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第4話 冒険者ギルド


しばらく歩いた後、冒険者ギルドに到着した。

今の俺にはこの3階建ての建物に入るのは、お宝は無いのに危険度の高いダンジョンに行けと言われるのと大差無かった。


「…はー、めんどくせー…」


「もうっ、カインさん!いい加減覚悟を決めてください。ここまで来たんですからさっさと済ませちゃいましょう!」


いまだにノリ気でない俺に、ミュシャからのお叱りの声が飛んでくる。

…いや、解ってはいるんだ、いるのだがアイツが絡んだことで厄介事で無かったためしが無いことも、十分解っている俺にやる気を出せというのも無理な話なのだ。


「ほらっ、依頼の達成報告と精算がまだでしょう?こちらでやっておきますから、その間にギルドマスターに会いにいってください」


「…はー、解った、行ってくる。帰りに寄るからよろしくな」


「はいっ、いってらっしゃい」


ミュシャに笑顔で見送られ、3階にあるギルドマスターの部屋へと足を向けた。

途中、知り合いの冒険者や、ギルド職員と軽く挨拶を交わしながら、とうとう部屋の前へと辿り着いた。

軽く気配を探ってみると、部屋には筋肉ダルマ以外にもう一人居るようだ。


(…うーん、来客中なら避けた方がいいか?でもここまで来て会わなかったら、ミュシャに何言われるか解らんしな…)


数瞬悩んだが、まあ駄目な様ならまたにすればいいだろうと思い扉をノックする。


「カインだ。入ってもいいか?」

「おおっ、やっと帰ってきたか、構わんぞ。さっさと入れ」


野太い声で入室を促され、扉を開き部屋へと入ってゆく。

ギルドマスターにふさわしく部屋はかなり広い。

奥には執務用の机と椅子に座る筋肉ダルマ、その手前には応接用のなかなかに高級そうなテーブルとソファーがあり、そこには一人の女性が座っていた。


女性が顔をこちらに向ける。

年は20台半ばぐらいだろうか?

相当な美人だが見覚えは無い。

なかなか腕が立ちそうな雰囲気の持ち主だが、冒険者というより騎士や軍のお偉いさんの様に感じられる。


俺は一瞬でこの状況を考える。

(…入室を許可したって事は、この人も関係あるってことか?でもって多分貴族か軍絡みの可能性が高い。アイツが俺を呼んだってことは、公には出来ない事情があるってとこか…うん、どう考えても厄介事以外ないな、関わっちゃ駄目だコレ)


そう判断した俺は


「ああー、すいません。部屋を間違えました。それでは失礼します…」


速やかに退散を決め、立ち去ろうとしたのだが、それまで奥の執務椅子に座っていたはずの筋肉ダルマが、一瞬にして俺との間合いを詰め腕を掴む。


「おいおい、何処に行こうってんだ?おめぇはよう?」

「…相変わらず、人間離れしてんな、アンタも…」


この筋肉ダルマこそ、俺がこの国で最も関わりたくない人間、ぶっちぎりのNO1である。

名前はガラハド。

年齢は50前だったはずだ。

超人的な身体能力を持ち、己の武器はこの身体のみ、をモットーに言葉通りの鉄拳で並み居る敵をブン殴り続け、王都の冒険者ギルドのギルドマスターにして、世界に5人しかいないとされるSランク冒険者にまで上り詰めた筋肉バカである。

信じがたい事だが、紛れもない事実なのだ。

本人にギルドマスターの自覚があるようには見えないくせに、やることは意外にも的確という判断に困る人物で、俺が王都に来てから関わった厄介事全てにコイツが絡んでいたという、俺にとっての厄病神だ。


(…くそっ、逃げ損なった。どうする?本気出せば逃げられるが…)


しかし本当に逃げる訳にもいかない。

ここで逃げれば、俺はギルドマスターの顔に泥を塗る事になる。

正直コイツの顔になら、いくらでも泥を塗りたくってやりたいが、それをすると冒険者ギルドから出入り禁止を食らうだろう。

こんな奴でもギルドマスターの肩書きにはそれなりの権力があるのだ。


「…おい、筋肉ダルマ、確認させろ」


「…なんだぁ、言ってみろ」


「あれが依頼人か?」


「そうだ」


「じゃあ、俺が依頼人から話を聞いた上で依頼を断る事は出来るか?」


俺がそう言うと、女性が一瞬反応する。

そして筋肉ダルマはさも嬉しそうにこう言った。


「何言ってんだ、おめぇ?出来る訳ねえだろう」


「やっぱりそうなんじゃねえか!!そんな事だろうと思ったから、何も聞かず出て行こうとしたんだろーが!!」


「はっはっはっ。バカ言ってんな、せっかくのこのこやって来た生贄、逃がす訳ねーだろ」


…うわぁ、コイツマジか?本人を目の前に隠す事無く生贄って言いやがった。

いいのか?本当にコイツがギルドマスターでいいのか?

などと俺たちがアホなやり取りをしていると、不安になったのか、女性が話しかけてきた。


「あ、あのっ、ガラハド様?」


「おう、コイツが話してた適任者って奴だ。ひねくれもんだが腕は確かだ」


「…そうですか…この方が…」


そう言って俺の方に目を向ける。

どこか値踏みするような、それでいてすがるような視線だ。


それを見て俺は筋肉ダルマに真面目な口調で問いかける。


「…なあ、今言った適任者ってのマジか?」


「おう、大真面目だ。今回の依頼、おめぇ以上の適任者は居ねぇ」


「…はあ、解った。手離せ。話を聞く」


「おっ、ようやく観念しやがったか。まったく、手間取らせやがって…」


まだ喋っている筋肉ダルマを無視して、女性の反対側のソファーに腰掛ける。

戸惑った様子で女性が話しかけてくる。


「……あの、よろしかったのでしょうか?」


「…ああ、不本意だが、コイツが俺を適任者だと言ったのなら、そこを疑う余地はねえよ。・・それならさっさと依頼を済ました方がまだマシだからな…」


俺の言葉の真意を探っているのか、少し考えこんでいたようだが意を決し話し始めた。


「…はじめまして、私は、クローディア・ルウ・ベテルギウスと申します。王国軍で千人隊長の地位にある者です」


「…カインだ。Aランク冒険者の魔術師だ」


軍の関係者の方か…しかし女性で、しかもこの年齢で千人隊長とは相当に優秀なのだろう。

…ん?ベテルギウスって家名はたしか…


俺の疑問を遮るようにクローディアは、真剣な眼差しでこう告げた。


「カイン殿!…急にこの様な事を申し上げると、気でも触れたかと思われても仕方ないのですが、お願い致します!!…どうか、世界の危機を防いで下さい!!!」


…クローディアが発したとんでもない話に、俺は逃げ出さなかった事を死ぬほど後悔するのだった。


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