心動かされたらしく、約1ヶ月前に婚約が決まったそうだ。
まあ、実際の結婚は今の情勢が、もう少し落ち着いてからになるらしい。
「…クローディア姉様。実は姉様に贈り物があるんです」
「…贈り物?私にか?」
「はい、私達全員と、陛下と王妃様にも協力して頂きました」
「……なにやら凄そうな感じがするな。どんなものなんだ?」
「はい、こちらです」
そう言ってカレンは宝石箱を手渡した。
宝石箱を開け、中のネックレスを見たクローディアは
「………凄い。……なんて綺麗なんだろう…」
と、その美しさに見惚れていたが
「……!!だっ、駄目だっ!こんな物は受け取れないっ!!」
と受け取りを拒否してきた。
「こ、こんな凄いものは受け取れないっ!私など身に余ってしまう!!」
などと言ってきたので俺は
「…それは俺達が、お前を祝福したいと贈るものなんだ。受け取って貰えないのか?」
と言ってやると、困った顔をして黙ってしまった。
更に追い討ちに
「…姉様、受け取って貰えないのですか?」
「…喜んで頂けると思ったのですが…」
「…残念ですね。こんなにご迷惑になるとは思いませんでした…」
と3人の落胆した様子が、クローディアの良心を咎めたようで
「…済まなかった。余りにも立派な品なので気後れしてしまっていた。皆の気持ちはとても嬉しく思っている。ありがたく受け取らせて貰うよ」
そう言って笑顔で受け取ってくれた。
それを見て3人がクローディアに抱きついた。
クローディアは少し驚きつつ困ったような、それでいて優しさに溢れた顔で3人を受け止めていた。




