第51話 水竜との戦闘
3人は釣り上げられた水竜に先制攻撃を与えていた。
「はああぁぁぁ!!【雷迅一閃】!!」
「…いけっ、【フレイムピラー】!!」
「……喰らいなさい。【フレイムランス】!」
まずはカレンが【縮地】からの【雷迅一閃】で水竜を切りながら駆け抜ける。
サイクロプスとは防御力が段違いなのだが、それでも深い傷跡を残していた。
少し遅らせてルミラが【フレイムピラー】で炎の柱を複数出し、水竜の動きを封じる。
更にフィリアが【連鎖法】で威力を高めた青い【フレイムランス】で追撃した。
「グギャアァァァァ!!!」
一気の猛攻に水竜は大ダメージを喰らったが、まだまだ健在だ。
遠くにいるルミラとフィリアに高圧縮した水を吐こうとするが
「させないっ!!【ファランクス】!!!」
気配を察したルミラが近づきながら、【ファランクス】で水竜の横っ面を張り飛ばした。
いきなり横っ面を張られた水竜はあらぬ方向に水を吐き出した。
また出来たその隙に、カレンが再び【雷迅一閃】で切りかかり傷を増やしていた。
水竜は今度はカレンに狙いを変え、尻尾での一撃を繰り出しカレンを狙うが、
冷静に【縮地】で距離をとっていた。
その攻撃の隙にフィリアが【フレイムランス】を放ち、ダメージを重ねてゆく。
「…シャアアァァァァ!!!」
自身の不利を悟ったのか、威嚇の咆哮をあげその隙に水中へ戻ろうとする。
3人からの攻撃を喰らいつつも、撤退を優先している。
何とか水辺にたどり着き、水中に戻ろうとしたが…
「…残念ながらそうはいかないんだよな。お帰りはあちらだ」
俺の付与した【進入不可】のせいで水の中に入れない。
戸惑っている水竜にまた魔力糸を巻きつけ、同じ様に壁まで引き戻す。
壁に叩きつけられた水竜がそのダメージで崩れ落ちる。
そこに3人が攻撃を加え、それが止めになった。
水竜から《迷宮主の証》を回収しようと近寄ると、青く透き通った美しい宝石が落ちていた。
「…珍しいな。竜の涙なんてレアアイテムが出るなんて…」
「…先生?どうしたん…!!何ですか、その宝石は!!」
「…こんな綺麗な宝石、初めて見ました」
「…はあ、何と言いますか、凄く風格がありますね」
竜の涙は、ドラゴンを倒した時に極稀に落とすレアアイテムだ。
宝石としての価値は最上級で、王族でもそうそう持ってない逸品だ。
蒐集家に売りつければ、一生働かなくても暮らせる金が手に入るのだが…
(…それだけにパーティーが手に入れると、崩壊の原因になるんだよな…)
売った金額を人数で頭割りするのが一番揉めないのだが、売らずに所有したい奴、活躍の度合いで分け前を変えようとする奴、王族に献上して功績を積みたい奴と、意見が割れて崩壊したパーティーの噂は事欠かない。
「…マジでどうすっかなー。売って金にしたいって事は無いだろうしな」
当然、こんなレアアイテム1つしか落ちてない。
そして俺を含め、金に困っている訳でもない。
そうなると誰かが所有するか、王族に献上するかなのだが…
「…なあ3人とも、これは陛下に献上したいんだが構わないか?」
「…私は構いませんが…何か理由があるんですか、先生?」
「これだけの宝石ですから、献上品としては文句無いでしょうが…」
「…正直惜しい気持ちはありますね。これだけの逸品でしたら…」
「ああ、理由はちゃんとある。いいか…」
俺はこの宝石の価値と、パーティーの崩壊の話をした。
そして俺達のパーティーにとっての最善は、
「誰かが所有してもトラブルの種にしかならない。手に入られなかった奴には不満が残るし、王族から見ても王家を差し置いて、そんなものを所有しているのは気に食わないだろう。だったら献上するのが1番問題になりにくいんだ」
そう説明すると、3人も納得してくれた。
「それじゃ、クローディアを通して陛下に献上する様に手配しとくからな」
「…ああっ!!ちょ、ちょっと待ってくださいっ、先生っ!!」
意見が纏まったのでこの話題を締め括ろうとしたら、カレンから待ったが入った。
「…いきなりどうした、カレン。何かあるのか?」
「は、はい。あの先生。その竜の涙を譲って貰えないでしょうか?」
「…どうしてだ?さっき陛下に献上することに賛成しただろう」
「…はい。実は……」
カレンはその理由と使い方を、俺達に説明した。
それを聞いて
「…ああ、それなら納得だ。その使い方なら文句は無い」
「むしろそれ以外に無いでしょう。私も賛成です」
「ふふっ、もちろん私もですよ。喜んでくださるといいですね」
「……みんな、ありがとう。私の我儘なのに…」
「…そうなると陛下の許可も必要だな。…帰ったら全員で会いに行くか?」
「「「はいっ!!!」」」
こうして竜の涙の使い道が決まった。
……さて、今からどんな顔をするか楽しみだ。




